第九話 女の争いはレベルが高い
そして翌日、僕たちは3D擬似戦闘空間教室ってところで試験を始めた。
どうやらここ、魔法で擬似空間を作るシステムみたいだ。その空間の中なら空間製作者がいくらでも新しいものを作れるし、何をやっても外の現実には何の影響もないらしい。
でもこれ、システムってはいってもとある先生の魔法らしい。でもこんな魔法聞いたことがないな。
「本当にこれは凄いよな。これがオリジナル魔法ってやつか?
うわさで聞いた程度の魔法で実在してんのか怪しかったが、恐らくこれがその一つなんだろうな。」
恭輔は僕の横にきて推測を述べる。
「うそ、マジで?すごいね、流石は神無月学園。」
オリジナル魔法っていうのは、合成高等魔法っていうなんか適当に魔法を二つ混ぜて使う魔法の発展型の魔法らしい。あくまで聞いただけだけどね。
なんでもたくさんの魔法を無駄なく混ぜて普通の魔法じゃ無理なことを行う魔法らしい。でも、人間の脳ではその情報処理はほぼ不可能で、普通使うことは無理って聞いたんだけどね。魔法を使うには、だいぶ脳を使うんだよ。自分の脳内のキャパシティー以上のものは覚えれないってことだね。
「おいコラ!無駄話は終わりだ!試験を始めるぜ、まずは自然操作系からだ。そん次は物体干渉系だ。それ以降は、できる魔法だけやってけ。」
お、始まるみたいだ。魔法を見せて先生に点をつけてもらうんだよね。僕が使えるのは……自然操作系と物体干渉系だね。自分の使える魔法の少なさに軽くビックリだ。
「恭祐はどうするの?やっぱ基本二つと陣術?」
「まあな。それ以外は使えねえからな。晶、お前はどうする?」
「……どうせ隠す必要もうないし、具現化と陣術以外全部受けて来る。」
やっぱり晶はすごいな。にしても、なんだかいつものメンバーで僕だけが大分劣ってるように見えるのは気のせいだよね?
「白川さんはどうするの?」
「あ、私ですか?私も具現化系と陣術系以外は全部受けようと思ってます。」
流石は元一組、使用できる魔法の幅も広いみたいだ。これでしかも頭がいいんだろうな。一体僕との子のさは何なんだろうか?努力?
「よし、出席番号順に試験だ。私語はせずに、そこら辺に並んどけ。」
赤羽先生の声で、出席番号一番から試験が始まった。これ以上は話すと先生に怒られそうだし、素直に黙って順番を待つとしよっか。
こうして、僕らの最初の試験が始まった。
「で、キョウ。お前の結果はどうだった?」
「……帰れって言われた。」
酷すぎない!?ちなみに、点数は自然操作系が12点、物体干渉系が23点だ。本当の試験なら追試物だってさ。
「おい、俺でさえ自然操作系は31点だぞ。物体干渉系なんざ66点だ。もっとしっかりしろって。ああ、ちなみに陣術は無論100点だ。」
「うわ、マジ?まあ、陣術に関しては当たり前だけどね。」
恭祐が陣術がすごいのはもうずっと前から知ってるしね。まあ、これ一つあったらぶっちゃけ他の魔法いらないしね。陣術一つで他の系統と同じ魔法は全部使えるからね。まあ、恭祐ほど極めたらの話だけど。
「……平均85点もらった。」
「あ、晶ももう終わったんだ。すごいね。」
「……ちなみに、ミツキは平均83.2点取ってた。」
「お〜、流石は元一組だな。」
「って、それは恭祐もでしょ。」
あははは、とみんなで笑いあう。でも、実際僕だけは笑ってる余裕がなさそうだけどね。
「よ〜し、全員終わったな!んじゃ、次の試験にいくぞ!」
と、大きな赤羽先生の声が響く。
「あれ、まだ試験があるんだね。」
「みたいだな。だが、次は一体なにするつもりだ?」
しばらく赤羽先生の動向を僕らは見つめた。なにやら運び込んできたノートパソコンにデータを打ち込んで、そしてそれをじっくり見たかと思うと、驚くべき早業で何かを入力していく。
そしてそれを終えると、生徒の方を向いて、大声でこう宣言した。
「よっしゃ!今からクラス内最強決定戦やんぞ〜!!」
……なんですと!?
