おつかい、その一。
レイモンドは、ノーを抱きかかえながら屋敷の広間に来た。広間には装飾品は数える程しかなく、ただ広い空間が広がっていた。
そこには、既にフリダンカと槍を持った人型の魔物がいた。
「今日の教えを始めますよ」
「はい、よろしくお願いします」
レイモンドははっきりと返事をした。
ノーは抱きかかえられたまま動かなかった。
「今日はまず、前回の復習をします。前回に何を教えたか覚えていますか」
「はい、覚えています。契約した者に対する義務についてです」
「その主な二つは何ですか」
「魔物で人を傷つけてはいけない、国の発展に貢献しなくてはならない、の二つです」
「そう、その通りです。よく覚えていましたね。厳密には『魔物によって他人を攻撃、及びそれに準ずる行為をさせてはならない』、『魔物を扱う者は、国の発展に寄与しなければならない』の二つです。これは魔物使いにとっては一番大切な義務になります」
「はい」
「特に前者を守れない場合は基本的には魔物使いとその魔物の死によって償われます。気を付けるように」
「わかりました、気を付けます」
ノーはするりとレイモンドの腕を抜けて、肩の上に乗った。
「これで前回の復習を終わります。さて、今日行う教えは私としてのものを行います」
「国で決まっているものではないのですか」
「それ以外にも個人で決めるものがあるのです。始めますよ」
フリダンカは後ろに手招きをした。
それに反応して、後ろにいた槍魔物がレイモンドの方へ歩みを始めた。
その途中、ノーはレイモンドの首の回りをくるんと一回転した。
「!?!?」
レイモンドは思わず軽い悲鳴をあげた。
「全く、自分の魔物なのだからしっかりしなさい」
フリダンカはあきれた様子で言った。
そんな会話をしている内に、槍魔物はレイモンドの前に立っていた。
「受け取りなさい」
槍魔物はフリダンカの指示に従うように、レイモンドに紙を差し出した。
その紙には、こう書かれていた。
「クリエント北東部の市場の中から、グリスピーフィッシュを買いに行く」
グリスピーフィッシュというのは、クリエント北東部から先に広がる巨大な湖「メーティア」で多く獲られている魚だ。
クリエントに住んでいる者にとって慣れ親しんだ味であり、いわゆる伝統的な食材となっている。
「これをこなすことが今日の教えです」
「母上、質問があります」
「なんですか」
「グリスピーフィッシュならいつも買いに行っています。なぜこれが教えなのですか」
「簡単な話です。ランド、ノーと一緒に買い物に向かいなさい」
レイモンドは何故ノーと一緒に行くのか分からなかった。
「そう考えずに早く向かいなさい。急がないと日が暮れてしまいますよ」
フリダンカに言われるがまま、レイモンドはノーと一緒に屋敷から外へ出された。
レイモンドはいつの間にか手元にお金があることに気付き、それを服のポケットに閉まった。
「とりあえず行ってみよう。行くよ、ノー」
ノーは頭の上で、ふるんと揺れた。返事をしている、ようだった。
補足 「であい、その四」、「であい、そして。」の時にレイモンドは襲われているシーンがありますが、あれは義務に反する行為にはならないです。