舌ピが可愛いとか、そんなの嘘だ
ちろり、何か光っているものが見えて、私の愛猫を撫でている彼に近付く。
二人掛けソファーに身を沈めている彼は、柔らかな手付きで猫を撫で続けながら、私を見た。
何、彼の口が小さく動く。
また見えた、そう思いながら手を伸ばす。
リップクリームを塗っていないらしい唇は乾いていて、切れそうで怖い。
親指で下唇を撫でて口を開けさせれば、顔を歪められてしまう。
部屋の明かりに反射して光るそれに、私の顔も歪んで、二人して同じような顔になる。
彼の膝の上の愛猫は、何も分かっていないように、にゃあ、と一鳴き。
「え、開けたの?」
「……ほう、らけろ」
口を開けさせた私の手は、彼の舌を引っ張っている。
赤い舌の上にあるのはキラキラと蛍光灯に反射して輝いているピアス。
こういうのなんて言うだっけ、人体改造?
「もふ、とひれひひ?」
舌の表面を撫でていたら、指を甘噛みされる。
ごめん、と呟きながら指を引っこ抜けば彼の唾液で、指がてらてらと光っていた。
彼の耳にもピアスはあるけれど、とうとうここまで来たのかと思う。
唸りながら、行き場の失った手を下ろそうとすれば、何故かパクリとくわえられる。
何してんだ。
ちゅるり、音を立てて指を舐める彼を見ながら、その舌に開いたピアスを塞ぐ気はないのかと問うてみる。
正直開けるのですら痛そうなのに、ピアスを外したら空洞だぞ。
半端なく痛そうだ。
「なんれ?」
「見てるこっちが痛いし。衛生的にどうかと思うよ」
耳にバツバツ開けるくらいなら文句は言わない。
むしろ私も何度か開けさせてもらった。
――人の耳を開けるというのは、何だか不思議と気分が昂揚するのだが。
ふーん、と頷く彼は、私の指をくわえたままピアスを当ててくる。
ヒンヤリとした金属の感触に肌が粟立つ。
肩を揺らした私を見逃すことなく、彼はひひっ、と楽しそうに笑う。
おおよそ、彼女に見せるような笑顔じゃない。
邪気しか感じられない、下卑た笑みを浮かべる彼は、グリグリとピアスを押し当てる。
楽しそうですね、なんて心の中で吐き捨てて、ぷつぷつと鳥肌の立っている腕を撫でる私。
ちゅっ、と可愛らしいリップ音を鳴らして、私の指を口から出した彼は、ニヤニヤと笑いながら、先程の私と同じように手を伸ばす。
撫ぜるように、耳に触れ、頬に触れ、唇に触れるその手は冷たい。
「お前も開けてみればいいよ」
唇を無理やりこじ開けられて、舌を引っ張られる。
どこに、なんて聞く気にもなれなくて、のんきに欠伸をする愛猫が羨ましくなった。