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第十二話 僕の前世はきっと焼死

「よし、そろそろ一巡したな!二巡目いくぜ!神谷、佐久間、出てこい!」


「お、もう二回戦目か。よっしゃ、行ってくるぜ。」


「うん、いってらっしゃい。」


 僕と久瀬くんとの試合が終わってしばらく、適当なところで集まってダベってたところで、赤羽先生の声が頭に響いた。もう恭祐の二試合目みたいだ。初戦で戦った白川さんは試合まだなのかな?


「……僕も見に行こ。キョウたちも来る?」


「ああ、僕はいいよ。試合の後、魔力は確かに回復したけど、若干しんどいしね。」


 正直さっきまでの久瀬くんとの試合で割と疲れたんだよね。だから、できればゆっくりしてたいんだよね、僕は。


「あたしもいいや。どうせ神谷君が勝つのわかってるし。」


 遥も明の申し出を断る。確かに勝ち負けの結果のわかる試合は面白くないか。恭祐とやり合ったからね、遥は。そりゃ嫌でも恭祐の強さがわかっちゃうか。


「……わかった。じゃあ、後で結果報告はしにくる。」


 そう言って、晶は恭祐の歩いて行った道をたどっていった。その寂しそうな晶の様子が、しょんぼりした子犬みたいに可愛かったのはここだけの話だ。


「にしても、驚いたね。まさか十分くらいでともくん倒しちゃうなんて。いったいどんな魔法つかったの?」


 二人きりになると、遥が興味津々で話しかけてきた。まあ、久瀬くんはすごく強かったからね。遥は久瀬くんと仲がいいみたいだから、その強さも知ってたんだろう。それを倒した方法はやっぱり気になるか。


「単なる火と水と風の自然操作系魔法だよ。それをうまく使っただけさ。」


 でも、正直あんまり本当のことを言いたくはない。僕はとっさにウソをついた。


 本当のことを言うと、冷たい目で見られるかもしれないしね。僕は召喚魔法は、そんなことしないって保証のある人の前以外ではめったなことがない限り話さないし、使わないんだ。


「ふ〜ん、ホントに?あやしいな〜?」


 ああ、でもやっぱり騙されないか。遥はやっぱり頭良さそうだからね。う〜ん、じゃあどうやって乗り切ろうか、この局面。


「はは、言っても平気だよ、藤堂くん。遥は、そんなことで人を変な目で見たりはしないからさ。」


 あれこれ考えていると、背後から物腰柔らかな男の子の声が聞こえてきた。少し茶色っぽい色の短髪、恭介や僕よりも高い長身、長い脚、まるで美青年の条件をすべてかね揃えているかのような青年だ。


「あら、ともくん。おかえり。」


 そう、彼こそが僕の対戦相手だった久瀬 智也くんだ。


「うん、ただいま。ときに藤堂くん、試合がまだだったら、軽く近くでアップでもどうだい?君は魔法もですが、体術のほうもすごかったからね。」


 ニコッ、と笑いながら「どうだい?」とわくわく感を抑えれなさそうに言う久瀬くん。相変わらずというか、元気な人だな、と僕は思う。


 試合を始める前に彼とは軽く話したんだけど、僕はその時に彼のことを気に入った。なんというか、非の打ちどころのないほど純粋な好青年、というイメージを受ける人なんだ、彼って。だから、僕も召喚魔法を使っていいかな、と思ったし、案の定彼はそれくらいのことで僕に奇異の目を向けることはなかった。むしろ、その逆って感じで。


