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現実はラノベよりも奇なり

辺り一面が完全な真っ白だったのはほんの数秒だった。


まるで野菜の皮を一気に剥がすかのように、見ていて微かな清々しさすら覚えるほどのスピードで白が剥がれていったかと思えば、その下にあったのは群青の幾何学模様。無地の紙に不規則に伸ばした無数の線は、どこか芸術家が描いた絵画を思わせるようなイメージを俺に抱かせた。


詰まる所、素人から見たら『これのどこがいいんだ?』と感じたわけだが。


意識がそんなわかる人にはわかる芸術から離れた後、やっとこさ俺の現状がわかってきた。


ここは部屋。ホラーゲームにありそうなドアがあるだけの狭い密室。そこに俺と女の子と2人きり。これはなんというエロゲだろうか。


「着きました。ヤマグチさん、行きましょう」


「え? あ、ハーイ」


普通のフリーターだったのに、ひょんなことから純情可憐な大和撫子を密室で――という所までタイトルを考えていた俺は、思考を中断して名前が魚卵の某1歳児の声を真似て返事をして、部屋の中央に埋め込まれた石に躓きながらトウジョウさんを追いかける。


するとそこは空港のような広いロビーだった! という俺の勝手なイメージを見事に砕きに来ましたよとばかりに、俺達の前でカンテラを片手に棒立ちになっている人物が1人。


ライトノベル等で魔法使いが着そうなゆったりしたフード付きのローブを着用していて、ヴェネツィアカーニバルで出回りそうな仮面を付けているという、怪しさがカンストしている性別不明のお方だ。扉を開けたらいきなり目に入ったのでちょっとビビった。


『お疲れ様です。ご無事でなによりでございます。出口へご案内いたしますのでこちらへどうぞ』


「お、おぉ?」


無口キャラかな? なんて妄想していたら、トウジョウさんに向けて聞いたことも無い言葉で何かを伝えて歩き出すローブ仮面さん。俺に向けた物ではないとはいえ、油断している所への外国語は心臓に悪い。


「お願いします。こっちですよ」


「へあっ!? う、うっす」


なぜかトウジョウさんもローブ仮面さんと同じように聞いたことも無い言語を喋ったというのに、一字一句が完全に理解できている。


一体全体どうなっているのかさっぱりだが、このまま固まっていても照明がカンテラだけの真っ暗な通路の真ん中で放置プレイを余儀なくされてしまうので、俺より背丈が頭二つ分は低いはずなのに、今はやけに大きく見える女の子に追従する。


「あの、トウジョウさん。今の言葉って何語? 初めて聞いたからさっぱりでさ」


「セリノア語ですよ。英語に代わる世界共通言語です」


「へー。慣れるのに時間かかりそう。お勉強必須だな……ん?」


肩を並べて歩きながら親切に教えてくれたトウジョウさんの言葉に、俺は元々できていた『初耳のセリノア語がなぜトウジョウさんの口から出たらわかるのか』という疑問に、新しく生まれた疑問が積み重なって猿のような面になる。


さっきトウジョウさんは間違いなく『英語』と言ったのだ。異世界で英語ってあるのだろうか。

そして思い出してみると、召喚中で時が止まっていた時にトウジョウさんは『火星』と言っていたということに気付く俺。あの時は色々と脳内が混乱していたから見逃していたが、今は違う。


「トウジョウさん、つかぬ事をお聞きしますが、ここって……異世界ではなかったりする?」


「異世界? ……あ、そういえば説明がまだでしたね」


俺の疑問にすみませんと申し訳なさそうにすると、トウジョウさんは教える内容を頭の中で組み立てるように少し間を開けると、再度口を開いた。


「ここは地球です。魔歴340年なので……西暦換算で2356年ですね。340年前に魔法が使えるようになって、それを機に新しい暦になりました」


「……それマジ? んじゃあれか。未来の地球は魔法で溢れかえるマジカルでファンタジーな愉快極まりない世界になっちゃったってわけ? しかも、俺が召喚された年……2016年から」


