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第十三話 あれ?僕の出番は?僕主役だよ!?

「アップ?僕が相手でいいのかな?」


「ああ。慣らしとしては、物足りねえかもだがな。」


 そういって、俺は智也に切っ先を向けた刀を自分の肩へ置く。


「君はキョウの友達だよね?キョウよりも強いのかな?」


「さあな。同じくらいじゃないか。」


「そう?それじゃあ、楽しめそうだね。」


 やる気を出したようだ、久瀬も刀を構える。


 ふむ、だが獲物が刀の分、俺の方が不利だな。俺が得意なのはそこらに転がってる喧嘩とかで使う角材みたいなのだからな。剣のが使いやすいんだが……まあ、わがままは言うまい。


「んじゃ、まずは力試しってことで。先仕掛けるよ。」


 そう言いながら、久瀬は足を慣らすようにその場で何度か軽く飛ぶ。そして、言葉を言い終わると同時に、大きく地面を蹴った。


 と、次の瞬間、久瀬の顔が俺の目前に迫っていた。


「んな!?」


「あれ?ちょっと反応遅いんじゃない?」


 ブン、と振られた刀を、寸前のところで防ぐことができた。が、衝撃で完全に大勢は崩れる。


「握力も足りないよ。それじゃあ、またまだだね。」


「くっ!」


 そこから絶え間ない久瀬の連撃が入る。どうにか防ぐことはできているが、一撃一撃がすべて重い。このままじゃ、いずれ弾かれるっ……!


「くっ!せやっ!」


 無理やりに攻撃の隙をついて反撃をする。それを先ほどの俺のように防ぐ。だが、決定的な違いは体勢を崩せなかったこと。


「ぬるいね、そんな攻撃じゃあ駄目だよ。攻撃はこう!」


 俺よりも小さいモーションで刀を振りぬく久瀬。だが、その威力は俺の物の比ではなく、またも俺の大勢は崩されてしまう。


 くそっ、接近戦ではここまで分がないとはなっ……!


「仕方ねえ!なら出し惜しみせずに行くぜ、トリック!」


 流石にアップだろうが俺は負けるのが嫌いなんだよ!こっからは全力だ!


 俺の詠唱で久瀬の足元に陣ができる。それに気づいた奴はその場から離れようとするが、そんなことさせてやるか!


「逃がすか!オペレーション・ビギニング!」


 陣は光を放ち、大きな爆発を起こす。辺りは一面砂煙に囲まれて視界は完璧に失われる。あいつの、な。


 俺か?俺には関係ないさ。


「トリック!」


 陣の上のことは手に取るように把握できること、それもまた陣術の利点だ。故に、でかい陣を作っておけば、こんな砂煙の中でも全て把握できるんだ。今敷いた陣は、超広範囲で、半径数メートルの特大作品だ。お前が陣上にいる限り、俺にはお前の動きが全て手に取るように分かる。


「さあ、どうでる?まあどう動こうが、所詮無駄なあがきになるだろうがな。」


 じっとしたまま、久瀬が動き出すのを待つ。さっきの爆発を警戒してか、奴は陣の外まで一度引いたようだ。だが、奴は必ず攻めてくる。砂煙で視界が閉ざされている状態こそが、奴のような接近戦のプロにはいい奇襲の舞台になるのだから。


 俺は刀を強く握り、いつ、どこから攻められてもいいように体勢を整えて九瀬が動くのを待つ。


「……まだか?」


 しかし一向に奴が攻めてくる気配がない。どういうことだ?このままじゃあ、砂煙も晴れちまうぞ?


「さっきからどこを見てるんだい?俺はここだよ?」


 ふいに九瀬の声が俺の耳に入る。声の発信源は……


「上か!?」


 ばっ、と上を向いた瞬間、俺の目には刀を振り下ろそうとしている九瀬の姿が映った。


「くっ!オペレーション・ビギニング!」


 半ばヤケクソ気味に、真下に敷いた陣を発動させる。陣は光を放ち、辺り一面に閃光が走る。


「うわっ!目隠しか!?」


 一瞬のことに驚いた九瀬の隙をついて、俺は一気に間合いを広める。


 マズいぞ、このままじゃ負けるかもしれんっ……!


「トリック!オペレーションビギニング!」


 瞬時に陣を数個敷き、発動させて壁を大量に作り上げる。


 とりあえずそのうちの一つに隠れ、保険のためにさらに辺りに陣を数個設置しておく。それぞれ移動用、目隠し用、攻撃用だ。


「だが、これからどうする……?」


 油断していた。文月から聞いてはいたが、ここまで身体能力が高いとはな。パワーといいスピードといい、さっきの跳躍力といい、あいつは新手のモンスターかっつの!


