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11話 魔法勝負

 気に入らない。



「椎名君すごいのね。あんなに魔法力があるのにあっさりコントロールできて」

「何となくやってるだけですって」



 ……気に入らない。



「二階堂君も流石ね、飲み込みがすごく早い。二人とも初心者とは思えないわ」

「……はい」



 うるさいうるさい黙れ!

 怜二はきつく歯を噛みしめながら怒りと苛立ちに震えていた。


 魔法実技訓練、その授業では怜二は不本意にも御影と二人で授業を受けている。そして二人しかいないからこそ、どうしても怜二と御影は比較される。

 御影は計測器がエラーを起こす程の魔法力で、しかも初心者だというのにあっさりとその力を使いこなしつつある。対して怜二は入学前から必死になって訓練してようやく御影と同じくらいまでしか魔法を扱えていない。二人ともすごい、とまとめて教師に褒められようが、そこには明確な才能の差があるのだ。




「二階堂君、ちょっといい?」

「……なんですか」



 授業が終わり、さっさと教室に戻ろうとした怜二を亜佑が呼び止める。一体何の用だと考えていた怜二に、彼女は頬をやや紅潮させて興奮気味に話し掛けて来た。



「に、二階堂先生って彼女とかいるのかな、とか……二階堂君知ってる?」

「……」

「い、いや別に変な意味はないのよ!? ただちょっと気になっただけで」

「あいつのことなんて知るか!」



 苛立ちに任せて思わず敬語も吹っ飛び、怜二はそのまま大きな音を立てて教室の扉を閉めた。



「どいつもこいつも……」



 潤一の話など聞きたくもない。

 怜二はこの学校に入って今までの自分を捨てると決めた。いつも負けてばかりの自分を変えて、一番になると決めたのだ。

 だというのに現実は上手く行かない。結局ここでも怜二には潤一の名前が大きくのしかかって、おまけに御影や甲斐など、魔法力や学力で怜二を上回る人間も当然のようにいる。これでは中学の頃と何も変わらない。



「……今に見てろよ」



 だからこそ、他の人間に見せつけてやるのだ。自分がどれだけ優秀で、潤一や御影に劣るような人間ではないということを。




「椎名! 俺と魔法で勝負しろっ!」













 様々な植物や綺麗な池がある、昼食時の人気スポットの中庭。そこで怜二と御影は向き合って立っていた。周囲には騒ぎを聞きつけた生徒達が集まりつつあり、その騒がしい声に眉を顰めながらも怜二は小さく笑っていた。これだけの人数の前で御影を負かせることが出来ればさぞかし清々しいことだろうと。



「椎名ー頑張れー!」

「負けるなよー!」

「おう!」



 怜二が顔を知らない、恐らく別のクラスの生徒が御影に声を掛け、御影はそれにぶんぶんと手を振って応えている。まだ入学から二週間しか経っていないというのに、彼はすでに多くの生徒と知り合いになっているのだ。



「二人とも頑張ってー」



 しかし怜二にだって全く応援の声が無い訳ではなかった。控えめな声を上げる華凛の姿を目に留めた怜二は、一瞬緩みそうになる顔を引き締め、そしてその隣に困惑した顔で立ち尽くしている時音を見つけて何とも言えない気分になった。


 この学校へ来てから時音とは必要最低限の会話しかしていない。初日に話しかけないと自分で言った手前自ら彼女に話しかけることなど怜二のプライドが許さない。そもそも今までの喧嘩でさえ彼から謝ったことなど片手で数えられるほどしかないのだ。

 ましてや怜二は高校から変わると決めた。だからこそ中学時代までの苦々しい過去の自分をよく知っている時音のことを無意識に避けてしまっていた。また、彼女の希少な属性がそれに拍車を掛けたということもある。



「勝負は最初に一撃を与えた方が勝ち。必要以上に傷付けようとしたらその時点で失格です」



 審判を務める亜佑が御影と怜二の間に立ってやや緊張しながら説明する。この学校ではこのような魔法での勝負は教師が立会人となれば合法的に行うことが出来て、また授業で行うこともある。実際に戦って魔法を使用することで実践への備えになると考えられているのだ。