「そうですね。なんでこうなったかというと……って、ヤマグチさん? どうしたんですか? なんか形容し難いすごい顔になってますよ」


「ごめん。なんかもう、あり得なさすぎて理解しようとすることを放棄しそう。そっかぁ……未来かぁ……俺、タイムリープしちゃったかぁ……」


「あの、大丈夫ですか?」


そろそろ開き直ることを覚えないと毎日が思考停止の日々を送りかねない。


モザイク処理待ったなしの顔面と化した俺は、なんとか現実を受け入れる準備をしながらトウジョウさんについていくのであった。




無駄に長ったらしい廊下を歩くこと数分後。


俺達はこの施設――セリノア国立召喚場のロビーに辿り着き、ようやく真っ暗闇の道から解放された。ついでに俺もモザイクは不用になる程度に顔と心中を落ち着かせた。


現在は建設費用の3割はここに使ったのではないかと思わせるほどの広さがあるロビーの隅に設置されていた木製ベンチに移動し、施設の職員達が血管を流れる赤血球のように移動する様を眺めていた。


飛び交うセリノア語が耳を通るごとに、日本語しかわからない俺は非常に肩身の狭い思いをしている。受付で何かしらのやり取りをしているトウジョウさんの帰還が待ち遠しい。


「んお? おっほぉ? 尻尾? 翼?」


ファンタジックな未来とはいえ地球なだけあって、職員の男女が着ている白衣やスーツはよく見慣れた物。時たま見かける私服姿の人も過去と比べてもあまり変わらない格好をしているから、無地のTシャツに白黒のチェック柄の薄いジャケット、濃紺のジーパンという俺の姿も悪目立ちはしない。


たまに胸元をはだけさせていたり、腹部や背中が丸出しの衣装を纏うけしからん女性もいるから観察のし甲斐がある。げへへ。


そんなエロ親父目線で鼻を伸ばしながら観察をしていると、老若男女問わずにちょくちょく大きな尻尾が臀部から飛び出している人がいるのだ。


犬や猫のようなとても見慣れたものから、兎や狐。果てには見たことも無い生き物の尻尾もあり、もふもふ系から鞭みたいな見た目まで揃っている。まさに十人十色。


極めつけは、背中から大きな鳥の翼を生やした方もいたりする。こちらも翼の見た目が白鳥や鷹まで様々だ。


「ふおぉ……未来ってすげぇ」


これは亜人というやつだろうか。ライトノベルやゲームの知識も馬鹿にできない。後で詳しいことをトウジョウさんに教えてもらおう。


「お待たせしました。手続きに手間取ってしまって。行きましょう」


「あいさー。で、どこに?」


「私の家ですよ。今日から一緒に暮らすので」


「なるほど」


楽しみだと傍から見てもわかるほど声も足運びも軽いトウジョウさんについていき、俺は自己暗示をかけて無理矢理にでも開き直る努力を続ける。でも、この爆弾発言にいつまで平静を保っていられるかどうかは不明だが。


施設を出てすぐ。新宿よろしくかなり大きいロータリーが俺達をお出迎え。


だが、そこで待機しているのがバスやタクシー等ではなく、オール馬車なのが物凄い違和感を俺に覚えさせる。おまけに、俺の目が確かならば、所々に馬に角やら翼をくっつけた……というよりも、生えてるような生物も見える。


「本当はペガサス馬車やユニコーン馬車がもっと早いんですけど、ちょっと高いので普通の馬車で帰ります」


「神話の生物が溢れる未来の地球か。すげぇな」


「確かにペガサスもユニコーンも昔は神話の生物ということでしたけど、今は馬が進化した動物として結構ポピュラーな存在ですよ」


神話が現実になってずいぶん身近になったものだと思っていると、トウジョウさんは馬車の御者にセリノア語で自身の名前と俺の名前を言い、木製のワゴンの出入り口を開けてもらう。


