なまこ×いもうと
【なまこ×どりる】
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嗚呼、お姉さま。
親愛なるお姉さま。
お姉さまはわたしの全て。
お姉さまはわたしの生きる希望。
お姉さまに初めてお逢いしたあの日、そのあまりのお美しさに、わたしは目を奪われました。
深い海のような蒼い瞳。
上質な金糸を連想させる優美な髪は、お顔の左右で縦巻きにカールしていて、それはまるで一対のドリルのよう。
お肌は茹で卵のようにすべすべで瑞々しく、そばかすがコンプレックスのわたしとは提灯に釣り鐘。
でも、そんなお姉さまにも一つだけウィークポイントがあるのです。
それは15歳というお歳の割には若干慎ましいお胸!
ご本人はランクB冒険者クラスとお思いみたいですが、わたしの見立てでは限りなくランクAに近い、言わばA'(ダッシュ)!
実際ブラと胸との間に、少しだけ隙間がおありになるのです。
一度その隙間に指を差し込んで、切ない表情をしていたお姉さまをお見かけした際は、心臓が止まるかと思うくらい、ドチャクソ萌えました。
嗚呼、お姉さまは何てお可愛いのでしょう!
その時はあまりに萌えが閾値を超えてしまったので、自分の中だけに留めておけず、お姉さまの親友の方にも、その情報をお裾分けさせていただきました。
……ですが、お姉さまの魅力はその天使のような美貌だけではありません。
むしろその内面にこそ、本当の魅力があると私は思っています。
辺境伯家に爵位継承者である長女としてお産まれになったお姉さまは、まさしくノブレス・オブリージュを体現したようなお方なのです!
その生き様は清廉にして高貴。
柔和にして豪胆。
弱きを助け強きを挫くその姿勢には、誰もが畏敬の念を抱きます。
寮の後輩であるわたしを実の妹のように可愛がっていただいていることからも、その海のような器の大きさが測れるというものです。
……ただ、そんなお姉さまが使い魔として契約したのが、まさか『なまこ』だったなんて……。
膨大な魔力をお持ちのお姉さまなら、美しい天使を呼び出して使い魔にすると思っていましたから、正直最初は受け入れるのに少し時間が掛かりました……。
――ですが、このなまこさんは、実はただのなまこではなかったのです!
お姉さまがわたしにだけ教えてくださったのですが、何となまこさんは大魔道師様だと言うではありませんか!
流石ですお姉さま!!
そうでしょうとも! そうでしょうとも!
あのお姉さまが呼び出したんですもの、ただのなまこな訳がありませんよね!
……しかもこのなまこの大魔道師様、30cmほどもある黒いなまこなんですが、わたしの目の前でお姉さまがなまこさんを手に取った際、お姉さまは「こんなに黒くて、大きい、立派なのは見たことありませんの」と発言していたのですッ!!
更になまこは刺激を受けると皮膚が一時的に硬くなるらしく、「あ……。手の中で硬くなってきましたの」とも仰っていましたッッ!!!
更に更にわたしがお姉さまになまこさんでホットドッグ食べるふりしてくれませんかと懇願したところ、お姉さまは快く引き受けていただいた上に、「あーん。……太くって口に入りませんわ」とも発していただいたのですッッッ!!!!
……そして最後に事件は起きました。
なまこは強く握ると、キュビエ器官というタンパク質のかたまりであるねばねばした白い糸をお尻から出す性質があるそうなのですが、うっかりなまこさんを握ってしまったお姉さまに、キュビエ器官がかかってしまったのですッッッッ!!!!!
それを受けてお姉さまは、「ふぇぇ。白くてべとべとしますわ……。あ、顔にもかかってしまいましたの」と……!!
もうダメでした。
その瞬間わたしの鼻からは、感動が赤い液体となって溢れ出てきたので、急いで自室に戻りました。
――なまこさん、グッジョブ。
わたしはお姉さまの使い魔がなまこさんで、本当に良かったです。
――とまあ、こんな感じでわたしのお姉さまに対する熱い想いの、ごくごく一部を抜粋してみたのですが、わたしにとってお姉さまは全てでも、お姉さまにとってわたしは全てでないことは、重々承知しています。
むしろわたしにはわかります。
お姉さまには、この世の誰よりも大切に想っている方がいるということを……。
――でもいいのです。
わたしはお姉さまのお側にいられるだけで。
そしてたまにこうして、椅子としてお姉さまに座っていただけるだけで私は幸せです!
「……さっきから何をニヤニヤしながら独り言を呟いてるんですの?」
「――!」
し、しまった!
わたしとしたことが、ついうっかり想いを口に出してしまっていたようですッ!
「な、何でもないんですお姉さま! どうかお気になさらないでください」
「……そう、まあ今日はこのくらいで勘弁してあげますわ。もう二度とあんなことするんじゃありませんわよ」
「は、はい! すみませんでした! ありがとうございましたッ!」
「ありがとうございました?」
今日はブラと胸との隙間に指を差し込んで、切ない表情をしていた激萌えお姉さまの情報を、お姉さまの親友の方に分け与えてしまった罰として、30分ほどお姉さまの椅子にさせていただいていたのですが、こんなご褒美がもらえるんでしたら、わたしはまた悪い子になってしまいそうで自分が怖いです……。
そんな私のことを、偉大なるなまこさんは、まるで神様みたいな慈愛に満ちた顔で見ていた気がしたのですが、ただの気のせいだったかもしれません。
本作は『なまこ×どりる』の第18話内にあるワンシーンを、私なりに誇張して表現したSSになります。
そのため、本編とは諸々矛盾点もあるかとは思いますが、どうか寛大なお心でご容赦いただけましたら幸いです。
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