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旅立ち  作者: 佐倉梨琥
第1章 駅と桜と彼岸花
5/7

花、結ぶ

 「ほん…とうに…、本当に、とも…なの…か?」


 なんとか絞り出した声は、ひどく嗄れていた。信じられなかったのだ。目の前の出来事が。


 「あぁ。そうだよ。」


 ともは、にかっと笑った。記憶と少しも変わらない。


 「こんな風にまた、よっちゃんと話せるとは、思ってなかったよ…て、」

 一旦言葉をきると、少し困ったように笑った。


 「なーに泣いてんだよ」


 「…え?」

 気付かなかった。頬を拭ってみると、確かに濡れていた。

 「あ…れ…?」

 どんどん、どんどん、溢れ出して、止まらなくなった。

 「あーあ。いい大人が泣いてんじゃねぇよ。」

 ともは、大袈裟に両手を広げて、笑いながら、溜め息を一つついた。

 「う、うるせー。」

 声が掠れる。止めようと思っても止まらないのだ。

 「相変わらず、恥ずかしくなると口調が悪くなる癖、治ってないんだな。」

 寂しそうに笑うともを見ていると、涙は、止まるどころか、ますます溢れ出して、どうしようもなくなる。

 「ど…して、いま…さら…」

 上手く話せない。だが、ともは察してくれた。

 「ああ。まぁ、ざっくり言うと、時間切れってことかな?だから、最後にみんなに挨拶させてもらってんだ。」

 時間切れ…?何のだ?私の顔をみて、汲み取ってくれたのか、そのまま話始めた。

 「俺さ、川に流されて、死ぬのかって思ったとき声を聞いたんだ。」

 「声?」

 「そう。多分、龍神様だと思う。辰巳って、神社の息子じゃん?それに、その声『我が愛し子を助けてくれたことに礼を言う』とか言ってたし。まぁ、それでさ、その声に生き返らせることが出来ない代わりに、この世に少しの間だけ、留まれるようにしてくれるって言われて、俺からも頼んだんだ。」

 「…何を?」

私が尋ねると、ともは、優しく微笑みながら言った。


 「ここに居たい。時間が欲しい。よっちゃんや、りんちゃんや、辰巳…皆の側に居たい。皆のことを見ていたいって。」


 「とも…」

彼は、この13年間、何を感じ、何を考え、何を想い、私たちの側に居たのだろうか。

 またひとつ、涙がこぼれ落ちた。

 「ほんと、よっちゃん泣き虫だね。あぁ、もしかして、年?」

けらけらと笑いながら、涙を拭おうと手を伸ばしてきた。けれど…

 「あ…」

その手は、私の頬に触れることなく、通り抜けた。

ともは、寂しそうに笑った。

 「触れないってこと、忘れてた。」


 違う。そんな顔をしてほしいんじゃない。最後だと言っていた。きっともう、こんな風に言葉を交わすことは出来ないのだろう。最後なのに、こんな顔をさせるなんて。

 どうすればいい。いつもの、太陽みたいなあの笑顔を。どうすれば、笑ってくれる?どうすれば、安心してくれる?『いい大人が』その通りだ。年下に心配かけてどうする。


 「…っ、墓参りっ!行く…から…。」


 考えて、考えて、出た言葉がこれだから、いい加減、自分に呆れてくる。

 でも…


 「ふっ…ははははは!!」


顔をあげると、ともがひぃひぃ言いながら笑っていた。…バカにされている気分…またか…。


 込み上げてくる笑いが、押さえられないようで、腹を抱え、涙を何度も拭いながら、こっちを向いた。

 「相変わらず、面白いこと言ってくれる。」

 「そりゃ、どーも。」

 さすがに、カチンときたので、軽く睨み付ける。

 ふぅと、息を落ち着かせて、ともは言った。

 「うん、来て。墓参り。待ってるから。」

 太陽の笑顔だ。

 やっと、笑ってくれた。

 さっきまでの話からすると、きっと墓参りに行っても、ともは、もういない。それでも、『待ってる』と言ってくれた。笑ってくれた。それだけで、十分だ。


 「じゃあさ、頼み事してもいい?」

 目で、続きを促す。


 「彼岸花が、見たいなぁ。」


  ――間。


 「………はぁっ!?」


 「お供えの花として、持ってきてくれればいいから。」

 「いやいやいやいや。そういうことじゃなく。」

 「じゃ、どーゆー?」

 「…非常識、な感じしないか?」

 「そうか?昔は、墓の回りに植えてたりとかしてたらしいけど…まぁ、俺が好きなんだから良いだろ。」

 「それで良いのか…?」

 「良いの、良いの。」

 流されかけたが、よく考えると、問題があった。

 「いや、墓参りに彼岸花を持って行く姿を、村の人たちに見られたら…。」

 「見ものだな。」

 「おいっ!」

 ダメだ。何を言っても勝てる気がしない。

 半ば、諦めながら尋ねてみた。

 「どうして、彼岸花が好きなんだ?」

 「俺って、ロマンチストだから。」

ともは、いたずらっ子のように笑いながら答えた。

 「は?」

 「花言葉。調べてみろよ。」

 「はぁ…?」

彼岸花の花言葉が、ロマンチック?想像できない。

 「後は、見た目かな。」

 「見た目は、嫌いではないな。」

 「だろ?」

嬉しそうだ。

 私は、はぁ~と、わざとため息をついてから答えた。

 「分かったよ。持っていけばいいんだろ?持っていけば。」

 「おぅ!約束な。」


 私たちは、もう、触れることのできない小指を絡ませ、指切りをした。


 子どもの頃のように。

 初めましての方も、そうでない方も、こんにちは!!Transparenzの佐倉梨琥です!!


 彼岸花。

 何か、『とも』らしくて、意外性の有りそうなもの…と、考えたとき、すぐに出てきました。

 そして、使えるかどうか吟味するため、調べてみました。

 知らなかったことが多く、こんな機会がないときっと知らなかっただろうなと思いました。ちなみに、お墓に持っていってはいけない、というものではないようでしたが、やはり、持っていくのもどうかな…?というような意見が、多かったです。

 あと、花言葉。

 私は、ロマンチックだとは思っていないので、あしからず。ともだから、そう思ったのでしょう。きっと(笑)


 では、また。


 

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