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ステージ上の九人の妖精  作者: 久玲千人
ここからオレ達のアイドル活動が始まる
4/4

新しい出会いⅡ

 オレが美南を抱えて10分後。

 オレと美南はなんとか遅刻をせずに無事に学校に間に合った。

「やっと着いたか……」

「あ、ありがとね。その……もう大丈夫だから……」

「ああ、今下ろすからな」

 オレは美南をすぐに腕から下ろした。

 ここに来るまでにいろいろな人の目に入ってこそこそと何かを話していたのがいくつかあったが、あえて気にしないことにした。

「それじゃあ、教室に行くか」

「う、うん。そうだね……」

 美南の返事がぎこちなかった。

 無理もないだろう。

 多くの人にお姫様抱っこされた姿を見られていたのだから。

 しかし、いくら遅刻をしないためとはいえ、少し強引だった。

「美南」

「な、何?」

「今度何か奢ってやるよ」

「奢るなんて……そんなことしなくてもいいのに」

「いや、オレの気が済まないからな」

「わかったよ。まあ、あれだけ恥ずかしいことをやったからね。どんなものでもいいんでしょう?」

「でも、奢れる範疇のものにしてくれ……」

 嬉しそうに校舎に入っていく美南。

 滅多に奢ることがないオレの言葉に嬉しかったのだろう。

 大丈夫だよな、オレのお金事情……。

 そんなことを考えていると、呼び鈴が校内に鳴り響く。

「ここまで遅刻とか洒落になんねーよな」

 オレは急いで靴を履き替え、教室に向かった。


「よっす」

「お、バカップルの傍らがようやくお出ましですか」

「そろそろそれ止めないか?というか、オレと美南は付き合ってないからな」

「朝からあんなものを見せておいて何言ってんの」

 教室に入ると、友人の如月菜々が朝っぱらからからかってきた。

 こいつのからかい癖は少し直したほうがいいと思う。

 朝からこんなこと言われていたら身が持たない。

「あれを見てたのかよ」

「まさかみんなの前でお姫様抱っこをするとはね。やっぱり付き合ってるでしょ?」

「付き合ってないって言ってるだろ。あれは遅刻しないために仕方なくしたんだよ」

「本当かな?これは抱かれた張本人に聞くしかないね。てことで、抱かれた気分はどうだった、美南」

「え、えぇ!?だ、抱かれた気分って……」

「真面目に答えなくていいからな。どうせこの脳内恋愛バカが言ってることだ」

「褒めないでよ。恥ずかしいな」

「ちっとも褒めてないからな!」

 顔を赤めながらこちらのことをチラ見している如月。

 オレは頭を抱えて溜め息を吐く。

 チラリと横目で美南を見ると顔を赤くしてあさっての方向を見ていた。

 窓の方向でなく、天井の方を見ている。

 一体何を見ているのだろうか。

 そんなことを考えていると教室にチャイムが鳴り響いた。

 それとほぼ同時に教室の扉が開く。

 入ってきたのは小柄で見た目だけで犯罪臭がする我がクラスの担任の卯月海美が入ってきた。

 大きなリボンで後ろ髪を括り、白いワンピースを着ている。

 この姿で街中を歩いてたら警察に親がどこにいるのか聞かれることは絶対だろう。

「席に着いてくださいね。チャイムは既に鳴っていますよ」

 やんわりとした声でオレたち生徒に注意を促す。

 その声に癒されながら生徒たちがそれぞれの席に着く。

 オレも自分の席に着く。

 先生がクラス全員が席に着いたことを確認すると、手を一回パチンと叩いて注目を集める。

「はいはい、今日は皆さんに新しいお友達を紹介します。なんと英国からの帰国子女さんですぅ。皆さん仲良くしてくださいね?」

 クラス全員が返事をする。

 この先生が話すと自然と小学校に戻った気分になるな。って今はそんな話じゃないよな。

 教室が転校生の話で持ちきりになっていると、先生がもう一度手を叩いて注目を集める。

「はいはい、皆さん静かにしてくださいね。それでは入ってきてください」

「はい」

 扉の向こうから凛々しい声が帰ってくる。

 ゆっくりと扉が開くと、教室内の雰囲気が変わった。

 金髪に混じった茶髪が、窓から吹いてきた風になびいてより転校生の美しさを強調している。

 転校生が先生の隣に立つと、後ろを向いて黒板に名前を書いていく。

 その字は、今まで外国にいたことを疑うくらいに字が綺麗だった。

 特に漢字が書けていることにクラス中が驚いていた。

 やがて名前が書き終えると、転校生はオレたち生徒の方へ振り返った。

 そして、オレは知ってしまったのだ。

 オレは彼女を、知っている。

 特徴的であろう髪はもちろん、碧い瞳と白い肌に見覚えがあった。

 そう、それは今朝の登校の時のことだった。

「新しく英国から転校してきました」

 オレは信じたくなかった。

 だって、オレのことを蹴ってきた相手だぞ。

 美南にそれが新しい出会いだと言われたんだぞ。

 蹴られることが新しい出会いだなんて思いもしたくなかった。

 だから、オレは敢えて言っておこう。

「東山エリカです。これからよろしくお願いします」

 彼女が笑顔を教室に振りまいている中、オレは心の中で叫んだ。

 オレは絶対に認めないからな、こんな出会いは!!


