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第五話 赤面するのは、なんかわからんけどとりあえず恥ずかしい

「……貴様、今のはいったいなんだ!?」


 先ほどの僕の魔法を見て、ヤクザの方々は少し腰が引けてるね。にしても、年甲斐も無くわーわー騒ぐのは社会人としてどうかと思うな、僕は。


「うるさいぞ、いい大人が叫ぶんじゃねえ。トリック!」


 その黒スーツの言葉を無視して、3人を陣でロックオンする恭祐。流石幼なじみにして親友、思うところは一緒みたい。


「オペレーション・ビギニング!」


「ぐおぁっ!」


 さっきのと同じ雷系の陣だ。とりあえず、3人は撃破。


「くそっ、こんなガキどもに何してる!さっさと始末しろ!」


「りょ、了解!フレア!」


 バックにいた人たちが、火の玉をいっせいに発射してくる。


「よ〜し、次こそは僕が!」


「やめろ、雑魚、邪魔なんだよ。自空間ゾーン!」


 何でみんなは僕の魔法を邪魔するんだ!シリアスな場面くらい頼ってくれたっていいじゃないか!


 ちなみに、ゾーンは一定の空間をその他の魔法から守る結界系の魔法だよ。


「馬鹿、お前に『普通の』魔法なんざ期待してないんだよ。それより、さっさとあの子を引っ張って来い。逃げるぞ。」


「ちぇ、了解。」


 マジギレした気持ちもどこへやら、とにかくさっきまで晶が守ってた子を救出に行く。


「そこの子、逃げるよ!ついてき……」


 僕はその子の手を引きながら全力で走……れなかった。ごめん、こんなことをこんな場面で言うのを許して欲しい。


 この子、すごいわ。パッチリとした大きな目、あどけさの残る可愛らしい表情、長くふんわりとしたその長髪は、その子の優しい雰囲気をベストマッチ、もうなんていうか優しくて可愛い女の子の理想像みたいな容姿の子だ。驚くべきは、そのナイスバディ、いわゆるボンキュッボンってやつだ(古いか)。


 なるほど、誘拐したくなる気持ちも分かるね。こりゃお持ち帰りしたいよ。


「馬鹿野郎!さっさとしろ!」


 ぼーっとその子に見とれていると、恭祐の叱咤の叫びが聞こえてくる。僕は我に帰り、つないだ手をギュッと握って今度こそ全力で走っていく。


「キョウ、そこでストップだ!こっからは二手に分かれるぞ!」


「はぇ!なんで!?……あっ。」


「そういうことだ、いいな!」


 言われた瞬間、僕は変な気勢を上げてしまったけど、僕はすぐに状況を理解した。僕がこの子を、恭祐が晶を助けようって事みたいだ。


「そこに陣を作る、トリック!」


 僕の足元に陣ができて、すぐに光を発し始める。


「オペレーション・ビギニング!」


 そう恭祐が唱えた瞬間、光は一層強くなる。この陣の上にいる僕たちは、すぐに元々恭祐が作っていた陣の場所へと飛ばされるはずだ。でも、僕はその光の向こうで見たくないものを見てしまった。


 ヤクザの人たちの中に、この光と似た光を発する陣の上に立つ5人の人の姿。アレは、もしかして……






「追跡方陣ってわけだ。」


 僕は今、北校舎(だと思う)の屋上に立っている。恭祐の言ってた移送方陣はこれだったのね。ちなみに、今のは独り言でもなければ、横にいる超絶美少女に話し掛けたわけでもない。ほんの数メートル前にいる、5人のヤクザの人に話し掛けたのだ。


「ほう、流石に博識だな。それもアンノウンだからこその、か?」


 そう言って一人は銃を、他の人たちはフレアを放つ準備をしてる。これは流石に危ない、かな?


