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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第五章 希望の光
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第4話 竜は主人の足跡を辿る

「もしもーし、もしもーし!?」


 竜は気絶した魔族の少年の頬をぺちぺち叩いてみる。しかし反応がない。今まで関わって来た人間がどれも強者揃いだったせいで、自身の存在感が一般人相手にどれほどの影響を与えるのかをすっかり忘れていた。


「こんな所で寝られても困るぞ、せっかく話が出来るヤツに会えたというのに」


 竜は焦っていた。今すぐにでも主に関する手掛かりを見つけ、助けに行かねばならないというのに、こんな所で足止めされては進む物も進まない。


「うーむ、うーむ……こんな時ゴシュジンやイモウト殿ならどうする」


 短い間だったが色々あった。時には呆れられ、窘められ……主の妹君からは怒られ、拳骨され――思い返せば散々な過去だ。しかし、最後には反省を一緒に考え、褒めてくれる。そうやってちゃんと自分と向き合ってくれることも知っている。そんな二人なら、一体どうやってこの状況と向き合うのかを知りたかった。


 そうして竜が導き出した最適解は、


「ゲンコツ、だな」

「ヒィ!! 目覚めました、目覚めましたから!!」

「おお、起きていたのか。ならさっさと返事してくれ」

「さ、さっき丁度目覚めたんです。ゴメンナサイゴメンナサイ、だから命だけは!!」

「は? ワシは御仁に用があるだけだが」

「よ、用って一体なんです? 貴女様みたいな強者にはボクじゃあとても」

「ゴシュジンがどこにいるか知りたい」

「ご、ご主人……誰のですか?」

「ワシのだ」

「ああ、お母ちゃん。ごめんよ、ボクこの人のご主人知らないよぉ」

「キール、という名前の人間だ」

「ああ、お母ちゃん。天はボクを見放さなかったよ。でも、キールって人知らなぁい。やっぱダメだ、おしまいだぁ」


 聞いた奴を間違えたかもしれない、と後悔する竜。しかし、天は竜も見放さないらしい。


「あ、あの」

「どうした」

「良ければ、ウチの村に行って聞いてみてもいいですか」

「なんと! 他に話が出来る奴がいるのか!!」

「は、はい。三十名くらいの村で少ないですが、ひょっとしたら知っている人もいるんじゃないかと」

「何故それを言わないのか!! おお、ゴシュジン。少しだけ貴様に近づけた気がするぞ!!」

「は、はは。まあ誰も知らない可能性もありますけど」

「構わん、構わん。少しでも可能性があれば前進。ゴシュジンならそうするだろう!! さっそく案内してくれい!!」

「わ、わかりました。じゃあ、ここから凡そ一日位かかりますので、少々歩きまー―」

「一日ィ!?」

 

 動揺から抑えるのを忘れた竜の威圧が少年に炸裂。あまりの覇気に、少年は泡を吹いてまた気絶。それに気づいた竜は慌てて威圧を潜めて、頬をぺしぺしと叩いて起こした。


「はっ、ここはドコ」

「さっきから一歩も進んでおらん。とにかく、一日は長すぎる。ワシが飛んでやるから場所を案内してくれ」

「と、飛ぶってどうやって」

「こうする」


 途端、竜の体が赤く光輝く。少年はその煌めきに呆けた顔で見惚れるが、光が消えた瞬間絶句した。

 そこには、爬虫類のような眼光鋭い瞳、悪魔を彷彿とさせる刺々しい翼、伸びた三又のかぎ爪、筋骨隆々で引き締まった体躯。そして、見上げる程に巨大な赤き竜が佇んでいたからである。


『行くぞ、ワシの背中に乗れィ』

「もうワケがわかんないよ……わ、わかりました」


 圧倒された少年は、おずおずと竜の外皮をよじ登り背中に乗る。それを確認した竜は巨大な翼を横一面に広げると、大きく地面へと打ち付けた。すると、その勢いで巨体はみるみる上昇、あっという間に上空へと辿り着いた。


『早速頼むぞ』

『は、はい。では――』


 それから言われた通りの方角を目指して、竜は空を滑るように飛行。人が吹き飛ばない限界の速度で雲海を突っ切る。


『しかし、あのような場所で一体何をしていたんだ。御仁は』

「えっと、仕事を貰いにいこうと思って魔王城に」

『魔王城? 仕事のあっせんということか?』

「は、ハイ。魔王様が多くの人手を必要としているという話を聞きまして」

『城の勢力では足りない程の? 一体何をしようとしていたんだアイツは』

「ボクも肉体労働、としかわかっておらず……すみません」


 魔王城には一個大隊程度の人員は確保されているはずだ。それでも足りないとなると、余程大規模な何かを企てていたのだろうか。しかし、竜には心当たりがない。一年前にはそんな様子、かけらもなかったからである。

 と、すると直近に何かを控えていたのだろうか。何分、今日に至るまでずっと自分の故郷に引きこもっていたせいか、外界の情報は全く耳に入って来なかったのである。

 より一層気になる。一体自分のいない間に何が起こっていたのか。

 

『まあ良い、とにかくワシから言えることは魔王城には近づくな』

「えっ、どうしてですか?」

『あの周辺では戦闘が頻発していてな、常人が出入りしようものなら確実に死ぬだろう。命が惜しくないなら別だが』


 人避けは必要だろうと判断してのことだった。今後あの状態で主が戻ってくる確証はないが、たった一人で城を大破させるなんて主しか思い当たらない。もし、一般人が手を出そうものなら、どうなるかはある程度想像がつく。


『村人たちにも言っておくと良い。可能なら他の村にも共有するいいだろう』

「わ、わかりました」

『あと、集落を見つけた。御仁の言う村とはアレでいいか?』


 竜が右手で指した場所には、巨大な生物の骨を組み合わせて作った建物がポツポツと並んでいた。


「えっ、うそ……合ってます」

『よし、では早速情報収集だ』

 

 竜は直ぐに高度を下げ、地面へと降り立つ。そして人型の姿に戻ると、ひとりでにスタスタと歩き始めた。

 子供とはいえ身体能力の高い魔族でも一日はかかる距離を、会話一つの間だけで消化して見せた竜。

 余りの速度に少年は『りゅ、竜って凄いんだなあ。ハ、ハハ。夢見たぁい』とうわごとのようにつぶやくと、ぎこちない笑みを浮かべながら竜の後をついていった。

申し訳ございません。本格的な投稿まで、もうしばらくお時間をください。


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さいごに、いつも見て頂き誠にありがとうございます。

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