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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第二章 敵を知る
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第17話 ずっと会いたかった

 魔族の姿に変化し気絶した少年をおぶりながら、俺達は森からの脱出を急いでいた。

 

 さっきまで魔物達が襲い掛かって来なかったのは案の定トラップ。俺達がこの森を離れようとすると、静止してた魔物達が嘘みたいに激しく暴れ始めたからだ。


 そういう流れで現在、視界に現れ次第そいつらを蹴散らして外を目指しているわけだが、


「あのぉ……」


 えらくよそよそしい竜。


「どうした?」


「ゴシュジンが強すぎて全く緊張感がないのだが!! 少しは手加減しないか!?」


 こんな状況で何を言ってるんだお前は。

 空いた口が塞がらない俺をよそに、竜の愚痴はヒートアップ。


「この展開は普通敵に囲まれて絶対絶命!? とか、三人で協力して切り抜けるしかない!! とかそういう熱いストーリーが用意されている!! それを克服してこそ新しい絆が生まれたりだとか、そういうイベントが生まれるというのに。それなのに、なんだこのぬるま湯は!?」

 

 命がけの脱出劇に遊び心期待するなよ……確かにあっけないけどよ。全部蛇の叡智(アクレピオス)のおかげなんだから、緊張感くらいは持とうぜ。

 自分で言うのもなんだが、他力本願過ぎて泣けてきた。


「お兄ちゃん、これは夢?」


 目が点のニア。

 夢じゃないよ、現実だよ。かえってこーい。


 さっきの慌てっぷりが嘘みたいに気の抜けたチーム・ニア。絶体絶命だというのに、俺たちの空気は随分と呑気だった。現実逃避しちゃいけないよ。こんなんでも、ちゃんとピンチなんだからね。


「というか、敵は殺さないんじゃないのか? ゴシュジン」


 心底不思議そうに尋ねる竜。

 どうやら、俺は一切の殺生をしないと思われているらしかった。

 

「あの野郎が仕掛けたならきれいに除去しないと気が済まん」


 奴の息が掛かっている以上、不易な殺生の対象外だ。

 少しでも残したら、何されるかたまったもんじゃないからな。


「そ、そうか……」


「どうした?」


「い、いや。何でもない」

 

 元来た道を戻っていくうちに、森に差す光が明るくなり始めた。やっと出口だーって思えたのも束の間、現れたのはアホ程大量の魔物達。少なくとも百体以上が暴れ散らかして、飛び交っている。


「ギ?」

 

 内、一体と目が合った。

 瞬間、わきめもふらず全員が発狂と共に押し寄せて来た。目を疑いたくなる位とんでもない迫力だが個々の強さは分かってる。当然、容赦なんてしない。


分子停止領域(アブソリュート・ゼロ)


 魔物達は一瞬で全身氷漬けにされ、機能停止。

 その後、滑空中に固まった虫型の魔物達が一様に墜落。地面にぶつかると粉々に砕け散った。


 もう誰も襲ってこない事を確認し、再び先を急ぐ。


「お兄ちゃん、アレ!!」


 ニアが前を指さす方向から、快晴の空がほんの少し見え始めた。もう少しで外に出られる証拠だ。

 逃げるピッチをさらに上げて、


「このまま突っ切るぞ!!」


「おう!!」


 背後や周辺から追いかけてくる魔物達を置き去りに、光の先へ突き進む。

 出口が見えてきて、外へたどり着くと――


「ギィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 森の中と同じ位に、外でも大量の魔物が待ち伏せしていた。それも、空がまだらにしか見えない位。

 どんだけいんだよ!? 無限湧きもいいとこだ。


 さすがに襲われ続けるのもイライラしてきたし、追っかけ回されるのも癪だし、逐一対応するのも面倒だ。


 全員蹴散らす。

 毒の領域を限界まで広げて、

 

分子停止領域(アブソリュート・ゼロ)!!」


「ギッ……」


 再び氷結。

 自由落下で粉々になっていく氷塊を避けながら先へ進む。敵の生体反応も消えたから、あとは飛べそうな所を見つけてさっさとここを抜けるだけだ。


「バハムート、すぐに飛べる準備だ!!」


「任せろ!!」


 さっき除去したはずの赤い斑点がまたポツポツと増えていく。

  

「今だ!! ニア、腕に掴まれ!!」


「オッケー!!」


「しっかりつかまるのだぞぉ!!」


 俺達が腕につかまったことを確認すると、バハムートは背中から翼を出し、大きく(あお)ぐ。そのまま、グンッと急上昇。

 

