目覚め
目を覚ますと知らない天井だった。
否、それは天井と呼ぶにはあまりに低すぎる壁であった。
俺 ━━━━ヴァルナー・トーメルンは壁を押し上げゆっくりと体を起こした。
気の抜けるような音を立て今まで俺が入っていた生命維持装置がその機能を提出する。
ひどくめまいがする体を押して、近くの錆びた呼び鈴を鳴らす。
しばらくして、立派な髭を蓄えた厳つい顔の男が部屋に入ってきた。
「伯父様!お目覚めになったのですね。」
部屋に入るなり男は言った。
俺はその呼び方に驚く。
「お前、クレイか!?」
「ええ。」
「老けたなあ」
クレイは、俺の弟 ━━━━ホーケンの息子だ。
まだ成人もしていないかわいい子供だったのに。
今は気難しい老人にしか見えない。
時の流れは残酷だ。
「今何年なんだ?」
「伯父様が眠られてから丁度50年。今新暦358年です。」
「50年… ああ、とりあえず何か飲む物と着る物を頼む。」
「今手配しますね。」
そう言うと彼は女の召使いを呼び、少し派手目の服とコップ一杯の水をもってこさせた。
なんとか一人で服を着、そばにあったベッドに腰掛けて水を少し飲むとクレイに尋ねた。
「ホーケンは?」
「父は4年前に…」
「そうか…」
ホーケンとは歳が4つ離れていたので、生きていれば71になるはずだ。
まあ、人の命などそう長くは無い、70まで生きれば長生きしたほうだ。
「それで、あの病気のことは何かわかったのか」
「はい、今は治療法も確立しています。」
クレイは笑顔で答えた。
それを聞いてほっとする。緊張の糸が切れ急に眠気が襲ってくる。
「すまんが、もうひと眠りさせてもらう。」
「おやすみなさいませ。」
クレイがそう言いつつ部屋から出ていくのを、うすぼんやりと見つつ俺はすぐに眠りについた。
夢を見ていた。
50年前の夢だ。生命維持装置なんていう、ろくに動くかも解らないような代物に俺が乗ろうとするのにホーケンが反対する夢。
俺は病気だった。徐々に体が動かなくなっていく病気で、当時はまだ治療法も見つかっていなかった。
体が段々と自分のものでなくなっていくのが嫌だった。死んだほうがましに思えた。
だから、未来に治療法ができていることを祈って俺は装置に身を預けようと思ったのだった。
弟にはその考えがあまり伝わってなかったのだろう。そんなことをしなくても、そのうち治療法が見つかる。というようなことを言っていた。
あるいは、父が死んで、俺までいなくなると、一人でトーメルン家を存続させていけるか不安になったのかもしれない。
どちらにせよ、俺が弟の言うことを聞くことはなかったが。