 午前授業が終わって昼休みになった。

 相変わらず東山の周りには、クラスのやつらがわらわらと集まっていた。

「これからお昼にするんだけど、よかったら東山さんも一緒に食べない?」

「お弁当だ!このお弁当は東山さんが作ったの?」

「私たちと一緒に食べようよ。隣のクラスの子も紹介するから」

 好奇心旺盛なクラスの女子たちが東山に群がる。

 心なしか、嬉しそうにしている顔が少し困っているように見えた。

 オレは彼女に同情をしながら、いつも使っている場所で昼を済まそう。

 教室を出ると、廊下には人だかりが出来ていた。

 これも東山を見ようとしている人が成している人だかりなんだろうな。

 転校生って大変なんだな。

 オレはそう思いながら教室を後にした。


 階段を一歩ずつ上っていくと、鉄でできた扉が目の前に見えてきた。

 見ただけで重そうに見える上に光がどこにも射していなかったので、重厚感が更に感じられた。

 オレはドアノブに手をかけて重い扉を開いた。

 扉を開けると少し強めに吹く風がオレを迎え入れた。

 二年生になって最初の屋上。

 しかし、特に変わらなかった。

 変わったといえば、屋上から見える景色に桜が加わったことくらいだろう。

「桜の木の下には死体が埋まっている、か……」

 オレの姉が好きだった言葉だ。

 一度だけ意味を聞いたことがあった。

 桜の木の下には死体が埋まっている。掘り返せば、桜の呪いにかかって死んでしまう。だからこそ、人はそれを恐れて桜の木を掘り返そうとしない。しかし、そこには本当に死体が埋まっているのだろうか?それが気になるから自分が掘り返しに行く。

 当時のオレには、何を言っているのかがわからなかった。

 しかし、オレの姉がいなくなってからその意味を理解した。

 結局は誰もやらないことを自らやってしまおうという単純なことだったのだ。

 それをわざわざ難しく言っているあたりが、オレの姉らしかった。

「どこ行ったんだろうな。オレの姉」

 オレが高校に上がったと同時に、突然いなくなったのだ。

 どうしていなくなったのか、家族の誰も知らなかった。

 しかし、オレはなんとなくわかるような気がした。

 どうしていなくなったのかが。

「今はそんなことを考えても仕方ないか」

 オレは屋上に置かれている唯一のベンチに腰をかける。

 ベンチに乗っかるとギシリという如何にもそろそろ壊れそうな嫌な音が聞こえてきた。

 オレは家を出る前に美南から受け取った弁当の包みを開き、弁当の蓋を外した。

 弁当は綺麗に整えられており、弁当の大きさにしては量が多かった。

 オレは箸を取り出して弁当を食べ始める。

 いつも通りの味で美味しかった。

「と言うか、だんだん上達してきてないか?」

 いつも食べている味なのだが、どこか懐かしさがあった。

「って、幼馴染の手料理で懐かしい味とか言っちゃダメだろう」

 頭を抱えてうなだれる。

 オレがうなだれていると、鉄の扉がギギギ……と重い音を出しながら開いた。

 オレ以外に使う人がほとんどいない屋上でいったい誰が来たのだろう。

 知らないふりをしながら、扉から出てくる人を見る。

 そこには、予想もしなかった人が屋上に来たのだった。

「うわっ!風が強い……。本当にここにいるのかな?」

 屋上に来たのは東山エリカだった。

 どうやら誰かを探しに来たようだった。

 しかし、彼女は今日が転校初日のはずだ。

 なのに、一体誰を探しているというのだろう。

 そんなことを考えていると、東山と目が合ってしまった。

 急いで目を逸らしたものの、彼女はオレのもとへ歩いてきた。

「本当に屋上にいたよ。探してたよ。霧島影斗くん」

 笑顔でオレの名前を言う東山。

 なんでオレの名前を知っているのだろう。

 いくら転校初日でも、流石にその日のうちに名前を特定されることはそうそうないだろう。

 じゃあ、彼女はなぜオレの名前を知っているのか。

 それは次の彼女の言葉で解決した。

「美南ちゃんが屋上にいるって言ってたから来てみたんだ。そしたら本当にいたんだもん」

 なるほどな。

 美南と既に仲良くなっているのか。

 それなら知られていても仕方ないか。

「それで、オレに一体何のようなんだ」

 オレはベンチに座ったまま、東山に話しかけた。

 立ちたいのは山々なんだが、弁当が食いかけだったので立てなかったのだ。

 オレの質問に彼女は嬉しそうにはにかみながらこう告げてきた。

「部活って入ってる?」

「いや、何も入ってないけど」

「そうなんだ。だったらちょうど良かった」

 彼女は俺から少し離れると、立ち止まってこちらに身体を向ける。

 彼女の髪がなびくたびに、彼女の美しさが強調されていた。

「実は私、新しい部活を創りたいから一緒に入ってくれないかなと思ってね」

「部活創設?なんでオレに頼むんだよ?他にいっぱいいるだろう。誘うやつなんて」

「違うの。今朝、影斗くんを見た時から思ったんだ。彼なら誘っても大丈夫だろうってね」

「なんだそれ。勘か何かかよ」

「勘じゃないよ。ビビっと来たの。あなたを見た時から」

 その言葉に不覚にもドキリとしてしまった。

 ある程度、話したいことが終えると彼女は改めてオレの方へ向き直る。

 そして、こう言った。

「私のアイドルプロデューサになってくれませんか?」

 彼女は笑顔でそう告げたのだった。

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