第一話 春は涼しいくらいが丁度いい
どうも、サラダ油と申します!今回このサイトに初投稿させてもらいました!ご指摘、ご感想等がありましたら、是非ともよろしくお願いします!
それでは、本編へどうぞ!!
「よ〜し、朝だ!」
ピピッ、という機械音とチュンチュンという鳥のさえずりをBGMに、僕は気持ちよく目を覚ます。
「う〜ん、素晴らしい程に快晴だね!」
4月8日、春眠暁を覚えず、なんて言ってられるわけがないほどの素晴らしい朝!今日は高校生活が始まる朝!こんな日には絶対いいことあるのさ!
僕は素早く布団から立ち上がって部屋を出ると、買い置きしておいたパンの耳を片手に学校へ行く支度を整える。制服を素早く身に纏い、右手に鞄を、左手にパンの耳を持って玄関の扉を開け放つ。
さあ、今日一日が素晴らしい日であることを証明するように、このすがすがしい気持ちのまま、いざ!我が学校へ……
「遅いぞ、ボケアホカスマヌケ。遅れて分だけ貴様の財布から諭吉を拐うぞ、この能無し。」
行けたら、よかったのにな〜……
「まったく、人が最高の気分で登校しようとしてたのに。なんで優香は水を刺すようなことを言うかな?」
そう言って、僕に罵声を浴びせた青い長髪の女の子に話しかける。
その女の子は、僕よりも若干背が低いくせに、その綺麗な顔と力強さを感じさせる瞳で、あたかも僕を見下す様にそこにいた。
背中辺りまで伸ばされている長髪は、サラサラと綺麗に揺れ、その本人の綺麗な顔と共に老若男女問わず視線を集める。
自己主張の激しいその体は、冬用の制服の下からでも男性陣の視線を釘付けにさせている。
「……はあ。」
「ん?いきなりため息とは、失礼な奴だな。本当に諭吉を拐うぞ?」
何を隠そう彼女は僕の幼なじみだ。名前は如月 優香。でも、僕は優香が幼なじみだなんて認めない!幼なじみは、なんていうか、もっとこう優しくて、朝ちょっと遅れてきたって「また遅刻?もう、お寝坊さんなんだから♪」みたいな可愛いリアクションをするもんじゃないか!!こんな男口調で罵ったりなんかしないはずだ!!
「キョウ、また変なこと考えてないか?」
「い、いや!なんのことかな?」
くっ、鋭い!こんな幼なじみだから、口に出さなくても悪口が言えない。本当に困ったものだよ。
おっと、自己紹介が遅れたね。
僕の名前は藤堂 狂夜。……名前を付けた親の気持ちが分からない今日この頃です。普通は鏡也とか、そこら辺じゃない?一生背負っていく名前に狂う夜はないでしょう、お父さん、お母さん……
まあ、名前以外はかなりまともです。手入れの行き届いた綺麗な茶髪、そんな髪とピッタリな女の子顔負けの美しいフェイス。176cmの身長に綺麗に合う長い足。優香に負けず劣らない人を惹き付ける容姿と天才的な頭脳を兼ね備えた……
「さっさと行くぞ、元中学一の大馬鹿野郎。それともその不細工な顔を晒すのが嫌になったか?」
言わないで!そこまで酷くないから!せっかく昨日の夜に作者が考えてくれた描写を返せ、こん畜生!
ああっ!!っていうかせっかく「兼ね備えた……」から「っていう冗談はおいといて」っていう風になるジョークだったのに!!これじゃあ読者さん達の僕の評価は「不細工で馬鹿なナルシスト」ってことになっちゃうじゃないか!!作者の描写と共に僕のみなさんへの評価も返せ!
「どうした?さっさと行かんと本当に遅刻してしまうぞ?」
う〜、あそこまで言われると何か仕返ししてやらないと気が済まない!よし、僕の全知全能を尽くした仕返しをしてやろうじゃないか!
「どうした、キョウ?そんなに遅刻したいなら、私は先に行くぞ?」
ずっと沈黙したままの僕を見て、呆れ果てながらため息をつく優香。ふんだ!そんな顔してられるのも今のうちさ!
「ごめんごめん、それじゃあ、行こうか。」
とりあえず立ち止まってても仕方がない。とりあえず学校に向かおう。そして人目の少ない所に行ったら作戦開始だ!
とりあえず、作戦を開始するまではゆっくりと学校までの町並みをじっくり観察するとしよう。
今は西暦2050年。ほんの数十年前までは石油の値上がりがどうとかで騒いでた時代だけど、今やそんなことはどうでもよくなり、石油なんか必要としない世界になってたり。ほら、ちょっと視点を回してみたら、軽く宙に浮いて排気ガスなんかまったく出さずに走ってる車ばっかり。
これは、新たなエネルギー、いわゆる「魔法」というものによって可能になったことだ。超能力だとか何だとか、そんなものがビックリされた時代はとうの昔に終わりを告げた。見渡してみれば分かる、今やそこら中の人がみんな魔法使い。
今では学校の授業でもちゃんと「魔術科」なんて物もある。大体体育とかと同じ扱いで行われてるし、高校にも「特進魔法科」もできた今日この頃。使える魔法とかは人によって得意不得意もあるし、そういうところも体育に似てるかな。ほら、サッカーできても野球できない人とかいるでしょ?それとか根本的に苦手な人もいたりするし、さ。
ちなみに、僕たちが今行こうとしてる「神無月学園」は、なんと全国随一の魔法科学校だったりするんだ。ここに通うみんなは一般人よりも魔法に長けている人たちばっかりさ。無論勿論、僕もその中の一人なんだけどね?
