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旅立ち  作者: 佐倉梨琥
インタールード 1
7/7

花と揺られて

 ガタンゴトン、ガタンゴトン…


 汽車が揺れる。


 自分以外に、人は誰もいない。


 あたり前だ。これは、言わば幽霊汽車なのだから。


 彼は、気付いているだろうか。本当は、この時間に汽車など来ないことを。


 《そろそろ時間か。》


 それが合図だった。


 龍神との約束。


 好きなだけ話した。それなのに、名残惜しく感じてしまう。


 きっと、嘘を見抜かれた。彼は、そういう所だけは、いつも勘が良いのだ。


 でも、なにも言わないでくれた。それが彼の優しさだ。



 車窓から、外を眺める。窓の外に広がるのは、暖かな陽気に包まれた神山村。この線路は村の外側をぐるりと回ってトンネルに入る。


 『見納め…か…。』


 3人で並んでかえった土手。


 花の揺れる畦道。


 ついさっきまで居た場所なのに、すでに懐かしく感じている。



 『ありがとう。』


 さようなら。


 大好きな故郷。



 もうすぐトンネルに入る。


 窓、閉めないと。


 そう思い、窓の縁に手を伸ばしかけたとき、駅と桜が目に入った。


 そっと、手のひらを開く。


 2枚の桜の花びら。


 さっき、こっそりと拾っておいた。落としてない。大丈夫だ。



 もう一度、駅の方を見る。


 『きっと、いつか…また。』


 生まれ変わって、たとえ何もかも忘れていても。


 それでももう一度会いたいと、会えれば良いなと思う。



 そっと窓を閉め、目をつぶる。


 大切な、大好きな親友の顔を思い出す。


 《いってらっしゃい。よい旅を。》


 心の中で、そっと返す。




 いってきます。





   *   *   *



 あぁ。暖かい。


 「…く…、…しく…や」


 何か、声がする…?


 「…よ…ん、よし…んや、よしくん、よしくんや」


 え?


 目が覚めた。目の前には、木村のおばあちゃん。


 「あぁ、良かった。目、覚めたかい?もうすぐ、汽車が来ちゃうからねぇ。切符を買わせておくれ。」


 汽車?


 時計を見上げると、確かに汽車が来るまで5分ほどだ。


 「は、はい!只今!」


 慌てて切符を用意する。


 「ありがとねぇ。」


 そう言って、木村のおばあちゃんは、ホームに近いベンチに腰かけた。


 やっと、頭が動いてきた。さっきまで、確かにともと話をしていたはずだ。なのに何故、ここで眠っていたのだろう。そう、ホーム。ホームで見送った後の記憶がない。


 やがて、信じたくはないが、ひとつの結論にたどり着いた。


 『全て夢だった』


 それ以外に考え付かない。でも、あの時間が夢だったなどと、思いたくはない。


 その時、ベルが鳴った。汽車が来たのだ。


 「よいしょ。」


 木村のおばあちゃんが立ち上がる。最近、腰を痛めたと言っていたな。


 おばあちゃんに手を貸して、汽車まで連れていく。


 いつも通りのアナウンス。

 そして、汽車は発車した。


 駅舎に入る。席に戻ろうと、ふと、机の上を見ると、桜の花びらが1枚、のっていた。

 風が吹いているとはいえ、こんな中の方まで、花びらを連れてくるほど強くもない。



 ともだ。



 根拠も何もない。けれど、そう思った。


 そっと、その花びらを手に取る。


 ハンカチに包んで持って帰ろう。栞にしておくのも良いかもしれない。


 ともの置き土産だと思うことにした。


 あれは、夢では無かったのだ。


 ホームから風が吹いてきた。


 その時、確かにともの声が聞こえた気がした。




 『いってきます。』





 お久しぶりです。Transparenzの佐倉梨琥です!


 前回投稿から1ヶ月以上たってしまいました。


 1章、終わりました!!とか、言っていたにも関わらず、「また、この二人かよ!!」というツッコミは、是非飲み込んで頂きたく…。


 次の話から、本当に、新しい章に入ります!!絶対です!


 はたして、ともの旅はどのようなものになっていくのか!?そして、どのような結末を向かえるのか!?


 最後までお付き合い頂けると幸いです。


 では、また、次の章で。

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