「いつの間にか組み合わせまで決まってたわけな。」
「ノーパいじってたのってこれだったんだね。」
僕たちは、それぞれにプリントアウトされた対戦表を見ながら嫌そうな顔をしながらうめくように言った。
ともあれ、これも試験ならやらないとね。そういや擬似空間では、痛みを感じないんだって。致死のダメージを受けると強制的にこの擬似空間からはじき出されるみたいだけど。
「それじゃあ、俺が呼んだ組み合わせから出てこい!他の連中は魔法の練習するなり、他の奴らと模擬戦するなり、適当にやってろ!この空間では、俺が指示しない限り勝手に魔力が補給されるから、いくらでも練習ができるぜ!」
おお、それはいいことを聞いた。それじゃあ、召喚獣……は、ここで出せるのかな?ここに地の精霊とか風の精霊とか入ってこれるかな?テストでは召喚魔法は見てくれなかったからわかんないんだよね。
「具現せよ、数多の風の精霊たちよ!今ここに誓わん、我汝らの糧とならんことを!サモン!」
おお、できたできた!僕の目の前には見慣れた緑色の髪の少年が出てきてくれた。
『あれ、キョウ、なんかよう?なんにもいないみたいだけど?』
「ああ、ごめん、一応出てきてくれるか確認したかったんだ。もうしばらくしたら、もっかい出番があると思うから、そのときによろしく。」
『むう、あんまり僕を引っ張り出さないでよね!確認程度なら他の奴らで済ましてよ!』
「ごめんごめん。でも、ちゃんと本番はシルフを頼らせてもらうからさ。」
『むぅ……まあ、そういうことなら許してあげるよ!それじゃ、またね!』
そう言うと、シルフは何事もなかったようにすぐに消えていった。
さて、僕のほうはもう準備が整ったし、出番を待つのみだね。僕の対戦相手は……
「へえ、ちょうどいいや。ちょっぴり気になってたしね。」
対戦表を見て、僕はニヤリと笑った。ほぼそれと同時に、次の人が呼ばれた。えっと、次の対戦は……おっと、これは気になるカードだね。よし、見学に行こう。
<FIRST 白川都月 Vs 西村晶>
「ぶっちゃけこれがほとんど頂上決定戦みてえなもんだけど、せいぜい気張ってくれや。お前らの試合は、結構みんなに魔法を知ってもらうのに役立つと思うからよ。」
「は、はい!西村さん、よろしくお願いします!」
「……晶でいい。こちらこそ、ミツキ。」
赤羽先生が指を鳴らすと、辺り一帯は草原へと変わった。なるほど、こういうこともできるんだ。
「装備にばらつきがあったらいけねえから、そろえさせてもらうぜ。それぞれ獲物はどうするよ?好きなもん作ってやるぜ。この空間内でしか使えねえけどよ。」
「……私は杖。小さい奴。」
「あ、私も同じ物でお願いいます。」
二人がそれぞれ自分の獲物の注文をすると、いきなりあかば先生の手元に、どうタイプの小杖が出てきた。ああ、これは前に晶が使って多様なサイズの杖ね。
「ほらよ、完全に同じ杖だ。これで獲物に差はねえはずだぜ。」
ぽい、と雑に杖を二人に投げ渡すと、先生は二人のバトルフィールドから離れていく。試合が始まるみたいだ。
「よ〜し、試合開始!」
赤羽先生のその掛け声とともに、二人の戦いが始まった。
(あいては晶ちゃん……成績は私とあんまり変わらないけど、昨日の朝のことを考えたら、きっと実力は私より上……どうしよう、体動かすのあんまり得意じゃないのに……)
私、白川 都月は、試合が始まったばかりなのに結構ピンチに追い込まれてる。相手はあの晶ちゃんだ。一体どんな手で攻めてくるか……
「……ミツキ、勝ちはもらう。」
そう言った瞬間、瞬時に晶ちゃんの姿が私の視界から消えた。
「なっ……!ど、どこですか!?空間調査!」
とにかく、この場の状況の認識をしなきゃっ!私はエリアサーチで周りの状況を把握する。フィールドは全体普通の草、長さは平均的に一メートル、姿を隠すには十分。生体反応は……
「ッ!そこですね!フレア!」
後方の草むら二十数メートル先、晶ちゃんはそこにいた。一瞬でそこまで移動できるなんて……すごい身のこなしです。
「……甘い。」
しかし、私の出した火炎弾は晶ちゃんの方へたどり着く前に……凍結された。
「えっ!」
「……この程度の火なら、凍らすことだって出来る。」
晶ちゃんは、私が驚いた隙を逃さず一気に走り出した。下級魔法にしたのが間違いでした!危ない、きっと近づかれたら私のほうが分が悪い!