「うん、どうせしばらくほかの試合に興味ないしね。ちょっと付き合ってもらっていいかな、久瀬くん?」


「ああ、大歓迎さ!そうそう、あと別に俺のことはくん付けで呼ばなくてもいいよ。智也って下の名前で呼んでくれたんでもいいし。」


 そう言いながら久瀬くん、いや智也は僕に握手を求める手を差し出す。僕もそれに応えるようにその手を握る。


「それじゃあ、僕のことはキョウって呼んでよ。みんなそう呼んでるからさ。改めてよろしく、智也。」


「こちらこそ、キョウ。」


 お互い手に軽く力を込める。なんだか智也とはいい友達になれそうだ。


「ちょっとちょっとお二人さ〜ん?仲良しちゃんになるのは全然オッケーなんだけど、できればさっきの試合について教えてくれないかな?」


 ちょっと不満そうに横から遥が顔を出す。ぷく〜、と頬を可愛らしく膨らませてるところは百点満点だ。


「う〜ん、やっぱ駄目だね。これは俺とキョウとの秘密ってことで。」


「ああ!何よそれ、ともくん!」


 ぽこぽこと智也を殴る遥。本当に二人って仲良いんだな。


「はは、よし、逃げようか、キョウ!」


「うん、リョーカイ!」


 そんなご機嫌斜めな遥を置いて、僕と智也は全力疾走で逃げる。後ろから「こら〜!」という声は聞こえるけど、次第にその声は遠ざかっていく。運動神経神クラスの智也と、周りのメンバーのせいもあって走る機会のたくさんあった僕との二人に追いつける女子なんて、多分同年齢にはいないと思う。


「ふふ、ここまで逃げたらオッケーかな。よし、軽くアップしよっか、キョウ。」


「ん、オッケー。あ、そうだ。僕刀使ってみたいな。」


 僕がそういうと、智也は地面を手につける。そして、目を閉じてしばらく精神統一をすると、カッ、と目を開いて詠唱を開始した。


「我は創造主!万物の主たる者!汝その姿を我がために改めよ!変形トランスフォーム!」


 智也はその手で地面を掴む。そして、また新たに魔法の詠唱を始める。そしてその手を引くと、その手には中々に長い刃渡りの刀が出てきた。


 これが智也の使う上級魔法、変形トランスフォーム魔法だ。ある物質を違う物質に変えたり、物質の形状を変えたりする魔法だ。でも、その二つをいっぺんに済ますには、かなり高レベルな魔力操作が必要なんだ。


「ふ〜、できた。はい、どうぞ。」


「ん、どうも。」


 それを手にとって、軽くぶんぶんと振るってみる。質感、見た目、すべてにおいて刀と同じだ。流石智也、すごい魔法精度だ。


 この魔法が、智也の体術と合わさってすごい威力になるんだ。これで僕はかなり追いつめられたんだ。全力出さざるをえなくもなっちゃったし。


「よし、それじゃあ俺も刀にしようか。少し待っててよ。」


 そういって先ほどのように地面に手をあてて、詠唱を終えて刀を取り出す。ちなみに、地面には刀の長さに比例した穴があいてるよ。そして、僕から少しずつ離れて、大体十メートルくらい離れた位置で止まる。


「よし、アップ開始!」


 そういって、智也は腰を少し落とし、刀を構える。それにならって僕も自己流で刀を構える。ほらあれ、昔流行った漫画にあったるろう○剣心に出てた斎○一の牙突。ああ、もう伏字めんどくさい。


「……変わった構えだね、キョウ。」


「うん、気にしないで。やってみたかっただけだから。」


 その体勢のまま睨み合うこと数秒、ついにしびれを切らしたか、智也が動き出す。


(今だ!)


 そう思って、直進で向かってくる智也めがけて刀を突き出す。タイミングばっちり、足を動かさないまま、上半身のバネだけを使って刀を突き出す。そう!牙○零式!(やっぱり伏字はあったほうが安全だよね……)


 だがその瞬間、僕は目を疑った。


「うん、まだまだ突き出す速度が遅いね。それじゃあ、俺はとらえられないよ。」


 彼は、その突き出した刀の上に乗っていた。


「まだまだ、だね。はあ!」


 一瞬刀が軽くなったと思った瞬間、僕の横っ面に衝撃が走る。すごくきれいな蹴りが入ったみたいだ。


 その衝撃で地面に倒れた僕の首元に、カチャッ、と刀を突き付けられた。


「はい、まず僕の一勝だね。」


 すごく素早い身のこなし。刀をまるで使うことなく、僕はあっさりと一敗。


「よ〜し、もう一回!」


 僕は立ち上がり、刀を持つ手に力をこめて握る。


「はあ!」


 すばやく刀を智也めがけて振り下ろす。だが、智也はほんの少しサイドステップでほんの紙一重でかわされた。


「甘いね、キョウ。ふん!」


 シュッ、と目にもとまらぬ速さで刀を振るう智也。ぎりぎりで手に握る刀で防ぐことができたけど、その衝撃で軽くのけぞってしまう。小さいモーションからの攻撃なのに、なんて重いんだ。


