お題小説【犯罪一家に生まれた青年の話】
お題
・怪盗
・夜
・花火
・夏
・ペガサス
8月も終わりに差しかかり、夏の暑さも和らいでいき秋の涼しさを感じ始めた…そんな夜。
父親に花火大会へ連れられて、思う存分楽しんだ後の帰り道のこと突然父から思いがけないことを言われた。
「父さんな…実はゴーストなんだ。」
「え?ご、ゴースト?」
「そうだ。お前も知っているだろう。世間を賑わせている連続空き巣犯ゴースト。ゴミ出しに出た際や、ちょっと家を出た隙に侵入して金品を盗む犯行…。それは全部父さんがやった事なんだ。」
た、確かに父さんは昼間いない時はあるけど、いる時はそれこそ常に家にいてゴロゴロしていた。その時の父さんは自営業だから暇な時と忙しい時に差があるとは言ってたけど…。
その後またまた衝撃の事実を言ってきた。
「僕の父さん、祖父、曽祖父に至るまで…僕らの家系の男は犯罪を転職としてきた。もちろん犯罪以外をしようとする者もいたが、結局思うようにいかずじまいだったようだよ。
…お前も普通の職業では成功しないと思う。僕のように空き巣でもいいけど、せっかくだからもっとすごいことをしてみてもいいんじゃないか?お前にはきっと才能がある。」
「父さん…。」
その後は楽しく別の話をしながら家に帰ったけど、花火大会の次の日、家に警察が来て父さんは連行されていった。
父さんが最後に手紙を残していったので、それを読んでみるとなんとも不思議なことが書いてあった。
父さんが言った通り、僕らの一族は犯罪を天職としているようで普通ならばありえない手口でも運が味方して何とかなるらしい。だが自分の子供などに自分の正体を明かす…つまり次世代へ交代に値することを行うと…父さんのように報いを受けるらしい。
僕に母さんがいないのも、力の代償のようなものらしく相手が難病になったり交通事故で大怪我…または死亡したりととんでもなく不運に見舞われるらしい。僕を産んで数年後には難病になり闘病の末亡くなったらしい。
父さんは母さんのことを本当に愛していて、不幸にさせるってわかりきっていたがそれでも母さんと一緒になった。
通り名に関しては父さんの場合はゴーストというように好きに決めて良いが、今までずっと空想の生き物?で通してきたので僕が犯罪稼業をやる時も何かしら空想・神話の生き物の名前にして欲しいようだ。
ちなみに高祖父は強盗犯ミノタウロス、曾祖父は連続スリ犯ヘカトンケイル、祖父は結婚詐欺師セイレーン、父は連続空き巣犯ゴーストとの事。
「…とりあえず、父さんが連行されてだいぶ住みづらくなったから引っ越そうかな…。」
警察の人から養護施設に入るかを勧められたが、親戚の元へ行くことを伝える。
親戚なんて居ないけど、僕だってもう14だ。まぁなんとかなるだろう。
その後、父さんは留置所の中で急性心不全になったようで病院に運ばれるも亡くなったらしい…。
〜5年後〜
「ふぅ…。三星百貨店は時価10億のダイヤモンドを仕入れたらしいから、早速今夜盗みに入ろうかな。」
僕は今、世間を賑わす怪盗ペガサスとして切磋琢磨している。夜にビルとビルを翔ける天馬…というのは我ながら気恥ずかしいような気もする。
僕はアニメとかにあるような予告状なんてものは届けない。運が味方するといっても万が一にも足がついたら大変だし…予告無しに盗みに入ることにしている。
警備こそ厳重だったけど、さして苦労することなくダイヤモンドを入手する。
このダイヤモンドは売りに出してもいいけど、これも僕を特定する情報に繋がりかねない。だから30年後くらいまで寝かしておこうかな。僕は子供を作る気はないし、特定の女の子と仲良くする気なんてサラサラない。
愛するはずの女性を死なせたくないし、子供にだってこんな業は負わせたくない。
次の日、三星百貨店に怪盗ペガサスが盗みに入ったと号外の新聞を読みながらバイト先の個人経営の喫茶店へと入る。
僕はあまり物欲はないと自分では思ってるし、せいぜい動画配信サービスに入って、映画やらアニメを見漁ってるくらいだろう。
「おーーーい!辛気臭せーぞ!天馬くーん。お客さんが逃げちゃうぞーい!」
「もっさんのその大声が1番店の雰囲気を壊してますよ…。もう少し年相応に…失礼。僕とそんなに変わりませんでしたね
。」
「むー!2つ上のセンパイを敬え!」
