ここがオレたちの最後のステージだ
前に作った作品がつまらなかったので新しく作り直しました。
よろしくお願いします。
別に最初から興味があったわけじゃない。
ただお願いをされたからやってやっただけに過ぎなかった。
しかし、今になっては考えが変わっていた。
「どうしたの?まさかだけど、ここまで来て怖じ気づいちゃった?」
オレの隣に別のアイドルのプロデューサをしている道見聖子が話しかけてきた。
「そんな風に見えるか?」
「どれどれ……いや、そうは見えないね。どちらかというと、楽しそうな顔をしてるかな」
「た、楽しそう……か」
鏡があるわけではないので、自分でどんな顔をしているのかはわからない。
しかし、道見が言っていた通り、どこか楽しみにしているような気がする。
「霧島さん、そろそろ準備お願いします」
「あ、はい」
ステージ裏で物品を運んでいたスタッフに声を掛けられた。
そろそろオレたちの最後の戦いが始まろうとしていた。
「それじゃオレはあいつらを呼んでくるよ。また後でな」
「うん、頑張ってね。私たちの分まで」
オレに微笑んでくる道見。
オレは道見に親指を立てて、あいつらがいる楽屋に向かう。
楽屋に通じる廊下もスタッフが慌ただしく行き来をしている。
オレはできるだけ邪魔にならないように廊下を歩く。
楽屋が近づいてきたとき、向こうの廊下から派手な衣装を着た少女がお腹を抱えながら歩いていた。
「あれは……愛衣か」
一年後輩の倉原愛衣だった。
愛衣はオレのことに気が付いたようで小走りにオレの元に来る。
「あ、影斗先輩。どうかしたんですか」
「皆にステージに上がるための準備をしてもらおうとしてたんだけど、愛衣、お前大丈夫か?顔色も優れてないみたいだし」
「緊張のし過ぎでお腹壊しちゃって……。えへへ」
「そうだったのか。それでお腹の調子はもう平気なのか」
「多分大丈夫です。でも、もしかすると本番中にお腹が痛くなりそう……」
「念のために救急室で寝とくか?」
「いえ、そんなことしたら他のメンバーに迷惑になるだけですから。特に、エリカ先輩には……」
シュンとした表情を見せる愛衣。
ここで倒られるのも問題だが、今の彼女にとっては自分よりもエリカ達メンバーのことを考えていた。
「愛衣、お前の気持ちはよくわかる。でもな、ここでお前が無理したら他のやつらだって心配すんだ。だから、何かあったらオレになんでも言ってくれ」
「先輩……。そ、それじゃ先輩、その、お腹を……擦ってもらってもいいですか?」
「さ、擦るって……お腹をか?」
「い、いや、やっぱり何でもないです!」
顔を真っ赤にして首を横に振る愛衣。
オレもいきなり腹を擦ってくれと言われたので心臓がバクバク鳴っている。
「そ、それよりも先輩、もうすぐなんですよね。早くみんなを呼びましょう」
「あ、ああ、そうだな」
本来の目的を忘れていた。
これから本番だって言うのにオレがしっかりしないとダメじゃないか。
頬をパンッと叩いて気合を入れる。
オレが出るわけではないのだけれど。
「先輩!早くこっちに来てください!本当に時間がないですよ!」
「ああ、今行く」
オレは愛衣がいる扉まで歩いていく。
これがあいつらにとって最後のステージ。
だからこそ、今回のステージは最高のものにしたい。
オレは愛衣を見る。
愛衣も俺の顔を見てコクリと頷く。
オレはドアノブに手をかける。
その時ふと今までのことが頭の中をよぎってきた。
結成した時は本当にひどいものだったな。
そんなことを考えながら扉を開いた。