 そしてその事実を知った怜二はいち早く御影に勝負を挑み、対して御影は「それ楽しそうだな!」と緊張感ゼロで快く了解したのだった。



「それでは――」



 亜佑の片手が上がると、途端に騒がしかった中庭が静寂に包まれる。そよそよと木々を揺らす風の音だけが聞こえ、誰もが息をつめてその瞬間を待った。



「始め!」













「すぐに終わらせてやる!」



 開始の声と共に怜二が叫び、そして同時に彼の周囲から不自然に光が生まれた。



「光の矢!」



 怜二の声に反応するように周囲の光が三つに別れ、その名の通り三本の矢の形に変化する。中々お目に掛かれない光属性の魔法に周囲がどよめく中、光る矢は弧を描くように御影に向かって振って来た。



「おっ、と!」



 襲い掛かる光を避けるように御影は大きく後ろに跳ぶと、彼が居た地面を抉るようにして光が消える。「危ない危ない」と口に出しながらも、御影は余裕そうに軽く笑ってみせた。



「次はこっちの番、地獄の腕! 怜二を捕まえろ!」



 今度は御影が怜二を指さしながら元気よく声を上げる。すると途端に彼の目の前の地面からひと一人分ほどの真っ黒で大きな腕のようなものが現れ、怜二を掴もうと手を広げて彼に襲い掛かった。



「そんなもの当たるか! 障壁!」



 しかし闇で作られた腕と怜二の間に、すぐさま光り輝く壁のようなものが出現する。勢いを殺さぬままその壁に突っ込んだ腕はそのまま壁に飲み込まれるようにして掻き消え、同時に光の壁も消滅した。



「すごい……」



 初めて魔法での攻防を目にした時音は、あまりに非現実的な光景に口を開けたまま呆然と二人の戦いを凝視した。まるで映画でも見ているような気分だった。

 時音がちょっと物の動きを止めるのに必死になっている間に、二人はこんなことが出来るようになっていたのだ。



「光と闇は相反する属性だ。だからぶつかり合うと相殺されて消える」



 完全に置いて行かれた気になって時音が少し落ち込んでいると、二人の戦いを解説するように近くに居た甲斐が口を開いた。



「え? じゃあ、勝負なんてつかないんじゃないの?」

「そうでもない。相手の魔法を避けて攻撃を与えるか、もしくは」



 再び光と闇が真っ向から直撃する。しかし先ほどと違うのは、襲い掛かる闇が一気に光をかき消して怜二に向かったことだ。



「相手を大きく上回る魔法力で圧倒するか、だ」

「あ――」



 魔法力では圧倒的に御影の方が勝っている。

 迫りくる闇にこれでは怜二が負けてしまうと時音は思わず目を強く閉じた。しかし怜二が黒い闇に覆われる瞬間、彼は諦めることなく叫んでいた。



「閃光!」



 カッ、とその刹那一際強い光が中庭を包み込んだ。目を焼くようなあまりに強いその光に誰もが目をやられて何も見えなくなる中、いち早く目を閉じていた時音だけはその後の光景が見えた。



「俺の勝ちだ! 光の矢!」



 目くらましの間に御影の背後に回っていた怜二勝ち誇ったように叫び、御影の至近距離に矢が現れる。御影が驚いた顔で振り返るものの、すぐ間近に迫る光に対応できず――。



 次の瞬間、怜二の体は宙を舞っていた。



「は」



 ぽかん、と短い声を発したのは果たして怜二か時音のどちらだったか。

 早すぎて頭の処理が追いつかなかった。光が御影に当たる直前、言葉も無しに瞬時に彼の足元から現れた影がそれを覆いつくして怜二の体に巻き付き、そして彼を放り投げた。

 時音がそれを理解し終えたのは、ちょうど怜二が中庭の池に大きな水飛沫を上げて落ちた時だった。


 一瞬で中庭が静まり返る。ようやく目が見えるようになった亜佑がきょろきょろと辺りを見回して現状を理解すると、彼女は混乱しながらも「そ、そこまで!」と片手を上げた。



「椎名君の勝ち!」



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