第八話 誰かこいつの口にガムテープを!
「……眠っ。」
入学式にて、僕たちは校長先生と教頭先生の長話を聞いてきたけど、やっぱりつまらない話ばっかりだった。
それなのに学園自体の事に関しては『徐々に慣れていってください。わからないこともじきにわかるようになります。』とだけ言って、学園について詳しいこともわからなかった。
この学園は、実は魔法特化の学校ということ以外はほとんど世間に公表されてないんだ。あ、ついでだから、この学校について僕がわかってることをまとめておこう。
魔法という技術を人間が会得してからというもの、魔法による犯罪も無論増えてきたんだ。だって、凶器も何もなく人に攻撃することができる魔法もいっぱいあるからね。だから、警察系統の人を守ったりするような職につくためには、戦闘技術って言うものをしっかり学ばないといけないんだ。
さらにそれだけじゃなく、人間が魔法を使えるようになったころ、他の生物にも魔法を扱う生き物が出現し始めたんだ。いわゆる魔物って呼ばれる生物。それを倒すためにもやっぱり魔法の戦闘技術が必要なんだ。
この学園では、一〜八組までは戦闘技術科って言って、攻撃魔法とかを中心に学ぶ科があるんだ。他にも魔法医療科とか、魔法調理科とかも色々あるけどね。
それでも、この学園は戦闘技術を学ぶことが中心の学園だから、そういう情報が漏れないように基本的な情報は外に漏れないようになってるんだ。生徒にも情報を外へ出さないことを徹底化してるしね。無論卒業後に関しても、だ。
「くそっ、眠てぇな……少しは面白い話でもしろってんだ。」
「あ、恭祐もそう思う?ホント退屈だったよね。眠そうにしてないの、白川さんだけだよ。遙なんかもう熟睡してるし。」
すぴー、と可愛らしい寝息を立てて、立ったまま向こうの世界へ旅立っている遙。器用だね、あの子。でも他の子も何人か立ったまま寝てるよ。器用なクラスだね。あ、晶はPSPしてる。バレたらどうするつもりだろ?
「スゥ……スゥ……ふぁ……さて、んじゃさっさと教室に帰るぜ。まだホームルームの時間が残ってるからよ。」
ちょっ、先生!あなた今寝てたよね!流石に教師がそれは問題だよ!
「さ〜て、くだらん長話も終わったことで、これからのことを話してくぞ。まあ、その前に自己紹介だな。右端から適当にしていけ。」
それだけ言うと、赤羽先生は教団から起きて教室の後ろへと移動していった。ホントにやる気のない先生だな〜。
「えっと、んじゃ俺からっすね。ええっと、俺は東雲中学出身の……」
そうして、クラス内の自己紹介が始まった。特に何の変哲もなく、ただ自分の名前、趣味、得意魔法、そして一言PR。結構面白そうな人はいるみたいだけど、柄の悪い人はいないっぽい。そこにはとっても安心できた。それと同じように、頭よさそうなのもまるでいなかったけどね。
「えっと、川里中出身の久瀬 智也です。得意魔法は特にありません。あ、物理干渉系は一応一つ上級魔法が使えます。今後ともよろしく。」
あ、あれはさっき遙と話してた男子だ。うん、こうしてしっかり見るとすごい美青年だなぁ。しかも上級魔法が使えるってすごいね。普通の高校生だったらせいぜい中級が関の山なんだけどな。何ができるんだろ、今度教えてもらお。
「お、もうそろそろ俺だな。」
「あ、ホントだ。僕も何言うか考えとかないと。」
恭祐の席の前の女の子が緊張した口調で自己紹介を始める。に、対してまるで緊張したような雰囲気のない恭祐。やっぱりこんなことで緊張はしないよね。
僕は何言おうかな、と考えていると、女の子は自己紹介を終えて席に着いた。次は恭祐の番だね。
「あ〜、光陵中出身の神谷 恭祐だ。みんな知ってると思うが、元一組だったが問題起こしてここに連れてこられた。これからも問題起こすと思うが、仲良くしてくれや。今後ともよろしく。」
顔には自信たっぷりの笑みを浮かべ、一度も噛むことなくただただ自身だけをみんなに見せ付ける自己紹介だった。まわりもガヤガヤと少し騒がしくなってる。けど、どれも否定的なことは何にも言ってないみたい。何かしてくれそうな奴だな、とかそんな声もチラホラ。最初からいい意味で有名人だな、恭祐は。誉められることなんか何にもしてないくせにね。ふんだッ!
