第15話 その高みに至るものは
腹は括った、やることは単純。
蛇の叡智で圧倒して、回復が追いつかない位に攻撃をし続ける。これだけ。
ふぅ、とひと息をつきリラックス。
頭に残すべきは味方を守ること、自分を守ること、敵を足止めすること。
敵を倒すこと。
「皆さん。すみませんが後ろに下がってください」
「ワレもまだ戦えるぞ!!」
「ワシも戦える!!」
「俺も余裕だ」
「右に同じ」
俺にもこんな協力的な仲間が出来るとは。涙腺が緩くなるのがわかる。
本当なら是非とも協力してもらいたい。何カッコつけてんだとか言いたくなるのも分かる。
けど、これはカッコつけじゃない。自分に出来る一番合理的な選択。
アレはまおうサマと同じ位の強さを持っていて、そのクセ倒してもすぐ蘇る一級品にやべえ奴。
強さが同レベルのまおうサマや、次点のバハムート達ではいずれ体力負けすることは明白。
「本当にありがとう、でも」
倒し切るには、俺の夢幻技術しかない。
「ドームの中に逃げてください。こっから先は、制限なしの本気で行かせてもらいます」
頭によぎっていた雑念は消え失せた。最後の保険として裏で毒を生成。それらの準備が整い次第、敵へ直りファイティングポーズ。
『それでこそ夢幻技術に選ばれし者』
それに応えるようにヴァルヘイムが居直る。ギラついた殺気をぶちまけて。
それぞれの圧がぐしゃぐしゃにぶつかりあい、しんと静まった時。
「さぁ、僕を楽しませろ。夢幻技術ゥ!!」
「うるせえ、ぶっ飛ばしてやるからそこで待ってろ」
戦いの幕が開けた。
「形状変化――水」
体を液化させ、地中へと沈下。身を隠す。
それを見たのかヴァルヘイムはしらみつぶしに紫焔をばら撒いた。焼き殺す事に決めたらしい、さっきから床を突き破った焔達が迫ってきてウザい。
そうやって攻撃の数々を避け続け、気配を辿りながらヴァルヘイムの死角を探す。
「どこにいるのかな? 隠れたって無駄だよ。僕には紫焔がある。しらみつぶしに燃やしてしまえばこんなおままごと簡単に――」
そんな暇与えるかよ。
地中から飛び出す。後ろを取った。
大きく振りかぶって、物を投げる要領で腕をぶん投げると、一直線にヴァルヘイムへ飛んで行った。
魔王なだけあって反応が早い。瞬時にヴァルヘイムは腕を察知し紫焔を纏った。触れたら燃やせると思ってのことだろう。
でも駄目だ。そんなんじゃ駄目だ。
俺の攻撃は不可避の速攻よ。
「なっ……!?」
瞬間、飛ばした腕から無数の棘を生成。
その後、棘達を直線に伸ばし、先端に反物質形状記憶鎧を混ぜて発射。紫焔をすり抜け、敵を貫き、穴だらけにした。
信じられない、といった様子で崩れ落ちるヴァルヘイム。
でもまだだ。まだ、こんなもんじゃ終わらない。
着地後、再度生成した棘達を極限まで分解しミクロの弾幕を用意。
ヴァルヘイムは全身に紫焔を纏い守りに徹しようとするが、発射された極小の破片は、炎を簡単にすり抜け敵へと接着。
破片全てが小さな剣となったように、目にも止まらぬ速さで風穴を開け、標的を一瞬で蜂の巣にして見せた。
「くっ、体が重い……」
ちゃんと毒も効かせてるんでね。抜かりはないよ。
「即効性の麻痺毒だ。今からアンタの体はなまくらになる」
「――させないよッ」
解毒し切ったのか、倒れた状態から勢いよく立ち上がると、今度は攻撃範囲に入らないよう俺の周囲を旋回。途中、不規則に体術を混ぜたヒットアンドアウェイで崩しに掛かる。反撃しようとすると、直ぐに身をひいて距離を取る徹底ぶり。
どんな理由があっても安全ラインは保ちたいらしい。
じゃあ、動きを封じればいいんだよな?
