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契約の時。

 



 そこは、地面に大きな円が一つあるだけの部屋だった。

 もちろんただの円ではない。文字、のようなものがびっしりと書かれていて、見ているだけで何か影響を受けてしまいそうな位奇妙な円だった。


「レイモンド君、スライムと一緒に真ん中に立つんだ」


「は、はい」


 レイモンドは緊張した面持ちで、円の中央に向かっていった。


「本当に大丈夫なんでしょうね」


 フリダンカは、レイモンドを見ながらそう言った。


「大丈夫だ。絶対に成功するよ」


 クルーパーは、レイモンドを眺めながらそう言った。






 少し遡り。

 クルーパーは、フリダンカ達に何故レイモンドがこのスライムと契約が出来るかを説明していた。



「契約は、魔物を私達人の元に縛り付ける為のものだ。我々は主に魔物達を気絶、または屈伏させることで契約を成り立たせている。しかし、スライムはそれでは上手く契約が結べなかったんだ」


 クルーパーは続ける。


「スライムは気絶しないんだ。しかも、屈伏したかどうかも分からない。つまり、違う方法をとるしかない」


 レイモンドは、真剣に耳を傾けていた。


「スライムに契約を受け入れて貰う、というものだ。しかし、これは普通だったら可能性の低い手段。あきらめ半分で、試してみることにした」


 フリダンカは、黙ってクルーパーの話を聞いていた。


「そうすると、何故か上手くいった。しかも何度やっても必ず成功するんだ。つまり、これがスライムとの契約方法と分かった。そのはずだった」


 クルーパーは、ゆっくりと、正確に言葉を続けていく。


「でも、この透明なスライムは違った。契約が失敗したんだ。何度も」


 クルーパーは、ちらりとスライムに目を向けた。

 スライムは、それに気付いたのか、少し揺れた。


「稀少種だから、なのかもしれない。そう考えたところで、何か他の方法が思い付くわけじゃない。そうして、我々はどうしようか悩んでいた」


 フリダンカは、クルーパーを見つめていた。


「そこに、レイモンド君。スライムがさっき君と見せてくれた、友好行動が関わってくる」


 レイモンドは首をかしげた。


「過去の資料を見てみると、魔物が友好行動を見せている相手との契約は失敗した例がない。つまり、レイモンド君とスライムは契約がまず成功するだろうね」


「でも、それでも稀少種だから失敗する、ということはないんですか」


 レイモンドが問いかけた。


「はは、そう言われるとなんとも言えないけど、やってみる価値はあると思うよ」


「ちょっと待ってください」


 そこに、フリダンカが口を挟んだ。


「レイモンドは、一度もこの透明スライムがいいとは言っていません。それなのに何故既に契約を結ぶことが前提になっているのですか」


 クルーパーは黙った。


 フリダンカは続ける。


「レイモンド、もう一度考えなさい。今まで見た魔物がいいのか。その透明スライムがいいのか。もちろんまだ見ていない魔物でも、構いません。自分がどの魔物と契約をしたいのか、じっくり考えるのです」


 レイモンドは頷いて、思考の世界に沈んでいった。





 そして。考えた結果、彼は決めた。このスライムにすると。

 それを聞いたフリダンカは、何も言わなかった。






 レイモンドは、ゆっくりと円の中に入っていく。

 近付けば近付くほど、何故か円が遠のいていくような感覚に囚われながらも、中に進んでいく。

 その永遠にも思われた時間は、呆気なく終わり、彼とスライムは円の中心に立った。


「目を閉じて。感じるんだ。スライムの全てを」


 レイモンドは言われるがままに、目を閉じた。







 暗闇。彼の視界には、何も映らない。



 暗闇。彼の腕は、柔らかくて、心地よい感触を感じていた。



 彼は、必死にスライムのことを感じようとした。



 そして、彼は暗闇の中に、輝く何かを見つける。



 その輝きは、暗闇を白く塗り潰し。



 彼を、光輝く世界へと(いざな)った。

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