「そして、こいつもみんな知ってると思うが、天下無双のバカ、藤堂 狂夜だ。残念ながらも、俺のダチだ。みんな大変だとは思うが、こんな今世紀最高のバカとも仲良くしてやってくれ。あだ名はケダモノで構わん、よろしくな。」
「ちょっと待って恭祐!なんで恭祐が僕の自己紹介をしてんのさ!それにその紹介では何も僕のことは伝わらないよね!」
ガタン、と勢いよく立ち上がった僕は、すぐさま恭祐の胸倉をつかむ。周りのみんなはあはは、と笑い声を上げているが、僕にとっては笑い事ではない。
「仕方がないだろう、お前の頭じゃあ自己紹介なんて難しいことができるわけがないんだからな。」
「違う!僕はそこまでバカじゃないぞ!ここ十年近く、恭祐は僕の何を見てたんだい!?」
「バカなところだが?」
「うおおおお!放せ、放すんだ晶!僕はこいつをぶん殴らなくちゃいけないんだ!」
「……キョウ、暴れないで落ち着く。」
「なんでだよ!?なんで晶まで恭祐の味方をするのさ!恭祐め、いつか侮辱罪で訴えてやる!」
そこまで言って、僕はあることに気付いて冷静に頭を回転させ始めた。
「ん、どうしかしたか、キョウ?」
……待って、こういうときに訴えるのって侮辱罪で合ってるよね?あれ、器物破損罪だった気が……
「そんな不安がることじゃないよ、キョウくん?合ってる合ってる、侮辱罪だよ。器物破損罪なんかじゃないからね?」
相変わらずの明るい微笑を浮かべて張るかが助言してくれる。よかった、合ってたか。この二つってよくテレビとかで出てくるからうっかり間違えそうに……
「キョウ!お前は本当に自己紹介の意味も知ってるか!?」
「え、何で疑うの!?知ってるよ、流石に知ってるよ!」
「うるせぇ!侮辱罪と器物破損罪を間違えそうになる奴の頭なんざ信じれらねえよ!」
バカな!それくらいみんなだって間違えるはずだ!
「辞書で侮辱と破損の意味でも調べとけ!このバカ野郎!」
と、恭祐がオーバースローで国語辞典を全力で……って、うおっ!危なっ!
「……おい、お前ら。自己紹介はまだ終わんねえのか?時間とりすぎだぞ。」
はぁ、と呆れ果てたようにため息をつきながら赤羽先生が割って入る。おしい、せっかく恭祐の頭に和英辞典をぶつけてやろうと思ったのに……
「……キョウくん、それ漢和辞典。」
嘘っ!だってこれどっからどう見ても……漢和辞典だよ、バカ野郎!!
「ほら、さっさと席着け、アホ共。さっさと続けろ。」
流石に先生の言うことに逆らうわけにも行かず、しぶしぶ僕たちは席につく。
それからは、先ほどまでのようにただ静かにゆっくりと平和な自己紹介の時間が過ぎていく。そして、最後に白川さんが緊張しながら台詞噛みまくりの自己紹介で締めくくった。可愛いなぁ。
「おい、トリップすんな、バカ。また文月に心の中読まれても知らねえぞ?」
「あ、ホントだ!」
やばい、と思って今更無駄なことはわかってるけど口を手で覆う。遙の方を見てみると、嬉しそうにニヤニヤと笑みを浮かべてた。まずい、すでに心の声を聞かれてる!
「今度からは自重することだな。」
「うわぁ、恥ずかしい……」
下手なことを考えるのはもうよそう。恥ずかしいだけだね。
「さて、全員終わったな。んじゃ、最後に俺だな。赤羽 春美、正真正銘女だ。得意魔法は自然操作系の主に炎、狙った獲物以外は燃やさねえ炎だって出せるぜ。ほらよっと!」
先生が手をかざした瞬間、教室中が火に包まれた。でも、決して熱くなんかないし、教室のどこも燃えてないし、誰にも熱は伝わってないみたい。
しかも今、何も唱えずに使った。ってことは詠唱破棄だ。こんな高度な魔法を詠唱破棄で使えるなんて、流石は神無月学園の教師だ。
「まあ、こんぐらいは序の口だ。ついで、これが一番得意なだけで、物理干渉系や魔法干渉系、情報系から具現化系まで全部できるぜ。まあ陣術は流石に使ってねえけどな。難しい上に複雑だからな。」
そう言いながら、赤羽先生は恭祐の方を見てニヤニヤ笑っている。それを見て、恭祐は軽く顔をそらした。珍しいね、あいつが誉められたくらいでてれるのなんて。あんな実力が上の人に誉められたからかな?
「とりあえず、この学園に入学したお前達は、もうこの学校の施設は自由に使って構わん。3D擬似戦闘教室も図書館も自由に使ってくれ。お前らにとっちゃあどれも珍しいものだからな。」
それは僕たちも非常に興味のあるところだね。というより、それを目当てに僕たちは入学したようなものだからね。
「さて、んじゃここからが本題だ。お前らには明日試験を受けてもらう。もちろん魔法の試験だ。これは成績にはカウントされねえが、クラス内でそのデータを掲示する。それを参考にこのクラスのリーダーを決めて、これからの大会に向けてのことでも考えてくれ。」
魔法試験かぁ。アンノウン系……とはあんまり言いたくはないんだけど、ともあれそれはしっかりと試験させてくれるのかな?自分で言うのもあれだけど、僕は召喚魔法がなかったら一般高校生と変わらないからね。中級魔法までしか使えないし、初球魔法の詠唱破棄さえできやしない。
でも、恭祐だって陣術以外はたいしたことがなかったはずだ。せいぜい中級が関の山だ。陣術の試験がなかったら大変だね。
「さて、本日は以上だ!明日遅刻してくんじゃねえぞ!それじゃあ、また明日!」
続く