雨、篠突き
私たちは、いわゆる幼なじみというやつだった。同い年のりん…鈴胡と、私とりんより一つ年下のとも…朋和の3人。年の近い子は他にもいたが、大概私たちは、3人でいた。家が他の子達と比べて近かったこともあるが、なにより気があった。この3人で居ると落ち着くし、どんなことをしていても楽しかった。ずっとこんな風に笑いあっていられるのだと、信じて疑わなかった。 けれど、この世に「絶対」というものは存在しなかったのだ。
今でも鮮明に思い出すことが出来る。
―――13年前、夏。
その日は、雨が酷かった。何年ぶりだかの豪雨だと言っていた気がする。
平日だったため、私たちは、いつものように学校に行き、勉強をし、放課後、傘をさしながら、いつものように3人で帰っていた。川沿いの土手道を、たわいないことを話ながら歩く。すぐ横を流れる川は、増水しており、茶色く濁った水が、ごうごうと音をたてながら流れる様子は、少し不気味で、大蛇がうねっているように見えた。そして…。
『おにいちゃん!!』
幼い由美ちゃんの声。『ドボン』という、水に何かが沈むような音。それらが、ほぼ同時に聞こえてきた。私たちは、それを聞いてすぐに駆け出していた。
『どうした!?』
着いたとき、その場には、ごうごうと音をたてながら流れる川を見つめて、泣きじゃくっている由美ちゃんと、川縁ぎりぎりに落ちている、女の子物の傘、そして、川の中で、垂れ下がった木の枝に、流されまいと必死に掴まっている、由美ちゃんの兄、辰巳。
『おにい…ちゃ…ゆみの…かさ…かぜ…とばされ…それで…とるって…。』
泣きながら由美ちゃんが話すのと、どちらが早かったか。ともは、鞄をほうり、川へと走っていく。
『とも!?』
制止を無視して、川へと入っていく。辰巳が掴まっている木の枝をともも掴んだ。そのまま枝先―辰巳の方へとゆっくり歩いていく。水かさは、すでにともの腰の高さを越えており、浮きそうになる足で必死に歩いているようだった。
時間がとても長く感じられた。由美ちゃんは、りんにすがり付き、りんも由美ちゃんを抱き締めながら、じっと二人を見つめる。
あと少し、という所で、これ以上は危険だと判断したのか、ともは歩みを止め、木の枝を掴み直した。そして、辰巳に何か言い、てを伸ばした。辰巳も意を決したように、ともに手を伸ばす。
あと少し。あともう少し。
二人の手が触れ―ともが辰巳の手を掴み一機に引き寄せた。
『やった!』
思わず叫んだ。だが―――
――ボキリ
一瞬だった。
鈍い音とともに、二人が掴んでいた木の枝が折れ――二人はそのまま濁流に飲み込まれていった。
『とも!辰巳!!』
『おにいちゃん!!』
『いやぁぁぁ!!』
悲痛な叫びが辺りに響いた。
辰巳は、少し流れた場所にある窪んだ平地に打ち上げられており、すぐに病院に運ばれた。少し水を飲んでいて、一時危ない状態だったが、無事だった。
ともは、さらに下流で、遺体となって発見された。川幅が広がり、流れが緩やかになっている近くの岸に流れ着いていた。
葬式の時、りんはずっと泣いていた。ずっとずっと泣きじゃくっていた。
けれど、私はそこまで泣くことが出来なかった。ただただ茫然としていた。
いつも、一緒にいた。いつも、3人だった。これからもずっと3人だと、一緒にいるのだと、そう、思っていた。疑いもしないで、あたりまえだと感じていた。変わらないのだと、信じきっていた。
それが、一瞬で崩れ去った。
胸にぽっかりと穴が空くような、というが、まさにその通りだった。『ともがいない』その事実が胸を抉り、閉じようの無い穴を空けていったのだ。
通夜が行われている時、誰かが『朋和らしい。』という呟きが聞こえてきた。なんだよ。朋和らしいって。なんなんだ。そう、憤りを感じながらも、心の何処かで、その言葉に同意している自分もいて、嫌になった。誰が言ったのか。その声のした方を見ると、ともの母親がいた。あれは、自分に言い聞かせるために、呟いたのか。涙がつっと頬をつたった。『ともらしい』。らしすぎて、どうしようもない気持ちになる。
何故、あの時私は、動けなかったのか。ともより先に辰巳の元へ行かなかったのか。それより、見守る以外に出来ることは無かったのか。答えの無い、答えが有ったとしても、もう、どうする事も出来ない質問を、繰り返し、繰り返し、自分に問いかけた。
後悔ばかりが渦を巻き、答えなど何も出なかったが、心に空いた穴を、受け入れることが出来た気がした。
初めましての方にはこんにちは、そうでない方はお久しぶりです!Transparenzの佐倉梨琥です!!
3月中に1章だけは、終わらせるといいながら、ギリギリで…大変申し訳なく…。
今日中には、なんとか…っ?
今回は、過去編です。
この物語は、私が中1のときにノートに書きなぐったものを元にしているのですが、今回の話は、『そんなことがあって…』くらいにしか書いていないので、書きながら、成長してるんだなぁ、としみじみ思いました。
予定では、あと2話で、1章が終わります。
ぜひ、読んでやってください。
それでは、また。