「よし、ついでに一つ技でも見せてあげるよ。」


 そういって智也は刀を左手だけで握ると、右手を口元に持ってきて目をつぶる。


「爆ぜろ!流炎陣りゅうえんじん!」


 そして、その右手で刀を握り、刀を全力で振るう。その刀の先から炎が出てきて、きれいに僕の周囲を炎が纏う。


「うわっ!あ、あっつ!」


「すごいでしょ?刀を媒体にして、炎を操りやすくするんだよ。それに、こんなこともできる。」


 もう一振りすると、刀は炎を纏い、赤々と光を放つ。


「これが久瀬流魔法剣術。うちの魔法剣術は自然操作系魔法との剣術との融合作品なんだ。」


 魔法剣術。それは近年生まれた古来からある剣術という武術と魔法をかけ合わせた新しい武術。あまり流派は増えてないみたいだけど、智也の家はその数少ない魔法剣術の家らしいんだ。


「あ、あの……智也?」


「ん、どうかした?」


「……炎どうにかしてぇ!!」


 熱い!もう我慢の限界だぁ!焼けてる!僕の体がこんがり焼けていってる!致死ダメージに至るまで我慢はできないよ!なんで試合中以外はダメージはそのまんまなんだ!


「ああ!ごめん、すっかり忘れてたよ!」


 そういって智也は地面に手をあてて、詠唱をしてうちわを取り出して僕の周りを扇いで……って、無理だよね!それじゃあ炎は消えないよ!


 わかった!やっぱり君も結局は八組の人間なんだね!


「あれ、消えない!?え、えっと、それじゃあ扇風機くらいの風力なら……」


 違う!風力の問題じゃない!これ魔法なんだったら、その魔法を解いてくれたらいいんだよ、気づいてよ智也!


「おい、なんで俺はここ数日で水系陣術を下らん用途で使わんといけんのだ?」


 あ、そ、その声は!


「トリック!オペレーション・ビギニング!」


 足もとに見慣れた陣が広がる。そして、その人は光を発して、すさまじい水圧で空へと僕の体を……って、この展開は!


「ゲフッ!」


 やっぱりかい!首から垂直落下ですかい!折れちゃう、僕の首がホントに折れ曲がっちゃう!


「よう、キョウ。なかなか面白そうなことしてんじゃねえか。」


「ぐおぉ、首が、首が……」


「うるせえぞ。俺の発言にちったぁ返事しとけ。」


「い、痛い!ダメージ負った首に追い打ちをかけないで!」


 ゲシゲシと僕の首に蹴りをたたきこむ恭祐。登場した瞬間から僕をいじめるのはやめて!


「おお、よう久瀬。さっき文月が鬼の形相でお前を探してたぞ。」


「あ〜、やっぱし?」


 あはは、と苦笑いをする智也。まったく、あんな可愛い子に追いかけられてるなんて、ここは喜ぶべきとこじゃないかな?


「おい、キョウ。そろそろお前の試合もあると思うぞ。もう大体二回戦は一、二試合くらいしか残ってねえからな。」


「ああ、そうなの?んじゃ、そろそろ試合場辺りで待ってるよ。それじゃあ智也、ありがと!」


「ん、どういたしまして。」


 挨拶を終わらせると、僕は刀を地面に置いて試合場を目指して走っていく。せっかく体あったまってるんだし、無駄に冷ますのも良くないしね。











「そういや、久瀬。」


「ん、どうかしたかい、神谷くん?」


 キョウが試合場へと立ち去った後、俺はキョウが置いて行った刀を握りながら久瀬に話しかける。


「お前、文月に聞いたが、そうとう体術に自信があるらしいな。」


「うん、まあね。」


「そうか。それじゃあ……」


 刀の切っ先を久瀬へと向けて俺は口を開く。


「俺とのアップに付き合ってくれねえか?」



続く

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