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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第二章 敵を知る
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第23話 待ってろよ、お兄ちゃんが助けてやるからな

 風が吹き荒れる中、お互いが正面に直る。

 辺りは先ほど隠れていた岩以外は殆ど何もなく、開けた状態。

 ストーリー・テラーとの闘いにより、周辺の木々が殆ど吹き飛んでしまった為だ。


 そんな戦いの為に用意されたような更地の奥で、ニアは冷え切った様な無表情でナイフを構えている。


 待ってろよ、ニア。今から助けてやるからな。

 体中に渦巻く決意、煮えたぎる怒りとは対照的に、場の空気は冷え切ったように静かだった。

 

 瞬間。

 ニアがナイフを逆手に持ち、俺達へ直進する。


「よし、バハムート。作戦通りに行くぞ」


「任された!」


 両手を前へ広げ、スキルを発動する。

 体の一部が流動してバハムートに集約すると、燃えるような赤髪、竜人化による背中の翼は毒を象徴するような青紫へ変色していった。

 そして、2人の瞳は全てを喰らう者(ブラック・ホール)によりそれぞれ漆黒に染まり、視界は生体反応の感知へと切り替わる。

 

 後はニアを迎え撃つだけだ。


 偶像作家(ストーリー・テラー)の効果なのだろうか、やはりいつものニアより強化されており、常人離れした動きを見せた。

 一度体を前へ傾けたかと思うと、一瞬で目の前に刃が迫る。


「うおっ」


 後方に逃げて距離を取ろうとするが、執拗に追っかけまわされて一向に離れてくれない。挙句無茶苦茶にナイフを振り回してくるので斬撃が何度も目と鼻の先にやってくる。その時、


「うおっ!?」


 あっぶねえ、顔を掠めた。一歩遅れてたらヤバかった。

 かと思えば、隠し持っていたもう一本のナイフを取り出して真一文字に一閃。

 真っ二つに切られた俺の体は液体になって崩れ落ち、ニアの背後に回って形を取り戻す。


「ちょっと我慢してくれよ」


 鞭のように振るった拳がニアの背中へ触れようとした。後は麻痺させて動きを止めれば……が、薄い透明の壁がそれを妨げる。

 散々嫌な思いをさせられたあの障壁だ。


 その隙を突いて滑空していたバハムートが急降下し、飛び蹴りを当てる。障壁に阻まれた、やはりびくともしない。


 俺らが攻めあぐねているのを見て余裕を取り戻したのか、無表情をくしゃくしゃに崩し、醜い笑みを向けた。


「こんな小娘でもこの安定性! やはり私の能力は無敵だ!」


 機嫌をよくした奴は再び俺達へと切りかかる。

 止まらないナイフの応酬にヒュドラの炎まで追加して来やがった。距離を詰められないよう注意しつつ途中途中で隙を狙うが、避けるのに精一杯で攻撃する暇すらない。


「どうかね!? 愛しの妹は立派に強くなっただろう。それは全てこの私、ストーリー・テラーの力によるものだ!」


 全身から九つの竜の顔をした炎が顕現する。

 それは遠く離れた周囲の木々や舞い散る木の葉を粉末の炭となるまで焼き焦がし、暴れるようにニアの後ろでうごめいていた。


 距離を詰めた炎は、手足のように俺達へと接近。触れたら致命傷になる為、攻撃は諦めて最低限距離を取る形で応対する。

 バハムートも俺と同じくヒュドラの炎に苦戦を強いられているようだった。


 次第に攻撃回数が増えて、炎に混じってナイフの斬撃も飛ぶようになる。

 どうにか受け身でしのぐが、いよいよ液状化が間に合わなくなり、何発か直撃。

 結果、体中に激痛が走ったせいで、命綱である目に掛けた全てを喰らう者(ブラック・ホール)も解除されてしまった。

 

 早く元に戻さなければ、詰む。

 スキルを再発動しようとした――その時、


「……ちくしょう」

 

 感じてしまった。右腕に伝わる気味の悪い生暖かさを。


 

「気づいていないと思ったか? その黒く染まった目の正体を」


 

 くしゃくしゃな顔で歪な笑みを見せるニア。その顔が耳元でねっとりと囁く。


「その暗闇が光を閉ざしているのだな? どうりで防がれる訳だ」


 万力みたく腕を握られ、ミシミシと骨の潰れる音がした。


「うわあああああああああああ!?」

 

 痛みに苦しむ俺を見て、さらに苛烈な笑みを浮かべる。


「貴様の正解だ、このスキルの正体は光と音。それを経路にあらゆる生物を乗っ取ることができる」


 饒舌に語り、俺を掴みながら、バハムートの攻撃を軽く往なすニアの体。


「だが、誤算だったな。気づいていないだろう? 仲間を鍛えたのか、貴様自身の力が弱まっていることを」

 

 よく言えば協力プレー。

 しかし、太刀打ちできるのがフルパワーの俺しかいない場合、それは最悪の一手となる。


 弱った俺を手中に納めれば、後はバハムートにかけた強化を解いて全員なぶり殺し。これでおしまい。

 誰が見ても、詰んだ。


 ストーリー・テラーは弱り切った俺へ目を合わせ、醜悪な笑みを浮かべながら


「私の勝ちだ、ニュー・ビー」


 出会った時のように再び闇が俺を包む。

 全てが黒く染まった後、ニアに潜んでいた光が意気揚々と瞳へ照準を合わせる。


 光がおぼろげに光り、ゆっくりと瞳へと吸い込まれ――

 

 

 この時を待っていたよ、ストーリー・テラー。


 

 瞳に触れたその瞬間、俺の姿は発散。


「な、何だ一体」

 

 俺が消え、代わりに現れたのは鏡。

 全てを生み出す者(ホワイト・ホール)で作った等身大サイズ。


 想定外の結果にストーリー・テラーは慌てて光を納めようとした。が、光の性質上、一度進めば吸収されない限り止まりはしない。

 散りばめられた極小の鏡達により、光は想定通りの軌道で乱反射を繰り返す。


全てを喰らう者(ブラック・ホール)


 対象はあの光。

 ストーリー・テラーの闇を上書きするように塗りつぶし、するすると乱反射する光へと纏わりつく。

 そして、闇が完全に光を覆いつくした後、圧縮に圧縮を重ね、最後には真っ黒な平版になってしまった。

 平板に対し、右手を(かざ)す。


「これで、終わりだ!」


 握った右拳に呼応して、平板は燃えカスレベルにすりつぶされた。

 ストーリー・テラーも巻き添えにして。

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