この目の前で元気いっぱいに僕を叱る?のは、店主の娘である田辺紅葉さん。僕は親しみを込めてもっさんと呼んでいる。上のお姉さん2人は物静かな感じのにどうしてこんなにこの人は元気いっぱいなんだろうか…。そして見た目は可憐な女の子って感じなのに普通の青年よりも口が悪い。というかどこで覚えたのかと思うくらい粗暴な口調だ。
もっさんは一見アホっぽいのだが、大学では首席というかなりの頭の良さらしい。その他にも気配り、心配りが出来ておりお客さんが何か困ったことがあればすぐに駆けつけて、お客さんが何かを言う前にその事象を解決するという…なんというか凄腕のウエイトレスだ。
今日の仕事も終わりに近づいてきた頃、もっさんがふと話しかけてくる。
「明日ヒマ〜?なら私と遊ぼーぜ!」
「まぁ暇なことは暇ですけど。僕なんかといても楽しくないと思いますよ。」
「うるせー!いいから付き合え!」
「はいはい…。」
半ば強引に翌日遊ぶ約束を取り付けられてしまった。家に帰って今後の怪盗するにあたっての道具を点検したかったんだけどなぁ…。盗みに使う道具は一般的に流通してるもの…ドライバーとかは既製品を使ってはいるんだけど、もしも使えないことがあったら大変だから必要以上に点検している。
そんなこんなで次の日になったのだが、待ち合わせの場所に着くともっさんの姿が見えない。
辺りを見渡すと近くのベンチに淡い化粧を施して、いつもと違って張り切ったと思われる衣装を着たもっさんがいた。
…不覚にもドキッとしてしまった。
「どうも。」
「おっせー!何してたんだ!」
「でも15分前なんですが。何時から待ってたんですか…。」
「あ…えっとだな!私が誘ったんだから早く来るのは当たり前だろーが!とにかく行くぞ!」
半ば強引に手を繋がれて、もっさんに連れられていく。
もっさんが連れてきた場所はホームセンターだった。僕としては嬉しい限りだけど…。でももっさんの前で買うのもなぁ…と思っていると、
「何か買いたいものがあるんだろ?」
「えっと…まぁそうなんですけど。なんでわかったんですか!」
「まぁなんとなくだ。気にすんな!」
ホームセンターは地域で1番大きなものであり、普段使用している工具以外にも色々と揃っているようだった。
ペットショップや家電売り場、靴なども置いてあり、怪盗用に使っているスニーカーを新調したいと思っていた。
そうして僕は僕の買い物を思う存分充実させたが、もっさんは僕の後ろをついてくるだけで特に何も買ってないようだった。
休憩がてら店内のカフェに入り、もっさんへ話しかける。
「ホームセンターなのに周りは高校生が多いですね。まぁ上の階にはスポーツ用品店とかあるみたいですし、部活動の関係ですかね。」
「ふふん!その他にもだな…天馬くんはこの辺に来ることがそんなにないかもだが、ここの店にはだな!」
店の人でもないのに延々と熱く語っていくもっさん。階層ごとの説明や特色などをまるで暗記してきたかのように語っていた。周りの注目も浴びていたので、これ以上注目される前にもっさんを連れて店を出た。
そうしてホームセンターの屋上へと出る。屋上はどこに需要があるか分からないが展望スペースとなっていた。だがこんな街中を見たいって人はなかなかおらず、僕ともっさん以外には誰もいなかった。
もっさんは僕の手を引いて近くのベンチへ座らせる。
僕の横にもっさんも座る。
「今日は強引だったが付き合ってくれてありがとな。」
「自覚はあったんですね。」
「そうだ。いつだって私は相手の気持ちを先読みして動いてるからな。相手に嫌われないように動いてるんだよ。お前のことを強引に誘った時もはっきりいって嫌がられることを覚悟してたんだ。でも誘いに乗ってくれてありがと。」
「僕もホームセンター…じゃなくても工具とか靴を見たかったんでちょうど良かったです。」
「そうか、なら良かった。私は大学では首席だったんだがよ…。ダチはいなかった。素の性格がコレだし今更私自身直そうとも思ってねー。でもこんな性格と口調の女でも天馬くんは受け入れてくれてて感謝してる。だから天馬くんの正体がなんであれ、天馬くんの力になってあげてーんだよ…。だから今日だってここに連れてきたんだ。」
「…もっさん。」
もっさんは横に座ってこそいるが、僕の方に顔を向けることはしなかった。よく見れば肩が震えており、それは寒さでは無いことは明白だろう。
「天馬くん…いや天馬!これからもお前の力になりてーんだ!だから私と…!」
「お断りします。僕じゃあなたを幸せにできません。」
「…!」
もっさんは驚いた顔をして、ようやく僕と目を合わせる。