「っと、やっと到着か。」
桜舞う中、大きな敷地の前で僕は歩みを止める。東京ドーム並の広さといっても過言ではない敷地と、見上げるほどに大きい建物。そう、こここそが――――――――――
「何を言ってるんだ、キョウ?ここは国立図書館だぞ?頭だけじゃなく目まで腐ったか?」
「わかってるよ!ただそれっぽく説明しただけじゃないか!」
そう、ここは日本有数の大きな国立図書館だ。資料のそろい具合といったら、そりゃもう素晴らしいものさ。ここにある魔法関連の書物の内、百分の一でも覚えれば世界最高峰の魔法使いにだってなれるさ。
しかし、こういう建物にはちゃんと開く時間っていうものがある。普段は人の賑わう場所だけど、午前7時40分の現在では、むしろ人っ子一人見当たりはしない。そう、僕が到着といったのは、仕返しのチャンスだからだ。
よ〜し、僕の全知全能をかけた仕返しを開始しようじゃないか!
「……ねえ、優香。」
「ん?どうした?いい眼科を紹介して欲しいのか?それとも精神科か?すまんな、お前を治せるほどの病院も凄腕の医者も、私は知らないんだ。」
「違うよ!って言うか何、何で僕こんなに貶されてるの!?」
「ああ、整形外科だったか?だったら諦めろ。手術する医者がかわいそうだ。いくら金を詰まれてもこんな顔をいじるなど、したくもないだろうからな。」
「違う!根本的に今僕が求めているリアクションはそうじゃない!って言うかそこまで貶さないで!リアルに傷つくから!!」
うう、仕返ししようという意志が見えてるのだろうか?こちらから仕掛ける間もなく畳み掛けるような連撃だよ。
「して、要件はなんだ?」
おお、やっと聞いてくれるみたいだ。よ〜し、色々考えた台詞の中で、一番優香にダメージを与えれるであろう台詞を、頭の中に浮かべる。
「僕、ね。ずっと優香に言わなきゃいけないって思ってた言葉があるんだ。」
「ど、どうしたんだ、急に?」
急に優香は顔を赤らめる。あれ?僕のやろうとしてることが勘付かれたのかな?いやいや、まだ諦めるには早い。とりあえず、やれるだけの事はやろうじゃないか。
「これまではね、ちょっと怖くて言えなかったんだ。言っちゃったら、この先どうなるか、分からなくなっちゃうからね。」
「キョ、キョウ……そ、そんな、いきなり……」
ゆっくりゆっくりと優香の方へと歩み寄っていく。
「でもね、もう我慢できないんだ。今すぐにでも、僕はこの言葉を君に伝えなきゃいけない。」
「で、でも、キョウ……」
あ、あれ?どうしたんだろう?普段の優香の雰囲気じゃない。なんていうか、こう、普段のきつい感じが払拭されて、非常に綺麗、かつ可愛らしい。そんな優香の潤わせた瞳での上目遣い。ううっ、ヤバイ!なんだかすごく恥ずかしい!こうなったら、さっさと言ってしまおう。
「ずっと、言いたかったんだ……言うよ?」
「キョ、キョウ……」
スゥ、と息を吸う。そして、僕はさっきからずっと考えていた台詞を言う。
「優香のバーーカ!!」
ふふん、これこそが僕の全身全霊、全てを込めた台詞さ!
……あれ?みんななんでかわいそうな子を見るような目で僕を見るの?嫌だなぁ、読者のみんな、僕の台詞は完璧だったでしょ?深みがあって、それでいてちゃんと相手に屈辱を与えるような……
「遺言は、それだけか?」
はっ!しまった!みんなの冷たい視線への返事をすることに集中しちゃって逃げるのを忘れてた!
「燃え尽きろ!この超絶大馬鹿クソ野郎!これ以上この世の酸素を無駄に減らすんじゃない!」
「うわあぁ、ごめんなさい、優香様!ほんの出来心でって、ギャァァァァァァ!!!」
うわぁ!燃えてる!リアルに燃えてる!皆さん、見えてますかぁ!?これが現代魔術の力ですよぉぉぉぉ!!
っていうか気付いてるかな、優香!?僕をこんな風に魔法で燃やしてるのも、思いっきり酸素の無駄遣いだからね!?魔法でも炎を出したら酸素は使うよ!?