アトラクションではなく、本物の馬車に乗るなんて初めての俺が緊張していると、先に乗り込んだトウジョウさんが俺の手を引いてくれた。なんだか情けない。


『出発します』


ワゴンの運転席に乗った御者がそう言ったすぐ後に、馬の小さないななきが聞こえ、ゆっくりと馬車が目的地に向かって走り出す。


ガラガラと木製の車輪が道を通る音が心地よく、トウジョウさんとの距離も近くなるほど狭い車内だが、何かしらの毛皮でできているマットが椅子に敷かれていて、気持ち高級感が味わえる。


そんなこともあって少しだけ貴族な気分になった俺はうきうきしてくる。間もなく成人する俺だが、こんな体験をしたら理屈無しにテンションが上がっていくものだ。


「到着まで大体2時間かかります。色々ありましたし、少しお休みになってはどうですか?」


「そだな。ただその前に、ちょっと聞きたいことがあるからいくつか聞いていい? というか、なんだか肌寒いな」


「いいですよ。あと、ここにタオルがありますから使ってください。セリノアは11月ですし、寒いのも当たり前です」


「冬やないかい。俺が召喚されたのは春なのに。あ、タオルサンキュー」


まあ、時間軸がどうのこうの言っていたら話も進めないし、あまり気にしなくてもいいか。


「んで、まず質問その1。さっきのローブで仮面な人とトウジョウさんが話してた時は2人とも……えっと、セリノア語だったのに、なぜかトウジョウさんの言ってることは理解できたんだけど、どういうことかわかる?」


「はい。それは召喚者と召喚魔の間では、あらゆる言語が翻訳されるんです」


「なるほど。だからトウジョウさんのセリノア語だけはわかったのな。他の人の言葉もわかりゃいいのに」


「無い物ねだりはいけませんよ」


柔軟剤を使いまくって洗濯し、干し終わったばかりのような香りとふんわり具合を誇るタオルの暖かさに顔がとろけそうになりながら、魔法の半チートっぷりに驚愕する俺。便利な事この上ないが、他人の言葉まではわからないのは正直痛い。


ここは後日にでも、トウジョウさんにマンツーマンでセリノア語講座をご教授願うとしよう。


「次の質問。その辺で結構見かける尻尾や翼が生えてる方々は? 亜人?」


「亜人ではなく、獣人類じゅうじんるいの方ですね。全世界にたくさんいらっしゃいますよ」


「獣人かぁ。あれ? 鳥って獣か? 鳥人類ちょうじんるいとか翼人類よくじんるいじゃないの?」


「翼を持つ人も獣人類ですよ。正確には獣人類のなんとか族と呼びます。例えば、鷹の獣人類の方なら、獣人類の鷹族です」


なるほどと頷く俺を見て、嬉しそうに微笑んでくれるトウジョウさんはとてもかわいいという感想が最初に浮かぶ。そんな目の前のことしか考えていない感想をさておいて、未来は本当に根底から覆されているのだろうと感じた。


魔法を始め、新たな言語と神話の生物、さらに獣人類。俺がいた時代では全て創作だった物が、全て現実に存在しているのがその証拠だ。


「ぐるぶるるぅああぁぁ……ねみぃ……最後のしつもーん……」


「いくらでも時間はあるんですから、今はお休みになってください。私も少し寝ますし」


「そう? ほんじゃ、お言葉に甘えて寝かせてもらいますわ……」


ガタゴトと馬車に引かれて揺れる車内は、車輪の音や不規則な震動が合わさって心地よく、俺の睡眠欲を程よく刺激してくる。


彼女の言う通り、時間はたっぷりあるのだから、慌てず騒がずじっくりゆっくりと、学ぶべきことは学んでいこうと決め、俺は隣から漂う女の子特有の甘い香りを堪能しながら意識を手放した。





縦にしか揺れないはずの馬車内で、突如俺の身体が控えめに横に揺れ出す。


ハッと目を一瞬だけ全開にする程度にびっくりした俺だが、隣からトウジョウさんが俺を揺すって起こしてくれたことに気づき、シャッターのようにまぶたを再度下げなくて済んだ。