涙目をしているものの、僕はもっさんを不幸にさせたくない。確かに一時的にお互い幸せになれるかもしれないが、絶対不幸になるんだ。それは決まりきってる。
そして僕はもっさんを置いて屋上を後にする。
もっさんのすすり泣く声を背にして、どんな宝石や高価な物品を盗んだ時にでも感じることがなかった罪悪感が胸中を支配しており、今すぐにでも戻って謝りたかった…。
僕だって惹かれてた想いはあるけれど、彼女を不幸にさせたくない…!その思いだけは確かなんだ…。
僕はすぐに今の家を引き払って、誰とも一切連絡を取ることなく町を後にした。
もっさんは誰にも言わないだろうけど…怪盗ペガサスは半年くらいは休止にしておこう。
とりあえず今は、前から気になっていた山奥のコテージを借りて、釣りをしている。気持ちを鎮めるためにもこれが一番だと思っている。山奥にも関わらず動画配信サービスにも接続出来ており、僕の父さん世代の映画を見ながら釣りに興じていた。
「……ふぅ、バス釣りもいいもんだねぇ……って痛ぁ!!」
突如後頭部に激しい痛みがあった。鈍い音とともに痛みが来襲しており、近くにはピンボール程の石が落ちていた。
そうして後ろを見ると腕を組んで仁王立ちをしているもっさんの姿があった。
「な、なんでここが…?」
「あん?お前が前にスマホいじりながらこの手のコテージ眺めてるのを見たんだよ。その中から短期間に借りられるものや移動の手間や、山奥、釣りができるところなどをピックアップしてしらみ潰しに探していたらお前がいたんだよ!」
「…そうですか。でも何の用ですか?」
「お前を諦める気はねーから、わざわざここに来たんだよ!お前がペガサスだろーが、なんだろうが…わたしはお前を守りたい!」
守りたい、か。普通だったら男が女に言うのかもだけど…。
僕だってこのまま1人寂しく死ぬんじゃなくて、誰かと添い遂げたいっていう気持ちは確かにある時はあったけど…今は達観したつもりだった…筈なんだけどな。
僕は僕の一族の宿命をもっさんに話す。
それを説明した上でもっさんに対してもう一度告げる。
「僕はあなたと一緒にはなりません。帰ってください。」
「はぁ…。うるせー!!!!んなことは関係ねぇ!テメーの気持ちを優先しろ!」
「だから一緒にはならないです。」
「…うんって言うまでずっとつきまとうからな!覚悟しておけ!」
そう言ってもっさんは帰って行った。それ以後も、何度も何度ももっさんは足を運んできた。
途中で居場所を変えたりもしたけど、もっさんは首席の頭の良さを存分に発揮して、僕の居場所を突き止めて何度も通っていた。
そんなある日、あまりの根気にとうとう根負けしてしまい…
「わかりましたよ…。」
「よし!なら帰るぞ!」
喫茶店へと連れ帰られて、もっさんのパパにもそれはもう無断で辞めたこととかを含めて超絶怒られたし、もっさんのお姉さん方にもすごい怒られた。
でも最終的にもっさんを幸せにするっていうことで話は決まった。
それからは花婿修行と呼ぶべきか店主の喫茶店の跡を継ぐべくビシバシ鍛えられて、調理師免許も取らされて…結婚式を挙げるのは3年後になってしまった。その間にも僕ともっさんの間に息子が生まれた。
結婚式は喫茶店の常連ともっさんファミリーとを集めて小さな教会でやることが決まり、先に教会へともっさん…紅葉とお義父さん達が行っていて僕は息子の支度をしていた。
結婚式の日にまで紅葉に息子の世話をさせる訳にはいかないし。
そんなこんなで家を出ると、いつもに比べて道が混んでるように感じた。どこかで事故があったようで渋滞してはいるが全く停滞してる訳でもないので息子を車に乗せて車で20分ほどにある教会へと向かう。
「…なんじゃこりゃ…。」
教会に着くと、僕らが結婚式を挙げるはずだった教会はダンプカーが、突っ込んでいた。それだけではなくダンプカーが炎上して教会自体も建物が燃え広がっていた。
「も、紅葉…!」
「新郎の方ですか!?下がってください!これより消火と生存者の探索に向かいますので!」
急いで姿を探そうとするも消防士にとめられる。
そうして息子を近隣のおばさん達に見ていてもらっている間、呆然と消火されているのを見ていた。
常連のお客さん達がなんとか助けられているのを見ながらも
紅葉ひいてはお義父さんや義姉さん達の姿を探す。
そうして教会の消火を終えると、近くのビニールシートの上に載せられて布こそ被せられてるが焼き焦げて変わり果てた姿の義姉さん2人とお義父さんが…。
