向かった先は
その後、『ぷにぷに』はクルーパーの屋敷の一室で箱から出された。
「スライムよ、しばらくここで生活してくれるか」
クルーパーは色なしスライムに向かってそう言った。
『ぷにぷに』は、少しふるふる震えると、ふよふよと部屋の中を動き始めた。
「ふむ、お利口さんだ。ではまたしばらく後に」
クルーパーは部屋から出る。使用人は静かに扉を閉めた。
『ぷにぷに』は、部屋の中を観察し始めた、ようだった。
部屋の中には、変わった形のオブジェらしき物体がいくつも並んでいた。
『ぷにぷに』はそれらに近付いて、触れたり、揺れたりした。
しばらくして、飽きてしまったのかオブジェらしき物から離れて、壁に沿ってふよふよ動いていった。
そのまま部屋の中をくるくる回っていく。
ずっと回る。
くるくるくるくる。
くるくるくるくる。
『ぷにぷに』は時間を忘れたように延々と回り続けた。
そんなこんなで結構な時間が過ぎて。
『ぷにぷに』は、部屋の隅っこにいた。
回るのにも飽きたのだろう。じっと動かないでいる。
「主人、準備が出来ました」
「よろしい。では開けようか」
二人の会話の後、部屋の扉が開かれる。
現れたのはもちろんクルーパー(と使用人)だった。
「では行こうか、スライム」
『ぷにぷに』の前に、大きくて豪華な箱が置かれた。
『ぷにぷに』は少しふるふると揺れた後、箱に向かってふよふよと動いた。
「今回のスライムは特に頭が良いようだ」
「そのようですね」
使用人は答えて、箱に向かって歩くスライムを掴まえた。
『ぷにぷに』はいきなり掴まれて驚いたのか、体をふるふるし始めた。
「こら、落ち着いて」
使用人は色なしスライムを丁寧に撫でる。
その手に応えるように色なしスライムは落ち着いていく。
「流石だな」
「いえいえこれくらいは茶飯事ですよ」
完全に色なしスライムを落ち着かせた使用人は、丁寧に箱の中にスライムをいれていく。
「入れ終わりました。いや、しかしこの触り心地は素晴らしいものですね」
「それは既に私がやったことなんだがな」
「知ってますよ、だからです」
それを聞いたクルーパーはため息をついた。
「まあいい。いくぞ」
「了解です」
二人は部屋から出て、屋敷からまた違う所に行く為に歩いていく。
『ぷにぷに』は、ふるふるしかしなかった。
二人とスライムは屋敷の外に出た。
「魔力車の準備は出来ています」
「今日ついてくるのは誰だ」
「マルリーチとペペです。魔物はいつもので」
「そうか、分かった」
クルーパーは魔力車に乗る。
色なしスライムを入れた箱はクルーパーの後ろの席に置かれた。
「では、出発だ」
それを合図に、従者の二人は魔物に命令する。
「前に動け」
指示を受けた大きな角を生やした四足歩行の魔物は、命令通り前に進み始めた。
『ぷにぷに』はそれに何かを感じ取ったのか、ふるんと軽く揺れた。
そのまま魔物車は進み、屋敷から出ていく。
「止まれ」
その声に、魔物は足を止める。
着いたのは、クルーパーの屋敷と比べると小さいといえる位の建物だった。
クルーパーは魔力車が完全に止まるまで待って、それから降りた。
「おろせ」
クルーパーがそう言うと、従者の一人が色なしスライムの入った箱を持ち上げながら魔力車からおろした。
「いくぞ」
クルーパーと従者、そして色なしスライムは建物の中に入っていく。
その場に残ったのは、移動に使われた魔物と魔物車だけだった。
『ぷにぷに』は、ふるんとまた軽く揺れて、動かなくなった。
作者は気付いた。スライムあんまり愛でられてない。
早く愛でる奴が出る所にまで向かいたいです。