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ステージ上の九人の妖精  作者: 久玲千人
ここからオレ達のアイドル活動が始まる
3/4

新しい出会いⅠ

 家を出てからしばらく歩いていた時だった。

 オレが暢気に欠伸をしていると、美南がいつもとは違う裏の道に向かって歩いていることに気付いた。

「どこに行くんだよ」

「今日はこっちの道を歩きたいなっと思ったんだ」

「そっちに道、いつも行くのを嫌ってたろ」

 いつもは遅刻をしそうになる裏道を嫌っている美南だったが、今日に限って裏道を歩きたがっている。

 オレは特に裏道を歩くことに反対はないのでそれでいいのだが、美南から裏道に行こうなんて言われたのは初めてだったので、なぜそんなことを言ってきたのか気になってしまった。

「なんというか……ただなんとなく、かな」

「なんとなく、か」

 オレは急に不安になってきた。

 いつもならまともな理由をしてくるのとは違い、今回は曖昧な理由を言ってきた。

 小学生からの付き合いのオレの経験からはっきりとした理由の言わない時の美南の言うことは、だいたいこの後よからぬことが起きることが起きるとわかっているからだ。

 しかし、オレはそれをわかっててあえて断ろうとしない。

 確かによからぬことが幾度となく起こってはいたが、それが後々いい方向へ転がっていくことが多いことがわかっているからだ。

「わかった。美南がそっちに行きたいって言うならオレは止めないからな」

「何かあったらその時はよろしくね。カゲ君」

「無責任すぎるだろ」

「行ったことない道なんだもん」

 踵を返して裏道へ歩いて行く美南。

 オレも美南の後をついて行く。

 美南自体、裏道を使うのは初めてにもかかわらずスイスイと歩いて行く。

「美南。お前ここの道使うの初めてだよな」

「え!?う……うん、初めてだよ?」

 動揺を隠せていない美南。

 視線を逸らしながらも目が泳いでいる。

 嘘を吐いていることが一目でわかった。

「どうしてここの道を歩きたがったのかそろそろ理由を教えてくれてもいいんじゃないか?」

「実はね、昨日夢を見たんだよ」

「夢?」

「そう。この道で新しい出会いをする夢をね」

「新しい出会い……ね」

 時期的にも新しい出会いがあってもおかしくはない。

 しかし、だからと言って何もこんな地味な道で新しい出会いをしなくてもいいのではないか?