でも紅葉の姿が見当たらない。消防士の人に行方を聞くと
「…誠に申し上げにくいのですが、ダンプカーが突っ込んだところは新婦控え室だったようで、居眠りのまま猛スピードで突っ込んだので奥様は…その損壊が激しく即死だったと思われます。その上、あの炎上ですので…。極力ご遺体は回収します…。」
婚姻届を出していたので、一応田辺家の婿養子ということになる為、お義父さんと義姉さん2人、紅葉の合同での葬式の喪主を務めることとなった。
正直よく覚えていないが…。失意のまま葬式を終えたあとも不幸は続き、近所の悪ガキが店の前でタバコの不始末をしたらしく喫茶店が火事になったらしい。
僕にはまだ幼い息子だけが残った。
かつて僕の父さんはゴーストと呼ばれるようになるべく人の気配を感じさせないように以前の僕みたいに万が一にも証拠を残さずに犯行に及んでいたが…僕を育てるためにより高い金品なども狙うようになり、そのおかげで捜査線上に上がってしまい逮捕されてしまったんだろう…。
もちろん父さんだって大胆な犯行だってことは分かりきってただろうに…。
でも今、やっと父さんの気持ちがわかった。母さんを愛していた…だからこそ母さんのところに早く行きたかったんだろう。理由はどうであれ愛情いっぱいに僕を育て上げてくれた父さんにはずっと感謝している。
母親の死についてはまだ理解できないかもしれないけど、母親がどこにもいないことに対して泣き始めているのをみて、僕は優しく抱きしめる。
「大丈夫…。父さんがお前を守るから…。心配しないで…。」
今まで蓄えていたダイヤモンドなども、いくつかの海外サーバーを経由して売りに出して、怪盗稼業も復帰して息子が苦労することがないように尽力した。
休みの日は息子とめいいっぱい遊んで、息子の学校行事にも毎回のように参加した。
動画配信サービスは解約して、息子と遊ぶ以外の時間は盗みに使う用の装備の点検や筋トレ、他には…何をするまでもなくゴロゴロしていた。
今思えば父さんがゴロゴロしていたのも母さんが死んで以来、何をするにも楽しみが見いだせなくなってたんだろう。今の僕もそれは分かる。息子と触れ合ってる時は確かに楽しい。でも年々虚無感の方が強くなってきているのを感じていた。父さんはそれに耐えきれず、当時14歳だった僕に秘密を打ち明けたんだろう…。
息子も今年で13歳。来年にはかつての僕と同じ歳か…。
はっきりいってもう辛い。息子の顔を見る度に辛い記憶や虚無感が込み上げてくる。でも秘密を守りきれば息子は幸せにこれからも暮らして行けるし、何個か売り手がついたもので一戸建てやコテージだって購入できたんだ。
いつか息子と息子のお嫁さんと…家族で遊びに行くのだって夢じゃないんだ…。
こんなことを考えている間に息子が学校から帰ってくる時間だ。今日はお義父さんがかつて僕に教えこんだ秘伝のオムライスだ。息子の大好物だから喜んでくれるだろう…!
その翌々年の事だった。
「父さんはね…実はペガサスなんだ。ビルとビルとを翔ける天馬…名前の通りなんだけどね。それでね…」
かつて父さんが14歳の僕に言ったように、15歳になった息子へ一族の秘密を打ち明ける。
そして息子もそれに驚いてはいたが、自分に何ができるかを考えているようだった。
そして父と同じく、警察に連行されて…取り調べを受けて…
今は留置所だ。
「紅葉…。そろそろ君のところに行ってもいいのかな?僕は君のことを散々否定したけど、君は僕のことを幸せにしてくれようとしてくれたよね?僕のことを守る…。実際、君のその優しさとお義父さん達の厳しさの中の愛情…そうした思い出は今に至るまで僕のことを守ってくれていたよ。」
思い出を噛み締めながら…その日は眠りについた。
その後、判決が決まり刑務所に護送される日となった。
その日は連日続いてた雨の日であり、僕は落雷に打たれて…地面に倒れ伏した。かつてのお義父さんほどじゃないけど、全身を焼かれて身動きが取れないし、身体に雨が打ちつける。
「……幸せだったよ。ありがと。」
誰に言うまでもなくそう言い残して僕は息絶えた。
過去一長くなった作品。
メインで書いてる小説の方でもこんなに長いことはないです。まぁ短編読み切りだからこれくらい長くてもいいのかな?恋愛描写って難しい…。
消防士とか死体の処理?とか所々にわか知識で書いてます。
おかしいな?って思った箇所があったかもしれませんが、基本思いつきとノリで書いてます。
お読み頂きありがとうございます<(_ _)>