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発見

 お昼を食べ終え、午後の授業のことで憂鬱になりだす頃、ふと(よう)()の右手に握られたスマートフォンが視界に入り、柚菜(ゆな)は思わず眼を見張った。


 間違いない! 最新のものだった。


 可愛いスマホケースを纏ってはいても、彼女の眼はごまかせない。


 カラーこそ変わらないものの、デザインが昨日までのそれとは違うことにも気がついた。


 瓔子は、机の下に半ば隠れていた最新機器を、机の上にだして柚菜にお披露目することはせず、相手の視線に気づいたのか、すぐに机の中へしまった。


 その後はいつも通りの他愛のない会話が続き、結局昼休み中にスマートフォンの話題がふたりの間にのぼることはなかった。


 しかし柚菜は代物を眼に留めた瞬間からずっと気になり続け、嫉妬と怒りをあらわにする一歩手前まで何度も進んだが、いつもギリギリのところで留まると、普段通りを装った。


 平素魅力ある笑顔を振りまく彼女が、さらに愛想良くしていたほどだったから、あるいは相手も不安になったかもしれない。


 五時限目が始まった。


 いつもなら窓から教室にさしこんでくるぽかぽか陽気にあたって、うつらうつらしている頃なのに、今日はバッチリ眼が冴えて、先ほどの事件のことで頭がぐるぐる回っていた。


 最新のスマートフォンについて瓔子に教えたのは柚菜である。


 本当は彼女自身が購入する気でいて、自分が買ったあとに瓔子も真似してお揃いにしてくれても良いというくらいの腹積もりだったから、まさか彼女に先を越されるとは思ってもいなかった。


 というのは、ふたりの関係性からして先導するのは柚菜の役目であり、瓔子はそれに寄り添い付き従うのが柚菜の希望し統御してきた構図だったから、それをこんなふうに瓔子が破って反旗を翻すとは予想できなかったのだ。


 実際にはまだ反乱は起こっていないかもしれない。


 けれども彼女は相手の武器を確かにこの眼で見た。


 そして瓔子は武装を解いたりはしないだろう。そう確信させるものがあった。


 柚菜よりも一歩後ろにいるような瓔子だからこそ警戒すべきであった。敵同士とはいえないはずだけれど、今までの鬱憤も溜まっているかもしれない。


 予想すらしていなかった出来事も、しかし起こってみれば意外な事とは言えなかった。あるいは本当は気づいていたのに、頭に浮かび上がる度、それを隅っこへ追いやっていたのだろうか。


 いずれにしろ、()(ほん)は既に確定事項として目前に迫っている。


 このままでは主従は間違いなく逆転して、女王の座は瓔子に奪われてしまう。瓔子も無論はじめからそれ狙いだろう。


 降格した結果、今まで下に見ていた者の、下につかなければいけないというのは屈辱だった。


 ──それにしてもスマホケース可愛かったな。


 わたしのより全然可愛い、わたしのなんてあんなにボロボロなのに、と思ってしまう。彼女は、左上端が壊れかけ、だいぶ色褪せもして買った頃の可愛い色合いからは程遠い、自分のそれと比べていた。


 しばらくして羨望から回復すると、やや前かがみになりつつも背筋はぴんと張り、しっかり組み合わせた両手に顎を載せた彼女は、右斜めまえに座る瓔子に視線が向かないよう床のあたりをじっと見据えながら、今後の出方と成り行きを思案しはじめた。

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