第四話 たまにはシリアスいいと思う!
「さて、それじゃあ何とかなったことだし、退散いたしますか?」
僕はかなりの電撃を喰らって一瞬で気絶したやっちゃん達を見ながら言う。
「いや、そうもいかなくなった。」
「へ?」
でも、ふいに恭祐が真面目な声を出して裏門の方を睨んでその意見を却下した。そういえばさっき裏門の方へ行った人たち、目的の品がどうとかいってたね。それがどうかしたのかな?
「……この学園の裏門付近で何らかの取引をする可能性がある。」
「ああ、なるほど。でもさ、ほっとけばいいんじゃない?」
曲がりなりにもここは教育施設だ。親御さんを預かるこういう施設では、警備のほうもばっちりのはずだ。例え相手がやっちゃんでも、警備の人たちの実力もかなりのものだろう。なんてったって、ここは魔法特化の「神無月学園」なんだから。
「……さっき認識魔法使ってみたけど、今はキョースケの騒動のせいで大抵の人が未だに校内でうろついてる。さっきキョウが言ったように、普段はここには不良がたむろしてるみたいだから、先生方も警備の人もここを探そうとは思ってないみたい。」
「うわ、マジ?」
「……マジ。」
ああ、ちなみに認識魔法は、調べようと思った空間内の人の位置とか空気の状態、存在してる物質などを調べる魔法ね。
でもそうなると仕方ないな。せめて先生方を呼ぶくらいはしないとね。
「んじゃ、僕は先生方を呼んでくるよ。」
「ふざけんな。そんな時間さえも惜しい。その間に逃げられたらどうするつもりだ。俺たちで解決するぞ。」
僕がゆっくりと校舎に歩み出そうとした瞬間、いきなり恭祐に却下された。
っていうかなんでだろう?なんかこいつが無駄に正義感発揮してるんだけど?僕の知ってる恭祐はこんな奴じゃないはずなんだけど……
あ!もしかして……
「ほら、とっとと作戦考えるぞ。お前もちょっとは力を貸……」
「恭祐、これってもしかして先生方へのポイント稼ぎ?」
「力を、貸して下さい……」
あ、図星だ。悔しそうにうなだれる恭祐を見て、僕はそう思った。
そりゃまあ、そうだよね。あんだけの事やらかしたんだもん。移送方陣による不法侵入(実はこれって犯罪だったりするんだ)や、その事に関する処分を下す前に脱走、挙句の果てに教師に暴行を働いて、退学にならないわけないよね?だったら、こういうところでポイント稼がなきゃだし。
「ふふ、しょうがないなぁ〜、恭祐は。仕方がない、僕も手伝ってあげるよ。」
「すまないな、キョウ。」
「……私も手伝う。今は何かと暇。」
「晶もすまんな、恩に着るぞ。それじゃあ、とりあえず作戦を考えるとしよう。」
僕たちは、とりあえず裏門の方を気にしながら作戦を考えることにした。
「まず、俺にひとつ案がある。」
「へえ、流石恭祐。で、どういう案?」
「ああ、取引が始まったら、まず最初にキョウが敵陣に突っ込む。」
そう言いながら、地面に敵陣を描いて、そこに「キョウ」と書かれた○を敵陣の中に描く。
「ふむふむ、それで?」
「以上だ。」
「待て!ふざけるな!」
なんでいつもいつもこいつはこういう案しか出さないんだ!僕のことがそんなに嫌いか!
「嘘だ嘘だ、ちゃんと続きがある。」
「ホンットに、こういう冗談はやめてよね。で、その続きは?」
「ああ、敵陣に突っ込んだキョウが死ぬまで敵をかく乱した後に……」
「その『死ぬまで』って言う前提がおかしいんだよ、畜生!」
「……キョウ、五月蝿い。」
「僕か!?この場面で悪いのは僕なのか!?」
つくづく思うよ、割に合わないね、この立ち位置。
「……まあ、僕が『死なない程度に』かく乱した後、どうするの?」
「俺たちが教師を呼びに行く。」
「止めないで、晶!僕はこいつをぶっ殺さなきゃいけないんだ!」
なんでそこでさっき否定したその案が戻って来るんだ!
「別にあいつらが逃げなければいいからな。お前がその足止めをしてくれたらいい。俺はそれだけで十分ポイント稼ぎになる。」
「死んじゃえ、恭祐の馬鹿!」
僕は本当に素晴らしい人間だと思わない?この仕打ちを小学生の頃から甘んじて受けてきたんだよ?
