詩 三篇
『され』
白いゆきの足裏に染まり、ゆるくさわぎ
指はいたるにゆらぐ
水面は、ゆらぎなだれる
すべりおちるてのひらにおさまるほどの
足裏は冷えこごえ
奥にひからび声すさべ
弾力はうしなう
衝突は散弾しつきふきころぶ秋
こうべは、いたるに さわぎったれ (こうべは、いたるに さわぎっ誰)
足裏はひたるめ こうしべの あめ (足裏は浸る 眼 香 蘂の 雨)
石膏にかためいたるにさわぐ(石膏に片目いたるにさわぐ)
障壁をなだめかしわぐ
必要にほる
**
『水蜜桃』
無垢で瑞々しい水蜜桃の果肉を齧り
その果肉に酔う
その香りは悪魔的で
僕は、そこに釘で打たれたように貼り付けたようにされよう
咽の奥にひっかかることもなく滑り落ちていく果肉を
僕は、ひどく貴重な得がたいもののようにして
一口ごとに腹が鳴り
一口ごとに涙ぐむ
蜜が零れるように内奥に沈めたものを
全て、偽物の言葉として吐き出すことなどどうして出来ようか
言葉は、言葉で隠してしか内奥を見せず
それはどうしたって奇麗事で包まれる
包まれたものをすこしずつ剥ぐように
すべすべの内心を見せつけようとしたところで
それはどうしたって表層なのだ
表層が醜かろうが、美しかろうが意味はなく
結局はやはり内奥が必要で
それらは、枯渇しないと見えてはこず
やはり、醜い
『水蜜桃』
無垢で瑞々しい水蜜桃の果肉を齧り
その果肉に酔う
その香りは悪魔的で
僕は、そこに釘で打たれたように貼り付けたようにされよう
咽の奥にひっかかることもなく滑り落ちていく果肉を
僕は、ひどく貴重な得がたいもののようにして
一口ごとに腹が鳴り
一口ごとに涙ぐむ
冷たく突き放したはずの幻影が
水蜜桃から香ってくる
それらを掻き抱くようにして
幻影はいつの間にか散り
僕の手には水蜜桃など見当たらない
そこは見もしない原っぱで
対岸の向こうにはもういってしまった僕の大事な人々が
僕を優しい目で見つめている
涙が伝って目を開けた時
籠一杯の水蜜桃の香りと
大事な君が飛び込んできた
僕は、君を掻き抱くようにして
胸一杯に水蜜桃の香りを吸い込むようにした
**
『ボーンボーンと鐘の音』
降り積もった紅葉がお地蔵様を隠してく
紅葉の海で小さな手足を伸ばし遊ぶ
ぶわりと風が舞ったとしたら
そこには男の子と三角お耳
稚くちまっこい
ボーンボーンと鐘の音
おいなりさんを共に食べ
展望を聞く
三角お耳はふにふにで
降り積もった紅葉の
秋の香り
三角お耳
お地蔵様にさらわれて
困った顔で佇んで
降り積もる紅葉に小さな手足を隠されて
たったひとりで泣き出して
ボーンボーンと鐘の音
『ボーンボーンと鐘の音』
降り積もった紅葉がお地蔵様を隠してく
紅葉の海で小さな手足を伸ばし遊ぶ
たとえば、紅葉にうもれた手のひらが
やけつくように思うのならば
紅葉に隠されたお地蔵様のように
純朴な子の前で顔を見せてはならないね
鐘がなろなろ
お家へかえろか
そのお家は温かなものでなければならないね
近くによろか
遠くににげよか
たとえば、紅葉にうもれた足さきが
爛れたように思うのならば
紅葉に隠されたお地蔵様のように
純朴な子の前で口を開いてはならないね
静かに夕日をみつめていよか
ひとりでぼんやり影踏みしよか
鐘がなろなろ
お家へかえろか
そのお家は、温かなものでなければならないね
鐘がなろなろ
お家へかえろか
この作品の一つ、『水蜜桃』に載せている挿絵は、檸檬 絵郎様から頂いた、ファンアートです。
>読後に残るのはやっぱり、なめらかに沈んでいく水蜜桃、そのうっとりするようなかたまりで……
と、表現して頂けたこと、
とても、嬉しく、有難い瞬間でした。
素敵な、作品を描いて下さり、こちらの作品への挿絵の掲載許可も
頂けたこと、感謝の気持ちでいっぱいです。
有難う御座います。
2018 3/8 22:10
藤 菊