「ふぇ?ア、アンノウン?」


「んにゃ、僕は別にそこまで特別な扱いは受けてないから。単純にその手の魔法ばっか使う友人がいてね。言ってもわかんないと思うけどさ。」


 女の子の疑問符は無視して、すぐに言葉を返す。

ちなみに、その友人は優香のこと。追跡方陣は、移送方陣の近くで陣を書いて、その移送方陣とリンクする魔法。故に、今みたいに僕たちが移送方陣で移動すると、それと一緒に追跡方陣も発動して移送方陣を描かれた場所に移動するんだ。


 普通は逮捕or監禁した相手が移送方陣で逃げないようにするための魔法で、警察関係or危ない人関係の人たちしか使わないんだけど、なんで優香は使えるんだろうね?


 あー後、アンノウンについてはノーコメンツ。僕はとにかくこの言葉があんまり好きじゃないからさ。


「ともあれ、おかしなマネをしてみろ。すぐにお前の頭をぶち抜く。おとなしくその子を渡せ。」


 僕をホールドアップして、超絶美少女をあっちに引き渡すことを要求してくる。でも、正直渡してあげるわけにはいかないね。モラルうんくんじゃなくて、主に僕の今後の素晴らしき学園生活を彩るためにも。


 ……ポ、ポイント稼ぎとか、そんなこと全ッ然考えてないからね!?勘違いはしないでね!?もし同じクラスだったらこの後の展開によっては、その、あの、まあ色々あることを期待なんかしてないからね!?


 あ、でも別クラスだったらどうしよう……はっ!今のは聞かなかったことにして!


「どうした!速くしろ!」


「うぇ!ああ、ごめんごめん。分かった、分かったからそんなに怒鳴らないでよね。」


 あ、軽く誰にしてるかもわからな脳内の言い訳でトリップしてたよ。って、あれ?女の子がなんだか悲しそうな顔を……って、今の会話の流れだと一応了承した形になってない!?やっちゃったよ!なんかボーっとしすぎた挙句、恭祐にいつも言ってるようなこと言っちゃった!


「いや、待てぇい!僕はこの子を引き渡したりなんかしないぞ!!」


 よかった、僕の『待った』のおかげで女の子の顔から少し恐怖が取れた。あ、でもまた不安そうな顔をする。表情のよく変わる子だな。


「と、言うわけで、とりあえず今は逃げさせてもらうよ。先生方に連絡した方が安全だし。」


「ふん、馬鹿を言うな。俺たちが逃がしてやるわけが無いだろう。」


 そりゃそうだよね、目的の品を前にして見逃してくれるとは僕も流石に思ってないよ。


 でも、それなら単純にこっちが勝手に逃げれば言いだけのことさ。


「お守り、早くも1個使うことになっちゃったな。」


「あん?」


 ヤクザの冷たい視線を受け流し、僕はポケットの中から『安産祈願』とかかれたお守りを……って、恭祐は何でよりにもよってこんなお守りを!単なるカモフラージュなんだからせめて『合格祈願』とかそんな感じの僕に合ったのにしてよ!人に見られたら馬鹿にされんじゃん!


「子供でも生む気か?」


「畜生!なんであんたらみたいな人はグラサンかけてもこれが見えるのさ!?」


「俺たちは視力は両目共に4.0だ。こちらの世界では常識だ。」


「マジで!あんたらアフリカ民族!?」


 っていうか、そんな常識は普通に考えてありえないはずだ。目の矯正は普通に視力を1.0くらいにするだけのもののはずだ。


「まあともあれ、このお守りを使わせてもらうよ!」


 これはただのお守りじゃないのさ。中には恭祐が魔法陣を描いてくれた紙があるのさ。


「オペレーション・ビギニング!」


 ちなみに、その陣にはとある方法で僕の魔力が使われてるから、発動できるのは僕自身なのさ。


「うおっ!なんだ、煙幕か!?」


 ご名答。あたり一面に霧のように煙が立ち込める。この隙を逃しはしない。


「君、逃げるよ!」


「え、は、はい!」


 僕は女の子の手を握って、そのまま校舎の中へと走りこむ。しかし、あれだね。こんな状況とはいえ、こんな可愛い子の手を引いて走れるなんて幸せ者だなぁ、僕は。


「あ、あの……」


「ん、どうかしたかい?」


 全力で階段を駆け下りていると、不意に女の子が話し掛けてきた。走るのが疲れたかな?もしかしてそれでおんぶを要求されたりなんか!