「……喋ってる暇、もうないみたい。」
「ほぇ?」
突然の晶の発言に、僕は素っ頓狂な声を出す。
「……認識魔法で調べた結果だけど、外から裏門に近づいてくる人がいる。極道さんたちもその人に気付いて何らかのアクションを起こそうとしてる。多分、アレが取引相手だと思う。」
「ちっ、キョウのせいで無駄な時間を過ごしすぎたか。」
「だからなんで僕のせいなの!?十中八九恭祐のせいだよね!?」
ともあれ、時間が無いのなら急がなきゃいけないのも事実、ここはすぐにでも行動した方がいいね。
「仕方ない、作戦もクソも無し、単なる背後からの奇襲で全員蹴散らす。キョウ、出し惜しみせずアレを使え。特に派手な奴をな。ちゃっちいのは使うな。」
「いや〜、アレは強いのにしちゃうと明日の疲労とかが大変なんだけど……」
「馬鹿なこと言うな。相手はヤクザだ。さっきみたいに遊び感覚じゃダメなんだよ。さっきあんだけビビらせたのにまだわかんねえか?」
そういわれると口をつぐむしかない。たしかに、さっきはどうにか解決したけど、正直怖かったのは事実だしね。
「……先人は僕がやる。」
「OK、んじゃそっから一気に俺が畳み掛けていくから……」
「僕が止め、どうにかしろってことね?りょーかい。」
軽くため息をつきながらも、この作戦が最上である以上、賛成しないわけにも行かない。まったく、恭祐の得点稼ぎのために僕がこんな苦労しなきゃならないなんて、割に合わないな。
「よし、それじゃあ……頼むよ、晶!」
「……了解。行ってくる。逃走用に移送方陣は用意しておいて。」
「わーってる。頼むぜ!」
晶は魔法で姿を消すと、タッタッタ、という小気味のいい音を立てて裏門へと走っていった。
「んじゃ、僕はちょっと魔力の充電の必要があるから……」
「ああ、その間に移送方陣をいくつか作っておく……って、よく考えりゃ1つ余ってたな。屋上にばれてないのが。」
相変わらず、この男は色んなところに陣を設置するなぁ。そんだけいっぱい設置したら、そりゃ1個くらいばれちゃうって。
「まあいい。ここら辺に設けた方が、万が一に先公に連絡する際に都合がいいしな。何気に職員室近いし。」
……僕らはなんてところで暴れてたんだろう?もしかして、職員室の先生全員を刈り出すほどに恭祐は追いかけられてるのかな?
「でもさ、それって大丈夫なの?今も先生方はいないんじゃ……」
「平気さ。……多分。」
こいつの方が絶対僕よか緊張感ないよ!こいつが死の恐怖を味わうべきだったんだ!
「まあ、万が一にも負けなけりゃいいんだよ。そろそろ行くぜ、晶が心配だ。充電は?」
「……よっし、終わり!いつでも使えるよ!」
「なら、万が一は起きねえ。さっさと終わらずぞ!」
僕たちもまた、晶の後を追って裏門へと全力で走っていった。
「……はぁ…はぁ……」
……まずい、ちょっと失敗だった。想定するべき状況が違ってる。そうだよね、こういうケースも想定しとかなきゃいけなかったんだ。
「あ、あの!だ、大丈夫ですか!!?」
「……へ、平気…あなたは、自分の身を守って……」
極道さん達は、何かの取引が目的じゃなかった……
「ええ、えと、えと、どうしましょう……?」
僕は後ろにいる美少女を見る。
……目的は、この人の誘拐だったんだ。
「おい、ガキ!さっさとそれを渡せ!」
「……人をそれだとか、物扱いとは感心しない。人としての礼儀がまるでなってない。そんな馬鹿は死ねばいいのに。」
「……まだ抵抗する気か……ならば、もうこちらも本気を出させてもらうぞ。」
目の前には十数人という黒スーツの集まり。何人かは倒せたけど、あまりはまだまだいっぱいいる。守るべき対象がなかったら姿を消したままどうにかできるのに……
「ガキ風情が上級魔法を使えるのには感心だが、そんなものは俺達にとっても常識だ。ハイ・フリージング!」
氷結魔法が地面を走って僕らに向かってくる。すばやく後ろにいる子を突き飛ばして僕も回避行動を取る。
「甘い!火炎弾!」
氷結魔法を使った男だけでなく、他の人たちも僕めがけて魔法を連射してくる。……これは流石にやばい。
「……ハイ・ハーディング。」
火の玉が当たる寸前に、自分の服を硬化する。そのおかげでフッ飛ばされはしたけど、ダメージはそれほどでもない。
って強がるのも多分もう無理。そろそろ蓄積してきたダメージで頭の中が朦朧とする。
「あっ、西村さん!」
立ってられるつもりだった。もっと長い間。でも、おかしいな。もう、視界がグラグラしてる……
そんな目が、ギリギリで捕らえた景色は、懐から拳銃を取り出す黒服の男の姿……まったく、遅いなぁ、キョウ……
バァン!!
あたり一面に、甲高い音が鳴り響いた。きっと、これが僕の中で聞く最後の音なんだと思う。
……暇つぶしのつもりだったのに。割りに、あわないな……
「……一匹死んじゃった。」
「死んだな。」
「どうしよう、もうあんまり魔力残ってないよ!」
「速いな、お前の魔力消費!そいつ、そんなにでかくないだろ!?」
「昨日徹夜でゲームしてたから疲れてて……」
「本当に救いようの無い馬鹿だな!」
……前言撤回、早くもいつもの馬鹿らしい会話が聞こえてきた。
「すまんな、晶。遅くなった。後は、俺たちでどうにかする。」
私の足元に、すばやく魔法で陣が描かれる。
「さっきの場所に転送する。歩ける余裕ができたら教師を呼んできてくれ。遊びでどうにかはなりそうにねえから。」
「……了解。」
僕がそう呟いた瞬間、足元から光が発せられる。僕の体は、その場から瞬時に姿を消した。
「……さて。」
僕らは、大勢の黒スーツのやっちゃん達へと向き直る。
「晶の借り、返させてもらうとしようか……?」
こいつら全員、ぶっ殺す。