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第二話 馬鹿って言葉は馬と鹿に失礼だ!

「一日目から遅刻かよ……」


 全力疾走したものの、無論間に合うわけなどなく、記念すべき高校生活初の登校を遅刻という結果で残してしまった。


 この悔しさはアレだね、ドラフト一位でプロ入りしたのに、初登板の試合で10打者10安打3本塁打を打たれたそれに似てると思うよ、多分。そんな出鼻をくじかれるようなことがあったら誰でもやる気なくすよね?


「いやしかし、やっぱりというか大きな学校だよね。」


 そう言って僕は改めて校舎を見上げた。


 国立図書館にも負けないくらい広い敷地には、いくつもの校舎が建てられていて、その全てが特進魔法科のクラスだったり、魔法を使うための教室だったりする。この学園には魔法科以外はなく、どのクラスも例外なく魔法科なのだ。


「そういや、僕のクラスはどこだろう?」


 そう思い、僕は鞄の中からクラス発表の用紙を取り出そうとした。すると、僕は大変なことに気付いた。


「……Oh,fantastic……There is only charcoal……」(すばらしい、炭しかないじゃないか)


 あまりのビックリな展開に、思わず英語が出てしまった。ああいや、別に帰国子女だとかそういう設定とかは特にないよ?


 っていうか畜生!あの店の店長め、騙したな!何が耐魔法性の鞄だよ!確かに耐魔法性の鞄だよ!でもどうせならその力で鞄の中も守れよ!つーか、それが鞄の役割じゃないのか!?


「どうしよう……自分のクラスがわからないや……」


 とりあえず、校舎の中を歩こう。もしかしたら優香や恭祐と会うかもしれないし。


 そう思って、僕はとりあえず一年生のクラスが集まってる南校舎へと歩いていった。











「どうしよう……挙句の果ては迷子だ。」


 そりゃそうだよね、学校紹介のパンフレットも一緒に燃えちゃったんだから、校内図なんてわかるわけがないじゃないか。


「……奥の手、使うしかないかな。」


 やれやれ、こんなことで僕の真の力を出さないといけないなんてね。だけど、迷子になってしまったものは仕方がない。僕の隠された本当の力を出すしかないな。


「さあて、この学校の諸君。吹き飛ばされても文句はいわないでよね?」


「……言うに決まってる。」


「ひやぁぁぁ!その声は、晶!?」


 後ろから不意に小柄な少女に話し掛けられた。いきなりの不意打ちに、僕は思わず気勢を上げてしまった。くそっ、なんて恥ずかしいことを……。


「……だいたい、そんなことを言ったってアレを出すだけ。」


「う、うるさいな!僕だって格好つけてみたいことくらいあるさ!」


 そういうと、晶は静かに鞄から何かを取り出した。


「?なに、これ?」


「……キョウの大好きな仮面○イダー電王の変身ベルト。格好つけるならこれが一番。」


「君の抱く僕への認識は何かがずれてるよ!」


「……ラ○ダーパスもある。思う存分変身するといい。」


「違う!だから僕は別にそんなものは求めてない!」


 なぜみんなは僕の求めているものとは全然違うものをくれようとするんだろう?


 ちなみに、彼女は西村にしむら あきら。中学三年生のときに一緒のクラスになった少女で、なんというか妹みたいな感じに見てしまう子だ。


 黒のショートヘアにメガネをかけたおとなしい女の子で、ちなみにぼくっ子。パッと見たら小中学生にさえ間違えられそうなその容姿に関して突っ込むと、明日の朝日どころか今日の夕日さえ拝めなくなってしまうので、そこは黙っておくべきだ。基本的には無表情なので、なんというか、何を考えているかよくわからない少女である。


「……ところで、こんなところで何してる?」


「うん、ちょうど僕もそれが聞きたかったんだ。」


「……なんで、キョウが聞く?」


「晶、その台詞は周りの景色を見てから言ってくれるかな?」


 この男子トイレという場所においては、やっぱりその質問は僕のものだと思うんだ。


「……のぞき。」


「ダメだよ!晶、それはやりすぎだ!!」


 高校生活始まってそうそうに、なんてことをするんだ、この子は!


「……違う。多分キョウと読者の方々が思ってるのとは違う。」


「へ?」


 素っ頓狂な声をあげると、晶は自分の鞄の中から小型ホワイトボードと水性マジック、そしてふき取るための布をを取り出した。……っていうかさっきの仮面ライダーのベルトといい、彼女の鞄には一体なにが入っているのだろうか?


「……僕がたった今言った「のぞき」という単語を、キョウと読者は脳内で瞬時に「覗き」という単語に変換しました。」


「ふむふむ。」


 そう言いながら、ホワイトボードに「覗き」という漢字を書き込む。


「……しかし、僕が言ったのぞきというのは「覗き」ではなく、「除き」だったのです。」


 続いてホワイトボードに先ほど書いた覗きにバッテンを書きその横に除きという字を書き込んだ。


「ええっと、つまり……?」


「……人を取り除いてた、ただそれだけ。」


「大丈夫ですか!?名も知らぬ人!!」


 誰がなにをしたかは知らんがあんた、優香や僕、恭祐なんかよりも一番手気にしちゃいけない奴らを敵に回しましたよ!


