奉公構
カリストが町の冒険者ギルドを出ると、冒険者の少女が一人で待っていた。
「どう、だった?」
期待半分、諦め半分といった質問にカリストが応える。
「駄目だった。ギルドマスターは未来の多くの人々の幸せよりも、今どれだけ搾取できるかしか考えないヤツだった。この町を支配している貴族連中と変わらん。それよりサンディ、俺と一緒に居るのを見られたらお前もギルドを追放されるかも知れんぞ。」
サンディはカリストと同じパーティの仲間だ。
彼女の家系はただの平民であり家業はない。そんな彼女が収入を得るには冒険者業だけであった。
その冒険者業の収入ですら少なく、数日の蓄えすらも無い。
「そうなったらギルドマスター相手に刺し違えるつもりよ。」
「早まるな。相変わらず短気だな。」
大半の冒険者の生活は良くなく、上層部に居座る者の贅沢のしわよせが末端に寄せられる。その結果が冒険者の精神衛生にまで影響していた。
「今は計画段階だ。その怒りと悲しみをぶつけるのは時が来てから。」
「分かったわよ。」
本来なら笑顔が似合うはずの顔は、不満で満ちている。
カリストは、彼女が心から笑える日を取り戻したい。
そのためには
「冒険者ギルド以外の労働者も仲間に加える。」
この町は職業の区別なく、労働者階級は虐げられている。
数人では政治体制は変わらないが、団結すれば理想の社会をつくれるはず。
彼らが馴染みのポーション屋に向かうと、
"奉公構"の貼紙が張られていた。
奉公構は追放よりも重い刑罰だ。ただの追放であれば冒険者以外の職業に公然とに就く事もできる。
しかし奉公構は町の全ての職業に就く事を禁じられ、もし奉公構となった者を雇えば、雇った側は反逆罪となる。
いわゆる村八分というもの。これを町の隅々まで言い聞かせるには道具屋ギルドや宿屋ギルド等の各ギルドマスターに金を払う必要があった。
「冒険者ギルドマスターは俺の事を警戒しているのか。無駄金を使いやがって。
奉公構を他のギルドに承認させるのに使った金を冒険者に使えば、どれほどの命が救われたか。」
道具屋で買い物をしている他の冒険者達もこの処置に不満を抱いている。
店員も多くが同じ思いをし、
店の奥で働きもせずふんぞり返っている経営者は「冒険者ギルドから臨時収入が入った」と高笑いをしている。
もちろん、その臨時収入は雇われ店員にいく事は無い。
もはや冒険者ギルドだけの問題ではない。
政治の腐敗は町全体の問題であった。