花と揺られて
ガタンゴトン、ガタンゴトン…
汽車が揺れる。
自分以外に、人は誰もいない。
あたり前だ。これは、言わば幽霊汽車なのだから。
彼は、気付いているだろうか。本当は、この時間に汽車など来ないことを。
《そろそろ時間か。》
それが合図だった。
龍神との約束。
好きなだけ話した。それなのに、名残惜しく感じてしまう。
きっと、嘘を見抜かれた。彼は、そういう所だけは、いつも勘が良いのだ。
でも、なにも言わないでくれた。それが彼の優しさだ。
車窓から、外を眺める。窓の外に広がるのは、暖かな陽気に包まれた神山村。この線路は村の外側をぐるりと回ってトンネルに入る。
『見納め…か…。』
3人で並んでかえった土手。
花の揺れる畦道。
ついさっきまで居た場所なのに、すでに懐かしく感じている。
『ありがとう。』
さようなら。
大好きな故郷。
もうすぐトンネルに入る。
窓、閉めないと。
そう思い、窓の縁に手を伸ばしかけたとき、駅と桜が目に入った。
そっと、手のひらを開く。
2枚の桜の花びら。
さっき、こっそりと拾っておいた。落としてない。大丈夫だ。
もう一度、駅の方を見る。
『きっと、いつか…また。』
生まれ変わって、たとえ何もかも忘れていても。
それでももう一度会いたいと、会えれば良いなと思う。
そっと窓を閉め、目をつぶる。
大切な、大好きな親友の顔を思い出す。
《いってらっしゃい。よい旅を。》
心の中で、そっと返す。
いってきます。
* * *
あぁ。暖かい。
「…く…、…しく…や」
何か、声がする…?
「…よ…ん、よし…んや、よしくん、よしくんや」
え?
目が覚めた。目の前には、木村のおばあちゃん。
「あぁ、良かった。目、覚めたかい?もうすぐ、汽車が来ちゃうからねぇ。切符を買わせておくれ。」
汽車?
時計を見上げると、確かに汽車が来るまで5分ほどだ。
「は、はい!只今!」
慌てて切符を用意する。
「ありがとねぇ。」
そう言って、木村のおばあちゃんは、ホームに近いベンチに腰かけた。
やっと、頭が動いてきた。さっきまで、確かにともと話をしていたはずだ。なのに何故、ここで眠っていたのだろう。そう、ホーム。ホームで見送った後の記憶がない。
やがて、信じたくはないが、ひとつの結論にたどり着いた。
『全て夢だった』
それ以外に考え付かない。でも、あの時間が夢だったなどと、思いたくはない。
その時、ベルが鳴った。汽車が来たのだ。
「よいしょ。」
木村のおばあちゃんが立ち上がる。最近、腰を痛めたと言っていたな。
おばあちゃんに手を貸して、汽車まで連れていく。
いつも通りのアナウンス。
そして、汽車は発車した。
駅舎に入る。席に戻ろうと、ふと、机の上を見ると、桜の花びらが1枚、のっていた。
風が吹いているとはいえ、こんな中の方まで、花びらを連れてくるほど強くもない。
ともだ。
根拠も何もない。けれど、そう思った。
そっと、その花びらを手に取る。
ハンカチに包んで持って帰ろう。栞にしておくのも良いかもしれない。
ともの置き土産だと思うことにした。
あれは、夢では無かったのだ。
ホームから風が吹いてきた。
その時、確かにともの声が聞こえた気がした。
『いってきます。』
お久しぶりです。Transparenzの佐倉梨琥です!
前回投稿から1ヶ月以上たってしまいました。
1章、終わりました!!とか、言っていたにも関わらず、「また、この二人かよ!!」というツッコミは、是非飲み込んで頂きたく…。
次の話から、本当に、新しい章に入ります!!絶対です!
はたして、ともの旅はどのようなものになっていくのか!?そして、どのような結末を向かえるのか!?
最後までお付き合い頂けると幸いです。
では、また、次の章で。