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異世界の元勇者

勇者だったとしても、正義感があるわけではないのです

人気の無い真夜中の市場をのんびりと歩く。

もちろん、眠れないから暇すぎての散歩で。

「あ〜……ねっみい……ふわあ」

こぼれる欠伸を噛み殺し、火焔樹は振り返る。

「で、なんか用でもあんの」

眠そうな目には、5人の男がそれぞれ武器を構えて睨んでいた。


-誰だろうか、いや知らないな

-それよりも眠い


「はああ……」

再び出てきた欠伸を余裕と捉えたのか、男たちは舌打ちし駆け出す。

「死ね!」

幸運(さちはこび)の者は消え失せろ!」

「ああ、あんたらそろそろ逆に消え失せそうな反対勢力の人らか。会長さん相手によくここまでもったな。いや、会長さんが手を抜いて遊んでたからか。つかそのせいでこうなったのかよ面倒だな」

剣を横に躱し、放たれた弓を腕で弾き振り下ろされる巨大な斧を片手で軽々と掴み、素手で破壊する。

この程度なら、武器を構える必要さえない。

「まあ、俺を狙ったのはまだマシなほうだと思うぜ?他の奴ら襲っても瞬殺されそうだしなあんたら」

「なっ……ば、化物め!」

「はっ!俺程度の力で化物とか、笑えるな。言っとくが、幸運家は俺よりも強いぞ」

何も無い空間から取り出したのは、2本のナイフ。

いかにも安物なナイフは、火焔樹の相手への余裕を表していた。

「まあそんな事は置いといて。ここら辺であんたら潰して会長さんに恩を売るのも悪くないし、ちょっと死んでくれや」

表情を変えることなく言い放った青年の異常さに、男たちは今更気付いてしまった。

死の瞬間まで絶望を味わうしかないのだと。



「ああ、やっぱり安物じゃこの程度だよなあ」

安物故に、火焔樹の雑な扱いにすぐ耐えきれなくなったナイフはボロボロになり二度と使えないだろう程になっていた。

それを適当な路地に放り投げ、死体となった男達を燃やし灰にして捨てる。

丁度花壇が目に入ったから、いい肥料になるだろうと少しずつ撒いて散歩を続ける。

「あれ、人間の灰って栄養あったか?まあいいか」

ばれなければ別に問題なんてない。

すぐに考えることをやめ、歩いている間についた国の中心にある噴水の縁に座る。

星が輝く夜空を見上げ、もう数百年も前になったことを思い出しあれは見事なものだったと火焔樹は小さく笑う。


誰かも知らない侵略者達に蹂躙される、かつて自分が生まれ育ち、救い、そして破壊した世界。

火焔樹は、何もしなかった。

その時にはもう、勇者でも殺戮者でもなくなった火焔樹は受け入れてくれた国の城の頂上で死にゆく人々と次々降伏していく国を、ただ眠気のこもった目で眺めていただけ。

終わる世界なら別に動く必要も無いし、それに眠いから何もかもどうでもよくなっていた。

死ぬのなら別にいいかなとか思っていた火焔樹だったが、運命はそれを許さなかった。

侵略者たちがあれよあれよという間に火焔樹を自分達の、すなわちエルフィア世界に連れてきて場所を与え自由にさせた。

普通の人間なら戸惑ったりなんだりとするはずだろうが、そんなことを期待しても無駄だった。

この世界に来る時に、エルフィア世界の特徴でもある不老になるための特殊な薬を渡された時も説明を聞かずにすぐに飲んだくらいだから、まず普通の感性自体存在していない。

即座に自分がいた世界を捨て去りエルフィア世界に適応した。


元勇者であり殺戮者。

愛用武器は銃剣。

とある魔王にかけられた呪いにより1年に2回しか眠れない。

エルフィア世界のほぼ全てを支配している企業の会長の家で快適な暮らしを送る。

これが、今の夢追橋火焔樹を簡単に説明したものである。

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