「……俺も手の内晒せってか?」


 さっきの戦場を見た感じ、キョウは召喚魔法を惜しみなく使ったようだ。それは即ちこいつの実力の凄さを表していることにもなる。


「秘技、鎌鼬(かまいたち)!」


 俺があれこれ思考していると、ふいに頬を何か鋭いものが掠める。


「んなっ!?」


 背にあった壁はあっさりと貫通された。役割を果たすには、どうにもこの壁じゃあ造りが脆すぎたらしい。つーか待て、なんで俺の位置がわかった?壁なら一杯あんだろ!?


「どう?魔法と剣術の完全な融合。俺にとっては近距離も遠距離もないよ。」


 壁の向こうを見てみると、久瀬の刀を緑色の風が纏っていた。おそらく、風の自然操作系とあいつの剣術を混合させた技だろう。


「遠距離なら、風の刃が君を捕らえる。だからさ、男らしく刀でぶつかり合お?」


 ニコっ、と無邪気な笑みを浮かべて俺を誘う。おそらく挑発しているつもりもないだろう。ただ単純に自分の希望を述べているだけだ。


 こいつ、真面目な優男のふりして、とんだ戦闘狂だな。


「さあ、どうしたんだい?んじゃ、もう一回さっきの行くよ?」


 シュウウウ、とまるで風が集まっているかのような音がする。不味いな、なんでかは知らんが俺の位置はモロバレだ。次は絶対当たる。


「くそっ!トリック!」


 足元に陣を敷く。もちろん、移送方陣だ。だが、間に合うか?


「させないよ!はあっ!鎌鼬!」


 俺の目論みはバレバレのようだ。くそ、間に合わなかったか!?だが、俺は……


「ぜってぇ負けねえ!!」











「……んな……」


 風の刃が壁を貫き、俺のいた地点を通過するとほぼ同タイミング、俺は久瀬の後ろに立ち、奴の首元に刀を突き付けていた。


 今の驚きの声は久瀬のあげたものだ。


「いつ、の間に……?」


「悪いな、どんな喧嘩でも、俺は絶対負けねえ。奴に勝つまで、誰にも負けたくねえんだ。」


 そういって、俺は刀を久瀬目掛けて振るう。だが、奴の超反応が瞬時にそれを紙一重でかわす。この至近距離でまで、どういう反射神経してやがんだ?


「どうやったかはわからないけど、そんなすごい力があるんだね、君も!ふふ、楽しみだね、今年一年。」


 そう言ってほほ笑む姿は、まさしく戦闘狂そのものだ。キョウが召喚魔法をあれだけためらいなく使った理由もなんとなくわかるな。確かにこいつになら、どんなアンノウン系の魔法を使ったって奇異の目を向けるようなことはしないだろうな。


 だからこそ……


「俺もためらいなく全力を出していけるぜ。お前にならよ。」


「ふふ、嬉しいね。キョウも同じようなことを言ってくれたよ。さあ、それじゃあ君の力も見せてもらおうかな。」


 シュウウウ、と再び風が集う音が聞こえる。


「風は基本的に斬撃効果が大きいんだ。すなわち、単純に斬れ味を上げるってことだね。どんな防御も関係ない。さあ、君ならどうする?」


 風を纏った切っ先を俺へと向ける。


 ふん、どうするかだと?そんなもの、分かりきっていることだろうが。


「んなもん、最初はなから当たらなきゃいいんだよ。こいや、どうせ当たりはしねえからよ。」


「そう?それじゃあ……覚悟!」


 グッ、と強く踏み込み、久瀬は一気に間合いを詰める。そして、俺の目の前、一瞬でその姿が俺の視界から消える。


「んなっ!」


 驚きで、俺の体は一瞬硬直してしまう。だが、落ち着け、俺。人間が瞬間的に消えれるはずはない、単なる高速移動だ。そして、消えてすぐに攻撃を仕掛けてこないということは……


「上だ!」


 そう判断した瞬間、俺は上を見て奴の姿を確認する間も捨てて刀を空中へ放る。


 案の定、上には久瀬がいたが、放られた刀はあっさりとキャッチされてしまう。だが、これも計算通りだ。ここからだ!


「トリック!オペレーションビギニング!」


 一瞬で陣を刻まれた刀は、俺の声に反応して爆発を起こす。零距離でのこの爆発だ。普通なら無事ではすまない。だが……


「くっ、まだまだ!」


 やっぱり無事だろうな。だが、そんなことはこっちもわかってんだよ。まだまだこんだけじゃあ終わんねえぜ!


「落下位置なんざ、すでに読んでんだよ!トリック!」


 爆発で吹き飛ばされた奴には、落下地点を選ぶことはできない。故に、次の攻撃はどうやったって逃れられねえのさ!