「だ、大丈夫なんですか?あんなに、危ない人たちにあんなことしちゃって。藤堂くんも危ないですよ?」


 ……するわけありませんよね、ハイ。わかってます、妄想ばっかの僕を許してください、神様。そういや、なんでこの子は僕の名前を知ってるんだろう?


「平気だよ、どうせこの学校内で教師を見つけるまで逃げればいいだけのことだから。それに……」


「そ、それに……?」


「いくら安全を買えるかもしれないからって、そのために君を売るような真似、できるわけないしね?」


 ニコッ、と笑いながら、とにかく女の子を不安がらせないようにする。あ、微笑み返してくれた。どうにか不安は取り払えたみたい。


「ところで、何で僕の名前知ってたの?多分、あったこと無いはずだけど……」


「いえ、有名な話だったので。」


「有名な話?」


「はい。なんでもこの学園に今年度、凄まじい、その……お馬鹿さんが入学すると聞いてまして……」


 グサリ。何かが僕のハートに刺さる音が聞こえた。


「あ、あはははははは、そ、それはきっと僕じゃないよ。ひ、人違いじゃないかな?」


「いえ、茶色い髪をしていて、メガネをかけた女の子と、珍しい陣術使いの男の子と一緒にいる、とも聞いてますし……」


 うう、言い逃れの方法がないよぅ……ってか、たかがほんの少し並より馬鹿なくらいで、入学前からそこまでの情報が流れるほど有名にはならないよね、普通?


「うん、そこまで行くと多分僕のことだね。でも、なんでまた僕はそんなに有名になってたのかな?」


「あくまで聞いただけの話なんですけど、藤堂君はただの馬鹿なんじゃなくて……」


 そこまで言って、女の子は瞳の色を変える。これは、もしかして好奇心?ってことは、僕の魔法、もうそんなに広まっちゃってるのかな?


「ものすごい、今世紀最大の馬鹿らしいんです……うわさでは、『存在そのものが冗談のような馬鹿』とまで言われてるそうで……」


 ひどい!僕もうこの学校ヤダ!!って言うかなに?僕って学園生活が始まる前から学園史上最高の馬鹿として認識されてるの?


 そこへきてやっと解った。この子の目の色が変わったのは好奇心じゃない、半端ないほどの憐れみだ。


「あ、でもでも!あってみたら、そんな感じは全然しませんよ!それに……」


 ある種の大きな絶望を感じている僕に、女の子は優しく励ましてくれる。あれ、目からなにかこぼれてるくなぁ。やだなぁ、泣いてないよ?これはアレだよ、汗?アセトアルデヒド?


「……それに?」


 僕が涙目……もとい!アセトアルデヒド目で聞き返すと、顔を赤らめながら軽く小声で囁くように言った。


「……とっても優しくて、カッコいい人ですから、藤堂君は……」


 返事を聞いた瞬間、僕の顔がボッと赤くなるのがわかった。人生でこれまでに無いほどに僕の顔が熱を発してる。インフルエンザにかかって40度の熱を出した時でさえ、ここまで顔が火照ったりはしてなかったと思う。そう思えるくらいに、顔が熱い。


「と、とにかく先生を探そう!は、速く逃げなくちゃね!」


 とりあえず、空元気でその場をごまかすことにした僕。本気で、今の顔は誰にも見られたくないって気分だ。っていうか、さっきからいくらなんでも人いなさすぎだよね、この校舎。さっきから色々回ってるのに、全然人が見つからないよ。


「やっぱり、部活棟はまだ賑わいませんね。入学式ですし。」


「え、ここ部室棟だったの!?」


 先に言ってよ、名も知らぬ美少女さん!そりゃ人も見当たらないさ!


「こうなったら、さっさと外へ出なきゃね!」


 人がいないとわかった以上、長居は無用だ。とにかく1階まで降りてさっさと外へ出よう。


 全力疾走の果て、ついに出口へとたどり着こうとした、その瞬間だった。僕は、またもや見たくないものを見る羽目になってしまった。

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