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ステージ上の九人の妖精  作者: 久玲千人
ここからオレ達のアイドル活動が始まる
2/4

ごく平凡な日常

「ん……っ。またあの夢か……」

 ここ最近、妙な夢を見るようになった。

 今まではこんな夢を見ることがなかった。(そもそもオレ自身が夢を見ないのが普通だった)

 詳しくは知らないが、オレがアイドルプロデューサになっている夢だった。

 オレはアイドルなんてものはテレビの芸能ニュースでしか見たことがなかった。

 それにも関わらず、オレはこうして夢を見るようになった。

 どうして見るようになったのかは定かではない。

 しかし、二次元もののアイドルなら見たことがあるのでそれが原因の一つなのかもしれない。

「お兄ちゃん、起きてるの?起きてたら返事して」

 そんなことを考えていると、扉越しに聞きなれた声が聞こえてきた。

 オレを『お兄ちゃん』と呼ぶものは家の中で一人しかいなかった。

「起きてるぞ。今から着替えて下に向かうから」

「わかった。早めに来てね。もう朝食ができてるから」

「おう、了解」

 オレはベットから立ち上がってクローゼットから制服を取り出す。

 そして無駄のない動作でパジャマから制服に着替えて、鞄を取り出して荷物の整理をする。

「忘れ物は……大丈夫そうだな。後は……そうだ」

 オレは鞄を机の上に置いて、窓のカーテンを開いた。

 青空が見えているとても清々しい天気。

「今日もいいことがありそうだな」

 そう呟いてオレは机に置いてあった鞄を持って自室から出た。

 階段を降っている時、香ばしいにおいがオレを迎えてくれた。

 階段を降りきってリビングに向かう。

 その途中でオレの前に仁王立ちをしているツインテールがいた。

「今日は起きるのが遅かったな、お兄ちゃん。今朝はどうして遅かったのか理由を聞かせてもらおうか」

 腕を組みながらつま先立ちでオレのことを一生懸命見下そうとしているのは、我が妹の霧島百合。

 小生意気な性格だが、オレに結構懐いている可愛い妹だ。

 周りからは『ブラコン』だの『お兄ちゃん子』だのとバカにされているが、百合は全くそんなことを気にしてはいない。

 むしろ、「そうなんです~。私、とてもお兄ちゃん子なんです~、テヘッ!」とか言っているらしい。

 頭がいいのか単なるバカなのかよくわからない性格をしている。

「どうして何も言わないの!?せめて何か一言言ってよぅ。言ってる私が恥ずかしいじゃん」

「だったらそんなこと言わなけりゃよかったろ」

 涙目でオレに訴えてくる百合。

 正直その辺の性格は面倒くさい。

「それよりもう朝食できてんだろ。だったら早く食おうぜ。折角早く起きたのに遅刻とか勘弁だからな」

「なんかはぐらかされた気がするけど、それもそうだね」

 少しだけ頬を膨らませて怒っていた百合だったが、そこは妹としてなのか、オレの言うことを素直に聞いてくれた。

 リビングのドアを開くと机の上にはすでに朝食が並んでいた。

 台所に目を移すとオレの幼馴染みである栗山美南が鼻歌を歌いながら食器を洗っていた。

「あ、カゲ君。おはよー」

「おう、おはよう。今日は目玉焼きか」

「そうだよ。もう少しで洗い物が終わるから座って待ってて」

 オレは言われた通り、椅子に座った。

 百合もオレの向かいの席に座って待つ。

 数分もしないうちに美南は洗い物をすべて終わらせ、百合の隣の席に座る。

 それを確認してから三人で手を合わせた。

「「「いただきます」」」

 オレは右手に箸を持って、左で茶碗を持つ。

 一方、百合と美南は食パンを持って口に運ぶ。

 百合のパンにはスライスチーズがのっていてそれが伸びる。

「またパンにチーズか。ほんとに好きだよな」

「むぅ。いっつもご飯のお兄ちゃんには言われたくないな」

「ご飯をバカにすんなよ。パンよりも多くのおかずがマッチするんだからな」

「二人とも落ち着いて。早く食べないと遅刻しちゃうから」

「それもそうだな」

「またはぐらかした。いつもお兄ちゃんって都合がいい時は逃げるよね」

「逃げているんじゃなくて戦略的撤退と言ってくれ」

「それ、あんまり変わってないと思うよ。カゲ君」

 そんなバカげたことを話しながら朝食を食べる。

 これがオレたちの日常だ。

 本当に平和はいいな。

 ビバ・平和。

「御馳走様でした。それじゃ先に学校に行ってるね」

「あれ、今日は何かあったのか」

「今日は日直なの。だから、早めに行って済ますものを済まさないと」

 パタパタと忙しそうに家の中を動き回る百合。

 あいつ、また昨日今日の支度してなかったな。

「それじゃ行ってきます!」

「行ってらっしゃい」

「いってらー」

 適当な返事をして百合を送り、朝食を再び食べ始める。

 一方の美南は俺のように適当でなく、ちゃんと百合を見送る。

 まるで母親のような感じに見える。

 見送った後、美南は百合と美南の分の食器を洗いに台所に戻る。

 オレは朝食を食べ終えた後、食器をシンクに置いてからリビングにあるソファーに座りながら適当にニュース番組を見ていた。

 今日の天気は晴れか。

 そんな風にしてしばらく適当に時間を過ごしていると、美南がオレのもとに来た。

「さて、カゲ君。そろそろ私たちも行く?」

「あれ、もう洗い終わったのか」

「まだ残ってるんだけど、もう時間がね」

 美南がチラッと時計を見る。

 オレもテレビに映っている時間を見る。

 少しだけ時間に余裕があるものの、確かにそろそろ出ないといけない時間になっていた。

「後どれくらい洗い物残ってるんだ?」

「後数枚ってところだけど」

「それじゃ早めに洗い物を片付けようぜ」

「そんないいよ。帰って来てからまた洗えばいいんだから」

「二人でやればすぐに済むことだろ。オレが食器を拭くから美南は洗ってくれ」

「うん、わかった」

 オレと美南は台所に行き、残りの食器を洗った。

 そんなに時間がかからなかったので、まだ時間には余裕がある。

「それじゃそろそろ学校に行こう」

「まだ時間には余裕があるけど」

「早めに出た方が遅刻することなんてないでしょう?」

「それもそうか。わかった、行こうか」

 オレはソファーの上に置いてあった鞄を持って玄関まで歩く。

 少し遅れて美南も鞄を持って玄関に来る。

「忘れ物はないよね」

「お前はオレの母親か。あるわけないだろ」

「嘘つけ。ここに大事な忘れ物があるよ」

 そういって、オレの目の前に綺麗に布で包まれた弁当箱を渡してくる。

 美南は毎日、オレと百合と自分の分の三人分の弁当箱を作っている。

 朝食を作るだけでも大変なのに、加えて三人分の弁当も作ってしまうのだから本当にすごいと思う。

「ありがとな」

「どういたしまして。それじゃ行こう」

「そうだな」

 オレと美南は靴を履いて家を出た。

 ここからまた、オレはごく平凡な学生生活が始まると思っていた。

 しかし、それはある少女との出会いで一気に崩壊していったのだった。

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