「間もなく到着ですよ。下りる準備をお願いします」


「了解っす」


馬車内から外を見てみると、ただひたすらトウジョウさんが萌える変顔をしまくって俺に披露し続けるという夢を見る直前に見た、首都特有のごちゃごちゃとした建物の群れは無くなり、代わりに大小様々な家屋だけで構成されている住宅街に入っていた。


そのほとんどがレンガ造りだということに、未来よりも過去に来たかのように錯覚しそうになる。勝手ながらも、未来は魔法と科学が共存した幻想的未来都市な光景だとばかり思っていた俺にとって、ものすごい肩すかしを喰らった感がある。


そんな時代錯誤に戸惑いを覚えながら、だらしなく垂れていた涎を拭いて到着を待つこと数分後。

馬車の速度が落ちてきたのを感じ取って外を覗いてみるが、目の前に鎮座するこの西洋の世界には場違いな和風のお屋敷が鎮座している。


周囲から浮きまくりな外観であり、いずれ大気圏も突破するんじゃないかというくらいの浮きっぷりだ。


「……まさかね」


「到着しました。ヤマグチさん、下りましょう」


御者に見たことのない紙幣を差し出してお釣りをもらい、一足先に馬車から下りたトウジョウさんを追いかけて俺も慌てて追従する。お世話になった御者に一礼することも忘れない。


そして視線を馬車からトウジョウさんに向ければ、彼女の進行方向は一切の狂いも無く武士が住んでいそうな屋敷に一直線ということを知ってしまった。


俺よりも少しだけ高い白い塀に囲まれた日本屋敷の正面には、匠の業とこだわりがこれでもかと光る塀と同じくらいの高さの木製の門があり、トウジョウさんはそれを軽々と押し開けて突き進み、俺はビクビクしながら門をくぐる。


敷地内もこれまた日本特有の伝統溢れる武家屋敷よろしく白砂利が所狭しと敷き詰められたテニスコートくらいの広さはある中庭に、松の木やら池と鹿威しやらと、まるで日本のお屋敷の典型例をそのまま形にしたかのような所だ。ここまで来ると、周囲から浮いていてもいっそ清々しくもなりそうだ。


「トウジョウさん、お金持ちだったんですね」


「まあ、何不自由なく暮らせる程度には資産はあると思います。両親がPMCの創設者で、戦闘要員コントラクターでもあるので」


「PMCって……民間軍事会社!?」


「はい。よく御存じですね」


民間軍事会社ことPMCとは、とても簡単に説明すれば多角的な『戦闘』を行う傭兵だ。某スパイアクションゲーム等にも登場する企業として、何となく知っている人も多いかもしれない。実際俺もその1人だ。戦争するための戦力以外にも、要人等の警護や軍事訓練と、戦闘に関係する色々なことを行う会社と俺は認識している。


ただ、魔法に西洋的な街並み、新たな人種に生物ときて、そこへぶち込まれた第二次世界大戦後に生まれた会社。


未来は過去の世界になったけど、現代の文化も生き残っている。なんというか、世界は進化していたり退化していたりそのままだったりと、この世は『ちゃんぽん』なのだと、勝手ながら俺の未来像が出来上がった瞬間である。