「ち、近寄らせません!土隔壁!」
「……遅いっ!」
魔法で足元の地面から壁を作ろうとする。でも、その地面を先に凍結された。すごい、やっぱり詠唱破棄は早い。それに、どこでどう発動するのかもわからない。
でも、アースウォールはさっきのフレアと違って中級魔法です。それを防げる魔法を詠唱破棄……晶ちゃんは本当にすごいです。
「……私が勝つ。ハイ・フリージング!」
いきなり私と私の周囲が凍りつき始める。流石は上級魔法です、凍りつく速度が桁違いです。そして何より、そのハイクラスを詠唱短縮で唱えることができる晶ちゃんの魔法力も凄まじい。
「ま、まだです!魔法解除!」
鏡のわれるような音が響き、私の周りの氷が砕け散る。けど、その隙にもう晶ちゃんは至近距離まで詰め寄ってた。
「……これで、私の勝ち。」
右手に持っていた杖を私の首筋に当て、普段は無表情の晶ちゃんの顔が、かすかな笑みを浮かべてた。勝利を確信した顔。でも……
「私だって、そんなにあっさり負けられませんよ?」
「……え?」
私はニッコリと微笑むと、大きな声を出すためにスゥ、と大きく息を吸う。
「オペレーション・ビギニング!」
「……なっ!」
私は、さっきまでのごたごたの間に足元で一つの陣を書いてました。その陣の効果は……陣上の物体、生物の動きを制止させること。
「……ミツキ、陣術は使えないんじゃ?」
「試験を受けなかったからと言って、使えないとは限りませんよ?」
晶ちゃんは意表を付かれた、といった表情です。でも、実際これ以外には陣術は何も知らないので、ほとんど使えないに等しいんですけどね。
「さて、私の勝ちですね?」
私は右手の杖を晶ちゃんへと当てる。
「大いなる自然の加護よ、我をあだ名す敵を祓いたまえ!聖光火!」
私の使える魔法の中でも、一番強い唯一の超上級の魔法。
「……残念。」
その炎の中で、晶ちゃんはそう呟くとパッ、と姿を消した。この空間から晶ちゃんははじき出されたみたい。つまり、私は致死量のダメージを晶ちゃんに与えれたということ。
「勝者、白川都月!」
よし、まずは一勝です!
「うわ〜、短時間の試合だったけどすごい密度の濃い試合だったな〜。」
「全くだ。流石は両者一組クラスの実力者だ。だが、試合では白川が勝ったのは策略のおかげだな。魔法のレベル自体は晶のが上か。晶も末恐ろしいな。」
はなれたところにある岩の上で、僕と恭祐は試合の感想を軽く述べ合った。
「さて、次は俺の番だな。いくとするか。」
「あ、次恭祐なんだ。相手もかわいそうだね。戦闘になったら恭祐より強い高校生なんてまずいないんじゃない?」
正直、認めるのはむかつくけど恭祐は強い。陣を魔法ですぐさま描くことができるから、ハイクラスと同じレベルくらいの色んな魔法を何度も連続で出せる上に、綺麗に罠としても活用することもできる。そこに恭祐の知略が加われば、まさに鬼にカネボウだ。
「どうだかな。相手が相手だ。もしかしたら負けるかもしれん。」
「またまた〜。恭祐とガチでやり合って勝てるのなんて、せいぜい優香くらいなんじゃない?」
「いや、世界はまだまだ広いからな。しかも相手は得体の知れねえ奴だ。負けたっておかしくはねえ。」
そう言って、恭祐は対戦表を僕に見せた。第三回戦、戦うのは恭祐と……
「次は私だね。よろしくね、恭祐くん。ああ、あとキョウくん、鬼にはカネボウじゃなくて金棒だよ?」
自信有り気に僕たちの横に現れた、遙という謎に満ちた少女だった。
続く