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竜に喰われてやり直し  作者: 木戸陣之助
第五章 希望の光
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第3話 一寸先は一人旅

 竜が城内探索を始めてしばらく。人間の血のように赤く染まっていた空も、日が暮れて夜に切り替わっていた。

 その間に目に付く死体も全て調べ終わったが、やはり外傷はあまり酷くない。この不可解な事象から導き出せたのは、襲撃した相手は複数ではなく個人である可能性が高いという事。


 それは、竜が否定した『主がこの城を滅ぼした』という仮説をより色濃くするだけだった。だが、それ以上の仮説が頭から沸いて来ず、どうにかヒントがないかを捻り出す。しこりとして残っている違和感を必死に掻き出そうとしていた。

 

「それにしても、あの男の言う『進化』とは何なんだ」


 男が口にした台詞。それが誇大妄想や物語に染まった狂人の思考でなければ、何かを意図があってそうした筈。


「進化だとか自浄作用だとか、妙にカッコ付けた言葉を使っていたが……ハッ!?」

 

 竜は閃いた。


「ひょ、ひょっとして。ゴシュジンはワシにカッコイイと言ってほしかったのか……?」


 竜は信じられない位にバカだった。

 この惨状を持ってしても脳みそお花畑だなんて、サイコパスと言われても仕方ない。主がこの無様を見たなら確実に拳骨を喰らわせていただろう。


「あそこで転がっている死体たちも実は偽物とかで……それは流石にバチ当たりすぎるか」


 頬をぴしゃりと叩く。2つの綺麗なもみじ柄が出来上がるが本人は気づかない。


「これ以上考えてもラチがあかん。やはり、心当たりのある奴を探すしかない」


 マイペースを決め込んだ竜は行く宛も決めずにここを飛び立つ決意をした。その為に死体達を土に埋め瓦礫で墓標を作ってやる。一つ一つに祈りを捧げてはみたが、かつて人間がそうしているのを見様見真似しただけ。気休めだがそうすることで少しでも弔いが出来ればと思ってのことだった。


「こういう時、許せないだとか復讐だとか考えるのだろうか」


 怒りが無いと言えば嘘になる。本当の犯人が目の前に現れたならすぐにでも八つ裂きにしてやりたい気持ちはある。

 だがそれはやってはいけない気がした。

 そうしようとする度、1年前に出会った主の事を思い出してしまう。


「あの時、ワシを殺せたはずなのにな」


 主を思い出せば答えは自ずと出る。

 だからこそ、この手に流れたいくつもの血が時折怖くなる。(ほふ)った命は皆平等、それを道楽のように踏み潰して来た自分はとんでもない大罪を犯していたことを自覚する。


 罪滅ぼし、なんて簡単に言うつもりはない。今こうしてるのも、自分みたいな存在でもこの世界を何か良い方向に導けないか。純粋にそう思っていた。


 私怨は後回し。憧れの存在ならどうするか。それだけを頼りに前へ進む。そうこうしている内に、弔う死体は最後の一つになった。

 最後に辿り着いた場所は、真っ先に訪れた王室だった。


「バカ王子……この後に及んで寝相が良すぎるぞ、貴様」


 呆気ないにも程がある。眠っているようだが、もう死んでいるのだと思い知らされる。冷たい体がより鮮明にさせた。

 潤む瞳で見上げれば、運がいいのか王座の間は天井が崩れ、綺麗な夜空が広がっていた。


 昔の記憶と変わらない。それがより追い討ちとなって抉るような痛みを増長させる。


「折角堪えようとしているのに、これでは酷くなるだけじゃないか……」


 ツーっと雫の一筋が頬に零れる。

 ひとりになるのはいつも突然だ。心の準備なんて出来た試しが無い。そんなものには慣れていた。はずなのに、長生きしたせいだろうか、無性に涙もろくなってしまった。


「フゥ、冷静になれ。こんな時、ゴシュジンならどうする」

 

 いつまでも感傷に浸ってはいられない。

 ここでやるべき事は全部やった。後は、空から城を観察する。違和感があれば、そこを調べる。何もなければ外に出て事情聴取だ。そう整理した竜の顔に迷いは無かった。


「ゴシュジン、必ず助けるからな」


 燃え上がるような赤い翼が空気を打ち付けるように羽ばたき始める。それに比例して地上から空へと上昇。地表が小さく見えるほどの高度で空の海を滑空する。


 かくして、先の見えない竜の放浪記が始まった。


「誰を頼るにしろ情報は欲しいな。やはり地固めは早いに越したことはない」


 魔族領には基本的に人間が多く暮らす国のような文化はない。それは魔族が基本的に大多数で群れるのを嫌う性質を持っている為だ。

 とはいえ、集団を作らないとこの強者蔓延(はびこ)る魔族領を生きるのは至難の業。最低限身を守れる程度の人数を寄せ集め、小さな集落をつくる事を選んだ。


 以来、魔族領には三十人程度の集落が無数に存在する。 

 それは言い換えれば、砂漠地帯を除いて、この広い荒野を飛び回ればいくらでも目撃情報が手に入るという事。その中で聞いた話の統計を取れば、事実に近い情報が得られるんじゃないか、そういう推測。


「ん?」


 竜の目は夜だろうが昼と同じ位に視界良好。ルルームの森で派手に暴れちらかす事が出来たのもそれが理由。その強烈な視力を使えば、上空からでも木々の密集地帯の隙間から一瞬だけ見えた魔族すらも容易に見つけられる。


「早速聞き込むとしよう」


 全速力で空を切り、大気を貫くような速度で地上の標的を目指す。


「へ? な、何……うわああああああああああああ!?」


 それは傍から見れば空から落ちた人型サイズの岩石。墜落した衝撃に吹き飛ばされた標的は、地べたに転がされた後、この世の終わりを見た顔で腰を抜かしてしまっていた。


「御仁、話がしたいのだが時間はあるか?」


「あ、あああああ……」


「ふざけている暇はないのだが、御仁。話はできるか?」


 ただ恐怖に打ち震えて命乞いすら出来ない状況なのだが、いかんせんこの竜は無神経で自己中。人の気持ちを理解するのは大の苦手である。

 眉間がピクピクし始めた竜の迫力に、標的の震えは割増。


 が、奇跡が起きる。


「ん、ひょっとして怯えているのか?」


「ひい、ひいいいいい!! 命だけは、命だけはあああああ!!」


「いや、ワシは決して悪い者では……そんなことはどうでもいい。御仁、どうすれば泣き止む?」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 御仁と呼ばれた子供の魔族は、壊れた機械(マシン)みたく何度も謝罪を繰り返す。

 ラチが空かない状況に竜の怒りはライズアップ。気が短いことも相まって、結局――


()ァーーーーーーーーーーーツ!!」


 突然の怒号に魔族はビクンと一回跳ねて、すっかり静かになってしまった。


「ようやく静かになったか。ようし、では早速――んん!?」


 竜は忘れていた。その気になれば雄叫び一つで人なんて簡単に気絶させられる事を。


「もしもーし? もしもーし!?」


 返事はない、ただの屍のようだった。

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