第三話 バファ〇ンの半分の優しさが欲しい
「ところでさ、こんな時に日程をずらしてまで職員会議だなんて、何かあったの?」
ふと疑問に思い、僕は晶に聞いてみた。入学式の日の日程をずらしてまでの会議だ、何か重要なことなんだろう。
「……不法侵入者が発見されたらしい。ついでに、侵入用の陣がもいくつか。」
……違う違う、それは絶対僕の知り合いなんかじゃないからね?気にしたら負けだぞ、僕?
「……この階段を上ってから右に曲がってすぐ。ちなみにその左に曲がったら1組。1組にはユーカがいる。」
「やっと到着か。とりあえず、しばらく1組に行くことは無いだろうね。」
というより、できればそこに壁でも作りたい。あの優香のことだ、絶対僕をいじめに来るはずだ。
「さて、到着到着。迷いに迷った甲斐があったよ。」
家から学校までたどり着くのにかかった時間はたった1時間だけなのに、ずいぶん長く感じたこの教室までの道のり。文字数にして約1万文字だ。どうせこのノリだと学園モノになっていくんだから、こういう場所への到着はさっさとさせて欲しかったな。
「さあ!いざ、我らが教室へ――――――」
入ろうとしたところで、不意に聞き覚えのある声が響いた。
「詭計!稼動開始!」
ついでに、僕の視界のギリギリ内側で爆発が発生していた。そして、これは気のせいであって欲しいんだけど、なんだか爆発を起こした張本人に軽くロックオンされた気がする。
「逃げるよ、晶!」
「……どこへ?」
「どこでもいいから、とりあえずあの馬鹿に捕まらないようなところへ!」
予想通り、やっぱりロックオンされてたよ。なんか、「いいもん見つけた!」って顔した馬鹿野郎がこっちめがけて全力で走ってくる。ちなみに、その後ろからは大勢の教職員の方々が走ってくる。多分職員会議中に、隙を見て恭祐が抜け出したのだろう。
「晶、対恭祐用のアレをよろしく!遠慮はいらないから!」
「……了解。」
晶は瞬時に鞄から武器を取り出す。ハ○ー・ポッ○ーだとか、その手の魔法使い系統のお話でお約束の、指差し棒みたいな杖だ。ちなみに、これが小さい割に中々に高い。ピンからキリまであるけど、晶が使ってる杖なんか、7万円もする杖なんだ。ちなみに、それでもまだ高級とはいえない。
でも、さっきまでのことを思い出してもらったらわかるように、杖無しでも、人は簡単に魔法が使えることができる。じゃあ、杖の役割はなんなのか?察しのいい人は気付いただろう。そう、魔法効果のパワーアップだ。
「エリア確定、超硬化。」
「んなっ!畜生、間に合え!トリック!」
晶がそう呟いた瞬間、あたり一面の壁やドア、床や天井に至るまでの全てが異常なまでに硬くなった。結果、恭祐の作図魔法はその床に陣を作ることができなかった。
「よ〜し、次は僕の番だね!いくよ!」
「……邪魔、私がやる。……エリア確定、超凍結。」
ひどい!せっかく僕の魔法をお披露目しようとしたのに!前から思ってたけど、みんな僕の扱いがひどいよ!
ともあれ、次は氷結魔法で地面を凍らせた。これであの恭祐と言えど、侵攻は難しくなったはずだ。
「よし、今の内に逃げよう!」
「……あ、ついで。解除契約。」
きちんと10分後には魔法が解除できるようにするあたり、晶はちゃんと分かってるよ。
この隙を逃さないように、僕は晶の手を引いてさっさとその場を立ち去った。
「ふぅ、ここなら大丈夫かな?」
逃げた先は裏門付近。さっき迷子になってて気付いたんだけど、ここら辺ってなんだか不良っぽい人が何人か潜んでるんだよね。
若干のリスクがあるけど、こういうところにはひっそりと域を潜ませてくるから大丈夫なわけであって、騒々しく逃げてきたら絡まれることは必須。故に、「僕らを掴まえようとやってきたら、絶対に掴まえるために騒がしくなっちゃう。」、ということが分かる恭祐は、ここまでは追ってこれないんだ。
「ふふん、我ながらナイス作戦だ。」
「……でも、リスクがあるのも事実。こんなところ、さっさと立ち去るのが吉。」
「ん、だね。」
だがしかし、よっこいしょ、と立ち上がり、ここをさっさと立ち去ろうとした瞬間、僕は信じられないものを見た。
「見つけたぞ、ケダモノォォォォ!!」
「そのあだ名を大声で叫びながらやってくるな!」
恭祐の馬鹿ぁ!お前がそんな大馬鹿野郎だなんて、僕ぁ知らなかったよ!ほら見ろ、そこら中の茂みから不良さんたちの視線を感じちゃってるよ、こん畜生!