 しつこい魔物達もさすがに竜の飛翔速度には追いつけないのか、あっという間に点程にまで小さくなり、探知対象から外れていった。追っかけてくる様子もない。


「撒けたか……?」


「ワシも嗅覚で探知した。問題ないと思うぞ」


「つまり、もう大丈夫ってこと?」


「そうだな、一先ず脱出成功といったところか」


 やっと一息が付けたが休んでいる暇はない。テレンガの里が危ない。村人全員グルの可能性もあるが、もしそうでない場合、依頼を頼んだ女が住民に何かをしてる可能性もある。


 奴に包囲されている以上、もし生き残りがいたとしても殺される可能性が高いからだ。都合の悪いものを残しておく道理は無い。早くしないと大変なことになる。


 間髪入れず、俺達はテレンガの里を目指すことにした。


「ねぇ、お兄ちゃん」


「何だ?」


「あれがお兄ちゃんの敵なの?」


「そうだ。何の罪もない人を操って、無理矢理人殺しさせるクソみたいな奴でな。アレを放っておいたら世界がいよいよ大変なことになる」


「……そっか」


 そう言うと、ニアは黙りこくってしまった。

 心配になり何度か様子を伺ったが、結構へこんでいるようで、様子は変わらない。


 正直言ってほっとした。

 深掘りされるよりマシだったからだ。もしニアが関わってしまって、ひどい目にあわされたら正気じゃいられない。

 きっとどこかで話すことにはなるんだろうけど、余計に関わらせたくない。


 それからはお互い無言が続いた。

 そして、


「着いたぞ!!」


 バハムートの声でようやく我に返った俺は、空からテレンガの里を眺める。

 これは――


「何だ? アイツら、ワシらを見ている」


 農具や商品やらを手に持ってこちらを凝視する里の人達。

 空の上なのだからまだ遠く離れているのに、目線は全て俺らに向いている。


 明らかに様子がおかしい。


 途端、生暖かい何かが体を包み込む。

 とてつもない悪寒が背筋に走り、バハムートに急いでその場から離れてもらうが、静寂のみでびっくりするほど何も起きない。


「何だったんだ、今のは……」


「……ッ!? お兄ちゃん。里、見てっ!!」

 

 グイッと引っ張られて、なすがままにもう一度テレンガの方へ振り向かされると


「何だこれは……」


 先ほどまで立っていた人達が、血だまりの中で倒れていた。それも里全体を覆う程、巨大なあるモノを作って。


「これは……召喚術式!?」


 気付いた時には遅かった。術式は赤色の光を放ち発動。

 直後、ガチャリとどこかの扉が開く音。


「――ッ!?」

 

 殺気。

 油断すると潰れる程強烈なヤツが辺り一帯に充満。


「みんな大丈夫かッ!?」


 返事がない。

 焦る気持ちに従って振り向くと、誰も居ない。

 ニアも、バハムートも、おぶっていた筈の少年も全員。いなくなっていた。


 瞬間、気持ちの悪い浮遊感が襲い掛かる。

 その後、今度は吸い寄せられるように地面へと急降下。

 飛んでくれていたバハムートの支えがなくなったからだ。まずい。


 このままだと、死ぬ。


分子停止領域(アブソリュート・ゼロ)ッ!!」


 足裏で空気を氷結し臨時で足場を作成。

 どうにか、墜落は避けられた。


 一瞬の事態に舌打ちし、もう一度全員を探す。やはり誰もいな――


『ふふ、やっと会えた』

 

 ――後ろッ!?


 耳元からの声に思わず振り向くと、


「いない……」

 

 誰もいない。何もしてこない。

 隠れている? 奇襲を狙ってる?


『つれないよねぇ。せっかく数少ない仲間だっていうのにさ』


 ……姿を出す気はないわけね。


「顔も見せない。人をハメようとする。そんなんでよく言うな」


『ただのじゃれ合いじゃないか。気を悪くしないでくれ』


「三人はどうした」


『ちょっと眠っているだけさ。大丈夫、危害を与えるつもりはないよ?』


 キッキッキッ。

 立ち込めるおそろしく奇妙な笑い声。

 同時に時空が裂け、そこからゆっくりとソイツが姿を現す。


 肉をそぎ落としたような細長い図体。その上に不自然にくっつけられた三つの顔。悲しみ、怒り、楽しさの仮面をはっ付けたような異物感。


 人外の見た目をしたソレは、自分の素性を饒舌に語る。

 

『会えてうれしいよ。ニュー・ビー。私の名前は偶像作家(ストーリー・テラー)。しがない物書きさ』

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さいごに、いつも見て頂き誠にありがとうございます。

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