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旅立ち  作者: 佐倉梨琥
第1章 駅と桜と彼岸花
6/7

君、 淡く

 駅舎内に、暖かな風が吹いて、甘い香りを運んできた。

 「桜…?」

 ともが呟いた。

 「あぁ…だな。」

 私も呟くように、返事をした。


 「そーいえば、覚えてるか?」

 何のことか分からず、ともを見返すと、ともは、何かを懐かしむように、目を細めながら続けた。

 「俺たちがガキの頃、この駅の木に名前を掘ったこと。」

 言われるまですっかり忘れていた。そんなこともあったなぁ、と懐かしく思うと同時に、その情景が頭の中にふわりと浮かんできた。



 『ほら、はやくこいよ!』

 『まてよ、とも!』

 『ま…まって、ふたりともはやいよ…』

 『ほら、りんがおくれてるだろ!?』

 『りんちゃーん、がんばれっ!もうすこし!』


 『とうちゃ~く!』

 『ここ…えき?』

 『わ~!さくら!きれい!!』

 『そう!とうさんにきいたんだ。このさくら、おれたちがうまれたとしに、うえられたんだって!』

 『じゃぁ、わたしたちと、オナイドシだね!』

 『いや…、ともとは、ガクネンがちがうって…』

 『よっちゃんと、りんちゃんは、ハヤウマレだから、うまれたとしは、おなじだって、とうさんいってた!だから、オナイドシなの!』

 『そうなんだ…?…で?』

 『シンユウのシルシに、なまえ、かこうぜ!!』

 『…は!?このきに!?なまえって…おこられるだろ…』

 『いいね!たのしそう!』

 『え…りん?』

 『ね!ね!よっちゃんもやろう!?』

 『…っ!』

 『お~しっ!きまり!!』



 「あのとき…結局しかられたんだよな。」

 私は言った。

 予想は、正しかったのだ。もっとしっかり止めれば良かったと、後悔したのを覚えている。

 「それに、『俺たちが生まれた年に植えられた』っての、父さんの冗談だったんだよな。」

 「そうそう。桜の木がたかが5・6年で、あんなに大きくなるわけなかったんだ。」

私たちが名前を掘った当時から、かなり大きくて、立派な木だった。

 「それだけ、純粋だったってことじゃね?」


 私たちは、駅舎をでて、駅舎のすぐ横にある桜の元に立っていた。


 私たちが掘った名前は、木が成長したため、少し読みづらくなってはいたが、確かにそこにあった。あの時、真っ直ぐ立って、顔の目の前の位置に掘った名前は、今、膝の少し上くらいにある。

 風が吹き、ざあっと音をたてながら、桜の大木は枝を揺らす。ひらひらと舞う花びらが幻想的で、見とれてしまう。ともも私も、ぼうっとそこに立ち、無言のまま、その光景を眺めていた。

 桜は、幹を太くし、枝を大きく広げ、あの頃よりその存在感を大きくしていた。それだけの月日が流れたのだと感じる。けれど、隣に立つともは、あの時から変わらない。

 そんなことを考えていると、突然ともが話しかけてきた。

 「よっちゃんてさぁ…」

 「ん?」

 「あの頃から、りんちゃんのこと、好きだよね?」

 「…なっ!?」

何を言い出すのかと思えば…!

 「名前を掘ろうって言ったとき、りんちゃんもしたいって言ったから、止めるのやめたんだろ?」

 …図星だ。何も言えない。

 「隠さなくていいよ、バレてるし。…今でも好き?」

 何かさらりと、恐ろしいことを言われたような…。でも、私も知っている。

 「ともも、ずっと好きなんだろ?」

ともが、こちらを向く。目を見張り…口の端をにやりとあげた。

 「今、『ともも』て、言ったな?」

しまった!と、思ったが後の祭り。からかわれるのが、目に見えているので、先手必勝。次に言われる前に、こっちの質問を押し通せばいい。

 「で、どうなんだ?」

 私の反応が気にくわなかったのか、少しつまらなさそうな顔になったが、ふと、目を反らして桜の大木を見上げた。

 「そうだな。好きだったよ。でも、よっちゃんの『好き』とは、違うかな。」

 私は何も言わず、続きを促す。

 「りんちゃんは、お姉ちゃんとゆーか、たまに妹っぽくて…家族みたいな感覚かな。」

 そう言うと、ふわりと笑んでこっちを向いた。

 嘘だな。

 根拠など何もない。直感でそう思った。でも、それ以上、聞く気にはなれなかった。

 「そうか…。」

 その話はそこで終わった。


 それから、ぽつりぽつり、思い出話をして過ごした。人が来ることはなく、春風に吹かれ、甘い香りを漂わせる桜の大木が、私たちを静かに見下ろしているだけだった。


 どれくらい時間がたっただろうか。


 「そろそろ時間か。」


 とものその一言で、私たちは駅舎に戻り、そのままホームに出た。

 そういえば、ふと浮かんだ素朴な疑問を尋ねた。

 「とも、幽霊なら、汽車に乗る必要ないんじゃないのか?」

 すると、ともは、また、いたずらっ子のような笑みを浮かべて言った。

 「気分だよ!」



 もうすぐ、汽車が来る。

 「どうせだからさ、アナウンスとか、やって見せてよ。」

 ともが突然、そう言ってきた。

 「とものこと、運転手とか、居ればだけど、乗客とか、見えてるのか?」

 「さぁ?まぁ、細かいことはきにすんなよ!」

 もう、諦めた。それに…『最後』なのだから。


 マイクを手に取る。


 『間もなく、汽車が到着します。危険ですので、乗客の皆様は、黄色い線より外側に出ないよう、お願いします。』

 

 ともは、嬉しそうだ。


 ホームに汽車が入ってきた。

 ドアが開く。

 「じゃぁ、行くよ。」

 ともが汽車に乗り込む。

 ドアはまだ、開いたままだ。

 「約束、忘れんなよ。」

 振り返って、言った。

 「あぁ。彼岸花だろ。」

 満足そうに笑うとも。とっくに、諦めた。私も笑い返した。


 『ありがとう。』


 声が重なる。はっと、目を見開いた後、寂しそうな瞳を瞼で隠し、ともは、笑った。


 太陽みたいなあの笑顔。


 きっと、私は一生この笑顔を忘れない。


 ドアが閉まる。


 震えそうになる声を、必死で呑み込む。

 最後は、笑顔がいい。


 『発車いたします。いってらっしゃいませ。』


 汽車がゆっくりと走り出す。

 ともが、あの笑顔で手を振ってきたので、私も振り返した。


 春風が吹く。甘い香りを運んでくる。

 線路沿いの土手に、彼岸花が揺れた気がした。

 見えなくなっていく汽車。

 もう、会うことはできない友に向けて、私は言った。



 「いってらっしゃい。よい旅を。」




 初めましての方もそうでない方も、こんにちは!

 Transparenzの佐倉梨琥です!!


 1章、完結です!!


 3月中に、1章を投稿しきることが出来ました!

 ギリギリですが(笑)


 中1の頃に書いたものは、よっちゃんの気持ちを重点的に書いていて、ともの描写が少なく、今読むと、これは小説じゃない!と、思うほど悲惨なものでした。そのため、『とも』は、ここで書くために新しく生まれたとも言えるキャラクターです。

 そして、大体の構成を建てていく内に、いつの間にかともが主人公の座を奪いとっていました!!(笑)


 ここまで、読んで下さった方、本当にありがとうございます。

 まだ、物語は続きます。

 今後も、ぜひ、お付き合いください。


 それでは、また、次の章で。

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