「ささっ。早く上がってください。ただいま帰りましたー!」


「あ、はい。お、おじゃましまーす!」


この子も物凄い経歴の持ち主だなと、少しだけトウジョウさんを見る目が変わりそうになりながらも、俺は彼女に続いて屋敷へ入っていく。


やはりというべきか、内装も落ち着きのある木造で、玄関や廊下も必要最低限の物だけが置いてあって無駄が省かれている。そのためかどこもかしこも広く感じられて心地良い。


そんな廊下を進んでいくと、トウジョウさんが俺に少し待つように言ってから「失礼します」と一言断りを入れ、室内にいる男性の返答を聞き、直後に襖を開けて入室する。


とりあえず俺はその場にぽつんと突っ立って待機。正座していた方がいいのだろうか。


「どうぞ入ってください」


「うっす。失礼します」


耳に入ってくる話声を聞きながら待つこと10秒。膝を着こうと腰を落としていた俺は、トウジョウさんに呼ばれて恐る恐るといった風に室内に進入する。


室内はもちろん和室。畳に掛け軸、生け花とこれまた風情のある綺麗な部屋。


その中央にはトウジョウさんと、柔和な笑みを浮かべるとても優しそうな若草色の和服を着こなしたおじいちゃんが正座していた。


「どうぞお座りくださいな。楽にしてくださって構いませんよ」


「はい。ありがとうございます」


声すらも優しそうという不思議な日本人のご老人に促され、俺も座布団の上に正座で座ろうとする。

だがしかし、こういう時の礼儀作法というのはあるのだろうか、何気ない行為が失礼に当たったらどうしようと、ぐだぐだ考えてしまう俺。


そんな無知であることで醜態を晒そうとしている俺に気付いたトウジョウさんが、正座を崩して女の子座りをする。そこまで堅苦しくするなと暗に示され、俺もそれに倣ってとりあえず普通に正座する。


「貴方がユキの召喚魔ですな。彼女の祖父のキリヤ・トウジョウです」


「えと、ユキさんの召喚魔の山口徹です。よろしくお願い……します?」


「こちらこそよろしくお願いします」


キリヤさんの日本語による自己紹介にこちらも日本語での自己紹介で返すが、よろしくも何も、正直に申し上げれば俺はこれからどうすればいいのかはさっぱりわからない。


「ほほ。ユキのパートナーなら大丈夫と心配はしてなかったですが、真面目そうな好青年ですな」


「どうも」


会って早々に期待されてしまっている。プレッシャーになるからやめてほしいとは流石に言えず、会釈だけしておく。期待を裏切らないようにはしたいが、前述の通り、俺は真面目に何に取り組めばいいのかはわかっていない。


「おじいちゃん、これからのことなんですけど」


「それはタカフミとレイカが帰ってから話しましょう。時間はありますしな。それまではここでの生活に慣れるために協力してやりなさいな」


「わかりました」


「タカフミとレイカって? 親御さん?」


「はい。今は長期の依頼で国外まで要人の警護に出ています」


どうやらしばらくは未来の世界についてを勉強することになるようだ。確かにセリノア語や常識を知らないと不便極まりないだろうし、これはありがたい。


なにより、トウジョウさんとワンツーマンのお勉強会は、美少女が講師ということを除いても。夢に見た魔法の世界のことを知れるとあって楽しみだ。思わず顔がにやけそうになる程度に。


「それではユキ、彼の部屋に案内してやりなさいな。トオル君、ここを第2の家だと思って暮らしてくださいな」


「ありがとうございます」


「部屋はこちらですよ」


すっと流れるように立ち上がるトウジョウさんを真似たら、おっさんよろしくどっこいしょと重い腰を上げるような風に立ち上がってしまうことになった俺。トウジョウさんと比較されたらすごい滑稽だ。


それはさておき、退室時にキリヤさんに一礼し、未来に来てから数回目になるトウジョウさんの背中を追いかける。そして、話し合うことなく俺がこの家に厄介になるのは確定な様子。行く宛など皆無なのでとてもありがたい。


「おじいちゃんも言ってましたけど、実家と思ってくつろいでくださいね。足りない物は明日買いに行きましょう」


「あ、お構いなく」


「構いますよ。ヤマグチさんは家族も同義。変に遠慮するのは駄目ですよ」


「出会って半日以内に命の恩人から家族扱いされるって、これほど稀有なことはもしかして世界で俺だけかもしれんね」


「ふふっ。そうかもしれませんね」


部屋に向かう道中、今夜の夕飯のことや明日の行動、勉強会の日程についてと、様々なことを話しながら床板を踏んで進んでいく俺達。


聞けば聞くほど、年甲斐も無くわくわくとどきどきが同時に間欠泉が如く湧き上がってくる。


結構子供っぽいなとも思ってしまったが、ここは素直に明日を楽しみにしようと俺は心に決めた。

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