「……キョウ、そんなに叫ばなくても平気。」


「そ、そう……?」


 俺が心配そうに訪ねると、しばらく黙ったままゆっくりと微笑で返してくれた。普段無表情なこいつが軽く微笑むだけで、心拍数が上がるのは僕だけじゃないと思う。


「あ、うん、そうだよね。晶もそこまでしないよね。」


「……もちろん。衣服を脱がして『リダクション』をかけた後、『アフター・リミット』かけて大便器から流しただけ。」


「やりすぎだよ!!」


「平気。中に身は無かった。」


「それでも十分やり過ぎだって!っていうか中に身があるところに流すつもりだったの!?」


 ちなみに『リダクション』は、縮小系の魔法で物体の大きさを小さくする魔法。『アフター・リミット』は解除系上級魔法で、使用された人にかけられた魔法を10分後全て解除するという魔法だ。つまり、その人は10分間排水溝を彷徨った後、もとの姿に戻って恥ずかしい姿で発見されるかも知れないということだ。運がよけりゃ恥さらし、運が悪けりゃDEAD ENDか。アーメン。


「っていうか何でそんなことすることになったの?」


 そう聞くと、晶は顔を僕からそらして恥ずかしそうな素振りを見せた。


「……くの……の中……いたから…。」


 そして頬を紅く染めながら恥ずかしそうにぼそぼそと呟くように何かを言っている。


「え?よく聞こえないよ?」


「……だからっ!…その、そいつが…僕のスカートの中……覗いた、から……」


 無表情だからといって、晶は別に感情が無いわけではない。というより、人よりもかなり恥ずかしがり屋だったりするのだ。


 おそらく覗いたとは言っても、その人はわざとではないのだろう。でも、相手が超恥ずかしがり屋のドSこと西村 晶だったって言うのが運の尽きだと思ってくれたまへ。


「まあまあ、そういうことなら、しょうがないね。晶もよくやったよ、痴漢撃退だね。」


 そう言って、恐らく無実であろう人に頭の中では謝罪しながら、恥ずかしそうにしている晶の頭を撫でてやる。


「……それで、キョウは何してる?」


「ああ、僕?ちょっと迷子になっちゃってね。」


 そう言ってから、僕はこれまでの経緯を晶に話した。


「……ふ〜ん、なるほど。だったら話は簡単。」


「え?晶は僕のクラスが分かるの?」


「……勿論。だってキョウは馬鹿だから。」


「晶だけは味方だと思ってたのに!!」


 優香、恭祐に続いて晶にまで馬鹿にされるなんて!僕もう生きていけない!!


「……安心して、キョウ。勉強だけが全てじゃないよ。」


「ううっ、慰めになってるようでなってない!」


 結局僕が馬鹿なことは決定事項みたいだ。


「と、ところでさ、馬鹿だとなんでクラスがわかるの?」


「……この学校、成績でクラスを決めてるから。だから、キョウはきっと8組。」


「つまり、そこが一番の馬鹿クラスってこと?」


 意地張ったってダメな以上、すぐに開き直る。人間諦めが肝心だよね。


「……そういうこと。ついでに言うと、数字が小さい程、優秀なクラス。あ、今から教室行くなら、案内するけど?」


「え、いいの?」


「……別に構わない。僕も同じクラスだから。」


「へぇ、そうなんだ〜って、ええぇぇぇぇ!な、なんで!」


 『アフター・リミット』は、さっき言ったように上級魔法なんだ。それに、晶は勉強もできて、うちの中学の学年上位に毎回いたくらいだから、成績で見れば絶対に上の方のクラスのはずだ。 そんな晶が馬鹿クラスに配属だなんて……資料に手違いでもあったのかな?


「……大丈夫。これは正規の結果。単純に僕が入試の時に結果が悪かっただけ。」


 僕の考えを瞬時に読み取り、晶はそう返す。


「でも、それにしても点数が悪すぎない?そんなビリクラスに配属なんてさ。」


「……そんなことない。これは計算通り。」


「…………へ?」


 計算通り?もしかして晶は、わざとそんなビリクラスに配属されるような点数をとったのかな?


「……そう、計算通り。点数もほとんど30点くらいずつしかとらないようにしたし、実技では中級魔法1つしか見せてない。」


「なるほど。でも、何でまた?」


「……キョウなら、ビリクラスに配属されると信じてたから」


 そ、それってもしかして、僕と同じクラスになるためってこと?やばい、嬉しさのあまり、軽く涙が出てきた。でも、この涙が流れた理由は悲しさも作用されてると思う。


「……それより教室へ急ぐ。そろそろ職員会議が終わる。」


「ああ、それで晶は教室から出たんだ?」


 よくよく考えてみれば、いかに制裁のためとはいえ、晶がHRを無視するはずがない。


「それじゃ、急ごっか。」


 そう言って、僕も晶についていく。


「そういえばさ、成績でクラスを決めるってことは、優香も恭祐も別クラスってこと?」


「……そういうことになる。」


 そう言われてこれまでの学校生活を振り返る。そして、この現実に、嬉しさのみで涙が出てきた。


「……キョウ?」


「晶!やったよ!僕はやっと自由になったんだ!」


 そして、嬉しさのあまり晶に抱きつく。別に晶はこういうことをしても、恥ずかしそうに顔を紅くするだけなので実害はない。というか、この仕種が可愛いんだよね。


 ともあれ、前言撤回だ。今日はとても素晴らしい一日になりそうだよ。



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