1人目だぞ、何が悪い。
黒に包まれた白が踊る。
男の繰り出し続ける拳をひらひらと少女は避け続ける。
男は人外だ。さっき見えた顔もそうだが、腕を伸ばし、戻す。その動作が異常な程に早く、連打は正しく『絶え間ない』。
しかし、『勇者』と名乗った少女もまた常人では無い。男の連打をひらひらと苦もなく避け続けている。
「ひったくり。進行度はステージ1。凡雑な身体能力向上と下位の強奪スキル。雑魚中の雑魚。こんなの普通に警察で十分なのに…」
息を切らす所か余裕気に言葉を発する少女…
「こんな小物でも強そうに見えるなんて。ほんとに不便な能力だな〜。」
強そうに見えると呟く少女。しかし、その言葉には自分の方が上だと分かりきってる。その自信が見て取れる。
幾ら拳を放っても紙一重で避けられる。
その事を理解したのか男が連打を急に中断し、右足で蹴りを繰り出す。
簡単にずらしにくい重心、少女の下腹部に吸い込まれるように男の右足が伸び…
「何それ?殴った方がマシだよ。」
男の蹴りは届かない、否、蹴りが届く前に少女の放った高速の拳が男の顔を打つ。
パァァンッ!!弾ける様な高い音と共に男の体が仰け反る。
流れるように少女は動き続ける…
少女が握っていたカッターナイフの刃をギチチチと伸ばし、柄を握り締める…
「コモンスキル『四細線』」
スパッ、スパッ、スパッ、スパッ。
男の首の左右と両方の手首にそれぞれ1ヶ所ずつ細く赤い線が走る。
首の2カ所からは勢いよく。手首の2カ所からはドロドロと。新たな出口を見つけた男の血液が溢れ出す。
「来世を信じろ犯罪者。」
少女が告げる死の宣告。
「あああぁぁぁぁぁあっっつ!!!」
男が悲鳴を上げる。痛みではなく、死への恐怖からだろう。
叫び終わった後。倒れた男の顔は黒に蝕まれ……例えるなら悪魔の顔そのものだった……