「先公どもは一時撒いたが、どうせまた俺を捕まえにやってくるだろう!そいつらを撃退するためにも、お前の力を貸せ!」
「ふざけんな、馬鹿!今は先生達よりも先に僕たちが撃退されそうなんだよ!」
「なに?」
そう言うと、恭祐はあたりを見回す。そこには、僕たちを囲む数十人という数の不良の方々が。っていうか、おかしいな。なんでこの人たち黒スーツきてるんだろう?この学園、ブレザーのはずなのにな?
「騒がしいぞ、貴様ら!わしらの仕事の邪魔する気か!?」
「兄貴!こいつらどうしやすか!?指詰めやすか!?」
え、なんだろう、この喋り方。なんだか主にテレビのやっちゃん系のドラマで聞いたことあるような喋り方だな……
「……目的の品はそいつらやないんや。適当に始末して、東京湾に沈めとけ。チャカの使用も許したる。わしは行くで。」
「ウッス!了解しやした、兄貴っ!」
そう指示された瞬間、兄貴と呼ばれた人は、その他大勢を引き連れて裏門の方へ。残った黒スーツの不良さんたちは胸元から黒光りするブーメラン形状の何かを……って、あれ思いっきり拳銃じゃん!そして、その銃口を僕と恭祐に向けている。ってかなんで!?なんで僕たちオンリー!?晶は!?
(どどどどどどうしよう、恭祐!?)
今こそ発動だ!長年の絆の賜物、アイコンタクト!
(ええい、慌てるな!こんぐらいの場面、俺たちならどうにかできる!)
(ほ、本当に!?)
お、恭祐から力強い返答がきたぞ!
(作戦がある。今から俺が指示する通りに動け。)
(オーケー、任せて!)
僕らがアイコンタクトを交わしている間、不良さん(?)たちはゆっくりと僕たちににじり寄ってくる。残った数は5人、グラサンかけたのとバンダナしてるの、後はスキンヘッドが3人だ。
(恭祐、何か作戦があるんなら、タイミングだけはしくじらないでね!)
(安心しろ。……よ〜し、そろそろだ。キョウ、俺が指を鳴らした瞬間、あのバンダナに殴りかかれ。そうしたら俺が……)
(恭祐が?)
(安心して逃げれる。)
「それ作戦って言わないよね!?」
あ、しまった!叫んじゃった!それに反応して、みんな僕に向かって銃口を向けてるよ!
視線の先を恭祐に向けると、してやったりといった顔でニヤリと微笑んでる。畜生、あいつ図りやがったな!
「お前から死にたいようだな。」
怖い!人生でいまだ感じたことが無いくらいに怖い!恭祐め、死んだら絶対化けてでてやるからな!
「嫌だ!僕はまだ死にたくない!」
「五月蝿いぞ、素直に黙って死にやがれ。」
「こら、恭祐!こんな状況に追い込んでなおそこまで言うか!」
と、叫んでニヤニヤとした笑いを浮かべる恭祐を見る。
この瞬間、僕は気付いた。なんでさっきから晶だけ僕らの会話に参加していないのか、そして銃口を最初から僕と恭祐にしか向けていなかったのか。その疑問がやっと解けた。
「……透明化、解除。」
フッ、と晶が不良さん(?)たちの後ろに現れる。そっちに注意がそれた瞬間、僕も綺麗に後ろに飛び去った。
「上出来だ、晶!オペレーション・ビギニング!」
恭祐がそう唱えた瞬間、凄まじい閃光が走った後、不良さん(?)たちがばたばたと倒れていく。
さっき、晶は透明になっていた状態で地面に陣を描いていたのだ。そして、僕に注意がそれている間にその陣に恭祐が魔力を流し込む。作戦は綺麗に成功したようだ。しかも、この陣は雷系の陣だ。叫ぶ間もなく気絶していった。
流石は恭祐。勉強だけじゃなく、こういうときの知略も流石だよ。でもできれば事前に教えて欲しかったね、心臓に悪いよ?こういうドッキリ。
ともあれ、僕たちはどうにかやっちゃん達を撃破することに成功した。…・・・っていうか、なんで僕の高校生活は最初からこんなに荒れてるんだろ?