「オペレーション・ビギニング!」


 陣は光を放ち、噴水のように高出力で水が噴き出す。その水に押し上げられて、再び奴は宙へと浮く。


 こっからはもうお前に反撃はさせねえ!このまま連撃で一気にしとめる!


「くっ、風よ、風刃ウインド!」


 空中で抵抗できないと悟るや否や、すぐさま魔法で応戦してくる。だが、結局それも俺の読み通りさ。


「効くかよ、自空間ゾーン。」


 片手をかざし、詠唱省略で結界魔法を張る。ちなみに、結界魔法は魔法干渉系の一種だ。ゾーンは結構下級の奴。同じ下級魔法しか防げん。


「んな!?」


「こっちの番だな。ほれ。」


 足元に転がっている石の中で、手頃なサイズのを取って右手めがけて投げつける。これは普通の物体のため、ゾーンを使ったままでも投げつけれる。


「トリック!オペレーション・ビギニング!」

 その石が奴の刀をもった右手にあたったのを確認し、陣を開放する。今回のは雷の陣だ。


「くあっ!」


 バチッ、という音とともに久瀬の口からうめき声が洩れる。と同時に、その腕から刀が放される。これで奴の武器はなくなったな。


「そらそら、どうしたどうした!?この調子じゃあ、もうあの魔法を使わなくても楽勝だぜ!トリック!」


 奴の着地地点、そこに新たに陣を作る。さあ、そろそろ終わりにしてやる!


「させない!風よ、ウインド!」


 だが、奴は着地する前に、陣めがけて風の刃を放つ。陣は少しでも欠けたら、その時点で効果をなくすのだ。それも陣術の欠点だ。まったく、割とデメリットの多い魔法なんだよな、陣術は。


 機能を失った陣の上に久瀬は優雅に着地する。だが、そのくらいこっちも読んでるさ。もちろん、次の行動もな。


「か、刀を!」


 俺よりも刀に近い位置での着地、ならば刀を取りに行くのがセオリーだ。ならば、その刀に細工をするのが基本ってもんだろ?


「よし!」


 意気揚々と刀を拾い上げる。だが、その時点で気付くべきなんだよ。刀に陣が刻まれてることによ!


「オペレーション・ビギニング!」


 刀は轟音をあげて爆発する。


「んなっ!?」


 その爆発に久世は吹き飛ばされる。本日二度目の零距離爆破だ。そろそろ久瀬も限界だろう。


「くっ、まだまだ!」


 だが、そんな疲労や痛みの中でも久瀬の口元は笑い続けている。流石は戦闘狂だな。ここまで来ると尊敬の念さえ感じるぜ。だが……


「残念だったな。もうお前の負けだ。武器もない、その上ボロボロのその体。勝ち目はないな。」


「ふふ、確かにそうだね。君の戦略には本当に驚いたよ。途中から、僕は本気で何もさせてもらえなかった。でも……」


 そこまで言って一度セリフを区切ると、奴は思いきり体をかがめる。そして……


「ぼくは、こんな小さな戦いでも負けたくはないんだ。君と一緒でね。」


 という続きの言葉が、俺の後ろから聞こえてきた。


「久瀬流縮地。まあ、まだ隙ができちゃう未完成品だけどね。」


 何の反応もできていない俺の後ろで、ただ奴が何か攻撃の構えをしていることだけが、気配で感じることができた。


「終わりだよ!発ッ!」











「ふう、危なかったな……」


 そう呟きながら、俺は腰を下ろす。さっきの戦い、どうにか勝ちを納めることができた。


「やっほー、どったの神谷君?」


 ゆっくりしていると、向こうから文月が歩いてこちらに来ている。


「ああ。つい先ほど、もう一回久瀬の野郎をこの世界から叩き出しただけだ。」


「えっ!?それって……」


 ハトが豆鉄砲食らったみたいな顔で文月は俺を見る。


 にしても、本当に大変な戦いだったな。アップがてらにあんなことやるんじゃなかったぜ。全然アップじゃすまねえよ。


「やっぱり流石だね、神谷君。まさかともくんを倒せる人がこんなにいると思ってなかったよ。」


 確かにな。おそらく、俺とキョウ以外であいつに勝てるやつはそうそういないだろう。俺だってあの最後、「あの魔法」を使わなければ、今頃この世界に戻るためにいろいろ面倒なことをしていたところだろう。


 久瀬 智也。なかなかにすごい奴だったな。どうやら学園生活、暇をしている時間はなさそうだな。


 ……俺のアンノウン魔法の正体がみんなに気づかれるのも、そう遠い先の話でもないかもな。



続く

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