「…………バカ。」
軽くボソッ、と何かを呟くと、この炎系の魔法を解かずにゆっくりと学校へと歩みを進めていく。って言うか、誰か早くこの魔法を解いてぇぇぇぇぇ!え?自分で解けって?無理!解除系の魔法はかなりの高等テクニックなの!!
「まったく、なにやってんだよ。詭計!」
野郎の声がしたと思うと、僕の足元になにやら魔方陣が出来上がった。あ、この陣術系魔法は!
「稼動開始!」
稼動開始の合図と共に、僕の足元から噴水のように水が出てくる。うわっ、冷たっ!!助けてくれるのはありがたいけど、もうちょっと他にやり方あったよね!?ていうか、ちょっと威力高すぎだよ!僕の足が今地面についてないんだけど!そして世界が逆様に!
「ぐへっ!!」
うん、綺麗に首から落ちたにもかかわらず未だに意識を持っていられる僕は、なかなかに素晴らしい人間だと思うんだ。
「大丈夫か、ケダモノ。」
「狂夜をそう言う風に解釈するのはやめてよね!まるで僕が変態見たいじゃんか!!」
「違うのかっ!?」
「そこにビックリマークはいらないはずだよ!?なんで心底意外そうな顔をしてるのさ!?」
うう、なんで僕の身の回りにはこんな奴らしかいないんだろう……
「ははっ、気にすんなよ、キョウ。お前が女に手を出す度胸何ざこれっぽっちもないヘタレであることは、みんな知ってることだからな。」
「うん、ありがとう。これ以上反論したらまた何か言われるのはわかってるから、甘んじてヘタレは受け入れようじゃないか、恭祐。」
「ほう、いい判断だな。」
ニヤニヤと笑っているこの男は神谷 恭祐。こいつも僕の幼なじみだったりする。身長は僕とあんまり代わらないくらいで、いつもこういう何かたくらんでそうな顔で笑ってる。普通に格好いい、という言葉が合う男で、漆黒のつんつんとしたよくアニメとかで主人公がしてる髪型、細身に見えて無駄のないがっちりとした体つき、そして陣術系という中々に高難度な魔法を使えるエリートで、女子からの人気もばっちり。早い話が男の敵だ。
ちなみに、さっき優香が使った魔法みたいな炎系とかは自然操作系という魔法の一種で、今恭祐が使ったのが陣術系、他にも物体干渉系なんて物もある。魔法の種類は他にもいっぱいあるんだ。ちなみに、これらを組み合わせて使う魔法を合成高等魔法って呼ぶんだ。
「んで、なんでお前はこんなところで燃えてたんだ?」
「それにはね、色々と深い事情が……」
「おい、なにべらべら話しこんでんだ?さっさといくぞ、俺だって遅刻はしたくないからな。」
畜生!自分からふっておいてなんだ、そのリアクションは!!
なんていってると、キーンコーンカーンコーン、と学校のチャイムが聞こえてくる。この国立図書館は学校の近くにあるので、チャイムの音が普通に聞こえてくるようだ。
「やべっ、もしかしてこれって予鈴じゃねえか?本気で遅刻しちまうぞ!」
「安心して!君に会った時点で大体覚悟してたから、僕は!」
何を隠そう、こいつは中学の頃から遅刻常習犯なのだ。こんな時間帯にいたのは、ある意味奇跡みたいなものだ。そう、例え初の登校日だとしても。
「とりあえず、リミットは後五分だ。アレを使うぞ!」
「オッケー、移送方陣だね!よろしく頼むよ!」
「却下だ。」
「何で!?」
「お前のせいで定員オーバーだ。」
「僕のせい!?」
移送方陣とは陣術系魔法の1つで、物体を違う場所に移動させる魔法なんだ。もともと移動先に事前に陣を構えておかないと行けないんだけど、遅刻常習犯のこいつは、すでに去年の入試に行った頃から校内にいくつもの陣を作っていたのだ。
ちなみに、陣術系は本来ならば手書きで魔法陣を書いて、そこに自分の魔力を通すことによって魔法を発動させるんだけど、こいつのは物体干渉系で陣を書いてから魔力を通すから、非常に発動が速いんだ。そして陣術の効果範囲は陣の上全体。ゆえに僕も普通に移送方陣に乗せてもらえるはずなんだけど。
「とりあえず、我慢して走るぞ!」
「くそっ、何でこんな目に!っていうかアレって何を使うつもりだったのさ!?」
そう言って、僕は全力で走り出す。そして、恭祐も僕の後ろで全力で走って……ない!?
「じゃあな、お前は頑張って一人で走って来い!」
「ちくしょう!僕だけ遅刻させるつもりだな!?」
すぐさま振り向いて恭祐を殴ろうとした。けど、僕の拳は空を切る。もう転送終了したようだ。くそっ、惜しい!
と、そんなことをしていると、キーンコーンカーンコーンと、再びチャイムが鳴った。
「……遅刻、か。」
どうやら僕には、こんな目覚めのいい朝は絶対言い日にならないみたいだね。