 そんなことを考えていると、美南が急に立ち止まった。

「どうしたんだよ。早く行かないと間に合わないだろ」

「ここだよ」

「何が?」

「新しい出会いをする場所は!」

「ここでって……」

 止まった場所は住宅街にある小さな交差点だった。

 ここで新しい出会いがあるみたいだ。

「交差点って……少女漫画みたいな出会いとかやめてくれよな」

「ちょっと違うけど、でもそんな感じかな」

「ちょっと違うのか……」

「残念がってるね。しかも、顔にわかりやすく出てるし」

 口ではそう言ったが、少しだけ憧れていたシチュエーションだっただけに残念だった。

 しかし、交差点でそんな出会い以外にどんな出会いをするのだろうか。

「そろそろだよ」

「時間まで覚えてるのかよ」

「時間まではわかんないよ。ただ、なんとなく?」

「勘かよ……」

 全く当てにならなかった夢だった。

 というか、ここまではっきり覚えてるならそれは本当に夢なのかどうかも疑わしくなってきた。

 その時だった。

「今日が初日なのに遅刻とかしたくないよ~~~!!」

 ベタな台詞を叫びながら誰かがこちらに近づいてくるのが分かる。

 オレは少しだけ顔を出してみた。

 こちらに向かってきていたのは少女だった。

 しかし、その姿はなにか心奪われるものがあった。

「綺麗な子だね。どこの子だろ?」

「さあ。でも、確かに綺麗だな」

 いつの間にかオレの後ろに立っていた美南がオレにそう話しかける。

 オレはもう一度少女を見る。

 パッと見で入ってきたのは、髪だった。

 金髪に混じった茶髪が彼女の綺麗さをより強調していた。

 そこに碧い瞳と白い肌が入ってくる。

 日本人なのかを疑ってしまうような顔立ちをしていた。

「げっ!?人がいる!?」

 少女が俺たちに気がつくと、なぜか走りながら飛び上がった。

 そして、身体を捻らせると俺の目の前に彼女の足が目の前にあった。

「ぐあっ!!??」

「カゲ君!?」

「あ、やっちゃった……」

 蹴られた。

 しかも見事に頬にクリーンヒット。

 オレは一回転して地面に叩きつけられた。

 しかし、地面に叩きつけられた痛みよりも蹴られた頬がかなり痛かった。

 美南は慌てながら俺の元に駆け寄る。

「大丈夫!?怪我とかない!?」

「ああ……。大丈夫だ……」

 頬以外はな。

 オレは頬を摩る。

 まだ多少の痛みはあったが、ある程度の痛みは引いていた。

 そこにオレを蹴った張本人が近づいてきた。

「ごめんね。大丈夫だった?」

「ああ……。とりあえずは、な」

「そうか、よかった。って、君からしたら良くないよね。立てる?」

 彼女はオレに手を差し伸べてきた。

 オレは摩っていたほうの手で彼女の手を握る。

 そして彼女はオレをグイっと引っ張って立たせた。

 意外と力が強いみたいだった。

「本当にごめんね!人がいたからつい癖で……」

「大丈夫だから顔を上げてくれ」

 彼女はオレを立たせてすぐに謝ってきた。

 癖で人を蹴ったことにはあえて触れなかったが。

「ところで、急いでるんじゃないのか?」

「そうだった!わっ!もうこんな時間!このお礼はまた会った時にするから!」

 そう言い残して彼女は走っていってしまった。

 残されたオレと美南はその場で呆然と立ち尽くしていた。

「なあ、まさかだけどあれが新しい出会いとか言わないよな?」

「うん、そのまさかだよ」

「マジかよ……」

 オレはその場で崩れる。

 あんな出会い方がこの世に存在するなんて考えられなかった。

 しかし、この状況を信じられないオレはこう考えた。

「いや、学校で会わなければ新しい出会いにはならないはず……!」

「確かにそれだったら成立はしないと思うけど……」

「オレはそれに賭けるぞ!こんな出会い方、神が認めてもオレが絶対に認めないからな!」

「少しは現実を見ようよ、カゲ君……」

 高らかに宣言をしたオレに対して、美南は呆れていた。

 そこに携帯の着信音が鳴った。

「オレだ」

 ポケットから取り出すと、妹からの着信だった。

 通話ボタンを押して携帯に出る。

「もしもし?どうした、百合?寂しくなってお兄ちゃんの声が聴きたくなったか?」

『いっぺん地獄を見ていくか?』

「うん、オレが調子乗ってた。すまん……」

 妹にどす黒い声で恐ろしいことを言われた。

 うちの妹、マヂコワイ……っ!

「それでどうしたんだよ?」

『今どこにいるの?教室に行ってもまだ居なかったし』

「勝手に教室に来んなっていつも言ってるだろ……」

『好きで来てるからいいの!それより、本当にどこにいるの?」

「まだ登校中だが?」

『それ本当に言ってるの?』

「本当に言ってるけど、それがどうしたんだよ?」

「カゲ君!!」

 オレが百合と話していた時、オレの肩を美南が叩いてきた。

「どうした?」

「これ……」

 美南が震えながら携帯を俺に見せてくる。

 現在8時15分。

 それがわかると、オレは妹にこう告げた。

「うん……。オレと美南、完璧に遅刻ルート突入しました」

『へ?何言ってるの、お兄ちゃん?』

「今な、裏道を歩いてんだよ」

『頑張って走ればまだ間に合うよ?』

「美南もいるんだよ!?美南が体力ないこと知ってるだろ!?」

『抱いて走ればいいじゃん。お兄ちゃんならできるでしょ?』

「それだったら行けるが……それは流石にできないだろ」

『お兄ちゃんなら行けるよ!ファイトだよ、お兄ちゃん!!』

「んなこと言われてもな……っておい!?……切りやがった」

 無常にも妹が通話を切った。

 オレはしばらく悩んだが、やがて考えることを諦めて美南の方を向く。

「美南」

「え?何、カゲ君?」

「これは遅刻しないためだ。悪い!」

「え?えぇ!!??」

 オレは美南を抱き上げた。

 無論、遅刻をしないための策である。

「ちょっと、カゲ君!?」

 美南本人は相当動揺しているようだ。

「悪いな、美南。遅刻しないためだ。許してくれ!」

 そう言ってオレは走った。

 美南は落ちないようにオレの制服にしっかりと掴んでいた。

 オレは美南を気にしながら、全力で走る。

「カゲ君、私走れるから……」

「いいからしっかり掴まっとけ!」

「でも、私重いでしょ?」

「重くなんかないから掴まっとけ!急いで学校に向かうぞ!」

「う……うん……」

 美南は大人しく俺の制服に掴まっていた。

 体重も俺に預けていた。

 オレは美南がしっかりと掴まっていることを確認すると、全力疾走で学校に向かったのだった。

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