全俺が泣いた
俺は異世界ホライゾンに転生した。
転生する前に貰った能力は【移増殖】だ。
聞き慣れないだろうから能力の説明をする。
弱っちい俺は二度目の死を極端に畏れていた。
この能力は殺されても死なない。
おっと、言い方が悪かった。
もし、殺されるような傷を受けても遺伝子レベル、原子レベルで死なない。
つまり、二度と死ぬ事は無くなったのだ。
でも、これだけだと俺は弱っちいので殺され続ける(動きを止めると言う意味で)事になってしまう。
これをやられてしまうとお手上げなのだが、この能力は一味違う。
俺を傷付けた武器が剣だとすると血糊から俺が感染する。
生物、無機物を問わずにだ。
感染すると俺がそいつにすげ代わり今後襲ってこなくなるっていう寸法だ。
と、長々と説明していた俺だが、あてどもなく歩いていると早速山賊に遭遇してしまった。
即座に踵を返し、脱兎の如く逃れようとしたのだが、間に合わなかった。
太ももに熱い痛みを感じ、下を向いてみると深々と矢が突き刺さり反対側まで貫通していた。
動きが極端に遅くなった俺は二、三歩歩いたところで呆気なく追い付かれ首を落とされた。
やはりというか、この痛みは激痛であった。しかし、時間が経てば元に戻るのだ。
俺の意識だけはハッキリと残っているのだから。
俺の意識は弓矢、剣に移っていった。
どうやら山賊は俺の荷物を物色しているらしい。
山賊は持っていた剣に付いた血糊を紙で拭き取っているが俺の血が指に少し付着した。
俺が少しずつ侵食していき、やがて山賊の意識とすげ替わった。
俺はまたすぐに殺されたくはないので仲間の振りをすることにした。
時間が経つと転がっていた遺体?は野鳥や野獣に食われていく、そこからまた侵食。
例外的に地面まで俺になっていたのには驚いたがそこは気にしない。
そうして空気感染のように俺は広がっていき、瞬く間に世界を駆け巡った。
そう、異世界ホライゾンは俺になったのだ。もちのんそこに済む動物、植物、無機物に至るまで総てが個々の俺である。
この世界で何十億年と暮らしてきたが、些か飽きてきた。そろそろ死のうと思っていたが、想像以上にこの惑星は頑丈だった。
なかなか死ねなかったが、ついに来たようだ。
異世界の太陽による超新星爆発だ。
爆風により俺もろとも異世界が吹き飛んだ。
俺が異世界なので少し説明がおかしいが。
死んだと思われた俺だが、どうやら死んではいなかったようだ。吹き飛ばされ、散り散りになった俺は宇宙をさ迷い、至る星に降り注いだ。
星々を侵食し、止まることを知らない俺。誰か俺を殺してくれ!
俺が俺を殺そうと抗うがその時は訪れない。
最早、全宇宙が俺になり、ブラックホールに全て呑み込まれても変わらなかった。
そして、二度目のビッグバンが起こる。
ビッグバウンドと呼ばれる現象だ。
逃れることのできない生に呪いのような憤りを感じ、俺は散り散りになりながら泣いた。