ヴァルヘイムの右ストレートが俺へ接着。無理矢理手を引き剝がそうとするが、全く離れない。
「き、貴様……放せッ!!」
「や だ よッ」
大きく振りかぶってボディブローをお見舞い。
無防備のヴァルヘイムは跳弾みたく吹っ飛ばされ、瞬き一つの速さで壁に衝突。
ボロボロになった体は直ぐに傷を癒したが、当の本人は息を切らして立ち上がるのもやっとの様子だった。
「ハア、ハア、ハア……これが夢幻技術」
「こんなもんじゃないよ」
「こんな理不尽な力が……あってなるものかァ!!!!!!!!!!!」
隠していた闘気が空気を震わせると、言葉に出来ない圧迫感、飲み込まれそうな悪寒が体中を駆け巡り、押し潰してくる。
いよいよ本気を出したってところか。
ヴァルヘイムは体に空いた穴を秒で治し、紫焔を纏いながら開いた距離を一瞬で詰めて来た。
「死ねぇええええええええええええええええ!!」
反物質形状記憶鎧は全てを無力化する。
決死の覚悟で仕掛けて来た右ストレートも簡単に中和。無力化された攻撃に顔を歪ませて、再び距離を取る。
それから隙を見て乱打を繰り出すも結果は変わらず、俺には傷一つつかない。
「なぜだ。なぜ、当たらない……!?」
「言う訳ないだろ」
「は、ははは。ふ、ふざけるなあああああ!!」
ヴァルヘイムは振り切るようにその場を離れようとするが、毒液によって掴まれた体は全く動かない。
そのまま、圧縮して極限まで硬化させた拳のラッシュをモロに受け、体に無数の風穴が出来上がり、締めの飛び膝蹴りで天井へと突き刺さった。
「ま、まだだ、今の僕にでもやれることが……!!」
天井を壊して地上に降りると、今度は背中の大剣を取り出し紫焔を纏わせた。
もう考える余裕も無くなったのか、バカの一つ覚えみたいにさっきと同じ要領で接近、今度は大剣の斬撃も加えてきた。
当然、全てすり抜ける。
「うわあああああ!! 来るなあああああああああああ!!」
顔面蒼白で闇雲に大剣を振り回すが、一切効いていない。
振り下ろして隙ができたタイミング、俺は右手で刃を作り大剣を握る両手を両断。地べたに転がり落ちる敵の大剣を奪い――
「融解」
自慢の大剣が水のように溶けてしまった。その光景に立ち尽くすヴァルヘイム。
夢幻技術の理不尽さは、ヴァルヘイムから完全に戦意を奪い去った。
「ゴシュジン、その調子だあ!!!!」
「やっちまえー!!」
歓声に煩わしさを覚えたのか、ヴァルヘイムは目標を変え、バハムート達目掛けて突っ込む。
通すわけないだろ。
伸ばした手でヴァルヘイムの頭を鷲掴み、バハムート達に接触する寸前でヴァルヘイムは静止。
「あ、ああ……いやだ」
「アンタの相手は俺だ」
「や、やめっ……!?」
伸びた腕を元に戻すと、巻き戻しみたく強制的に俺へと引きずり込まれる。手繰り寄せた引力とトドメの右ストレートによる暴力がヴァルヘイムの顔一点に集約。
衝撃が逃げず全て伝わった結果、敵の顔面はこなごなに砕け散った。
「グハッ……」
ぐちゃぐちゃになった顔面で、ゆらゆらと立ち上がる。持ち前の回復力で元の綺麗な姿に戻っていくが、その顔は恐怖で怯え切っていた。
こちらは攻撃態勢を止めているのに、全く仕掛けてこない。もう距離を取ることしか考えられていない。
ヴァルヘイムは戦意を失い、もはや怯え切っていた。
最後の技を使うまでもなく、敵の心を完全にへし折った瞬間だった。
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