第25話 夜明けを目指して
「これで良かったんですかね」
「気持ちは晴れたか?」
「全く。最悪の気分ですよ」
廃墟同然の自室で、絶品の夜景を二人隣り合って眺めていた。ガラスが吹き飛び縁だけになった窓には、相変わらず満天の星が広がっている。1年前、広大な砂漠で遭難して幻聴さんとしょうもない会話をした時と同じだ。
この世界は本当にいつでも平常運転だ。俺の悩みがバカらしくすら思えてくる。気持ち良い位のマイペースぶりに思わず空笑いが込み上げてきた。
それを見たまおうサマは同じように軽く笑って、
「最善の選択が納得のいく選択とは限らない。むしろ、大抵が選びたくないものばかり。世知辛い世の中だ」
「まおうサマは経験豊富そうですね。国王ですし」
「まあな、伊達に数千年も生きてない」
子供らしい横顔は、俺よりもずっと大人だった。
こんな顔もするんだな。弱さを見せずやってきたんだろうか。その小さな体で一体どれだけのものを背負ってるんだ。
……黙っててやろう。こんな日くらいは。
「昨日はありがとうございますね」
「全くだ、キサマ等兄妹は本当に世話がかかる」
軽く一礼すると、まおうサマはフンッと言ってわざとらしく一蹴。その後、また夜空へと顔を戻す。
「それでいい。一国の王なのだ、小僧の一人や二人面倒見る事など造作もない」
「カッコイイ、さすが魔王」
「ま、まあな」
顔赤くしてたらカッコつかないって。まあ、この人らしいけど。
「多分、色々お願いするかもしれません。戦力も少しお借りするかも」
「任せろ、ワレの兵は皆一騎当千。どんな死地であろうと乗り越えてみせよう」
「頼りにしてます。俺も滅茶苦茶頑張るんで」
「その意気だ。上に立つ者は人を使って然り。独りだと潰れるうえ、叶うものなどたかが知れてる」
「身に沁みました。だから、今度は沢山人巻き込んでやります」
システリア、ブスタン帝国、フィアット公国。後はまおうサマ率いる魔族領。
全部巻き込んで選ばせる。自分の未来は自分で決めろって話だ、シンプルでいいね。
「バカ竜も早く戻ってくればいいものを。アレは昔から軟弱が過ぎる」
「……言い過ぎてしまいましたからね。仕方がないです」
「何をうろたえている。己の口でキサマの僕になると言ったのだ。なら主君に尽くすのは当然、己の言葉すら体現できないような者など話にならん」
そんなもんなんだろうか。そうやって気丈にふるまえる頃にはじじいになってそうだ。
「いずれにしてもちゃんと謝ります。それでどうするかはアイツに任せます」
「勝手にしろ。こればっかりはキサマ等の問題だからな。外野からはどうにもできん」
「ありがとうございます。少し元気出てきました」
「よくわからんな。ニンゲンとはそういうものなのか?」
ニンゲン、か。
「そういうもんですよ。世の中捨てたもんじゃないでしょ?」
「甘チャンだとは思った」
「これは手厳しい」
なんて、な。
「やるべき事、見えたのか?」
「はい。もう迷いは消えました」
「キサマ変なところで片意地を張るからな。顔に出てようものなら、もう一度説教してやろうと思ったが……」
まおうサマは少し寂しそうに笑って、
「道は見えたか?」
「はい」
結局、根本的な答えは変わらなかった。
多分まおうサマにはわかってしまったんだろう。ポーカーフェイス、とことん向いてないみたいだ俺は。
「これでいい」、そう思えるだけで充分。
「まおうサマ、お酒飲めます?」
「飲めると思うか?」
「微塵も」
「ようしわかった、そこに直れ若造。盛大に負かしてやろう」
酒でどう優劣決めるんだ。思わず噴き出すと、まおうサマもつられて噴き出した。
笑いながらボロボロになった机に、酒場の店主さんから貰った酒瓶や樽を置いて、お互い見合わせる。
「より良い未来に」
「戦の無い世界に」
グラスの音が鳴った。
足りない要素なんていくらでもある。数えたらキリがないし、思い通りにいった試しなんてない。
誰かに操られてる気さえしたし、なんなら今もそれは変わらない。けれど、結局なるようにしかならないし、俺独りの力なんてたかが知れてる。
余計な事考えたって仕方ないのはこれまでの経験で嫌というほど理解した。
だったらやりたいことをやってやる、先のことなんて知るか。もう一人で無駄に悩んだりしない。それに、もしまた同じ事になったとしても大丈夫だ。
助けてくれる人がいる。叱ってくれる人がいる。許してくれる人がいる。
だから、くじけられる。弱音だって言える。甘ったれられる。
背中を預けられる、仲間がいる。
晩酌を終えて翌日。俺は魔王城へやって来た。
まおうサマに話を通し、そのまま城内の独房へと向かう。
俺の屋敷の奴とは、そもそもの規模が違う。空間そのものを牢獄にしている気さえする。見渡す限り柵ばかりだった。呻き声の数々に、ほんと独房巡回ツアーかって思うほど。
「というわけで、話を聞きに来た」
「どういう訳かまるでわからないね。この僕に用とは、いったいどういう風の吹き回しだい?」
「ストーリー・テラーについて知りたい」
さっきまでの人をおちょくるような薄ら笑いが消え、柵の向こうのヴァルヘイムの表情に陰りが生まれた。
散々な目に遭った奴からその過去を根掘り葉掘りなんて、自分も結構な外道になったと思う。
本当に申し訳ないけど必要な事なんだ。介抱なんて後でいくらでもしてやるから許せ。
が、そんな杞憂をかき消すように、ヴァルヘイムはこう答えた。
「奇遇だね、僕も話したいことがある。ただ、この話は君にも関係することだ。それを聞いてからでも遅くはないと思うけど?」
「……先に聞く」
「わかった。じゃあこちらから話すよ」
俺に関係すること。といえば間違いなくこの世界の深淵が関わってくる。ロクな話じゃなきゃいいけど……
そうやって身構えてもなお、ヴァルヘイムの口から語られたのは衝撃的な内容だった。
「君の妹に会った」
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