であい、その四。
「何も、いない?」
レイモンドは驚いた。確かにさっきは何か見えたはず…なのに何もいなかったのだ。
「どうしたんだい、急に止まって…」
クルーパーが横からレイモンドの前を見る。直後、クルーパーは驚きを表情に表した。
「に、逃げてるだと!」
そこにあったのは、蓋が開いた空っぽの箱だけだった。
クルーパーは店員に命じて、必死になって逃げた魔物の捜索を始めた。
「すまない、レイモンド君。魔物が逃げた以上一番に優先しないといけないんだ」
「いえ、お構いなく。それで、どういった魔物なんですか?」
レイモンドはクルーパーに尋ねた。
「透明なスライムなんだ。多分店員の誰かが何も居ないと勘違いしたのかもしれない」
「でも、気付く様に上からあかりを当てておいたはずなんだけどね」
それを聞いて、レイモンドは目を見開いた。
「もしかして、さっき見た光は…」
その時だった。
キラリ…
彼の目に煌めくものが写った。
瞬間、思わず彼は走り出した。
「レイモンド君、危ないよ!」
それに気付いたクルーパーの声は、彼には届かなかった。
どこだ。どこにいる。
レイモンドはそう言わんばかりに見渡しながら、走っていく。
「はぁ、はぁ…」
いつの間にか、ずいぶんと暗い雰囲気の場所に彼は進んでいた。
それでも、彼は走り続けた。
何故か、なんて分からなかった。
ただ、衝動のままに足を動かしていく。
そして、見つける。
彼の視線の先には、きらきら光りながら進んでいくなにかがいた。
「よし、いた、今度こそ!」
そのままレイモンドは輝きへと向かっていった。
スライムは確かにそこにいた。
体をぷよぷよさせながら、ゆっくりと動いていた。
レイモンドは後ろから静かに近づいて、
「捕まえた!」
見事にスライムを腕の中で抱きしめた。
スライムはびっくりしたのか、ふるふるしている。
レイモンドは安心して、近くのものに寄りかかった。
「君は何故逃げたんだい?」
レイモンドは何となく聞いてみた。
スライムはふるふる揺れるだけだった。
そんなスライムを見て、レイモンドは笑った。
晴れやかな表情で、辺りを見渡す。
その瞬間、彼の顔は強張った。
「ここ、どこだ…」
彼は知らず知らずの内に、先程見ていない、恐ろしげな容姿の魔物達が檻の中にいる場所に来てしまっていた。
それは必然か、それとも偶然か。
彼の背後から、音が聞こえた。
ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、…
何かを壊すような、重音が響き渡る。
彼は驚き飛び退いて、背後に振り返った。
そこには、鋭い二本の角を持ち、強靭な巨体を持つ四つ足の魔物がいた。
「ど、どうしたんだろう…」
レイモンドは、恐怖を覚えて足がすくんだ。
ぐるるるるる。
恐ろしい声で、魔物は吠える。
そのまま魔物がレイモンドの方に向けて動き始めた。
大丈夫、魔物の目の前には檻がある。
そう思って、安心したのもつかの間。
魔物の突進によって、破壊音と共に檻が吹き飛んだ。
「な、な、」
なんで、と言い終わる前に、既に魔物はレイモンドの目の前にいた。
ぐるるるるる!
大声で吠えながら、魔物はレイモンドに向かって角を降り下ろした。