下
――村の者が許せないか。
と、神を名乗る彼は揶揄するように、口元を歪ませて訊ねてきた。
――許すも何も、私にはどうしようもない。
そう思い無視をしようとしたが。
――自分だけ貧乏籤を引くくらいならば、いっそのこと村を無くしてしまわないか。
その言葉に、少女は揺らいだ。
神を名乗る男曰く、永らく放置してきたくせに自分達に何かあったら掌を反すように懇願してきた村人にはもううんざりしたのだと言う。
今回助けてやっても、奴等は同じことを繰り返す。犠牲になるのはお前と同じ若い者で、老害共は何を言われることもなく生き延びる。
――全てを終わらせる気にはならないか?
それは、神と見せ掛けた悪魔の囁きだった。
本来書かれるべき向きとは逆に、巻物を逆さまにして村人の名前を書く。
生き残るべき者達を死ぬべき者達へと書き換える。
どちらにせよ自分は死ぬのだと言われ、少女は正直どうでも良くなっていた。
その日、言われるままに従い、名前を書き終わった。
かたり、と筆を置くと、直ぐ様巻物を奪われた。
「お疲れ様」
労うように言われ、少女は目を見張る。
男性は少女の頭を撫でた。
眠気が襲い、瞼が重くなる。
「眠れ」
――後は私の役目だ。
その言葉に、少女は永遠の眠りへと優しく誘われた。
――村は結局、大雨による山崩れにより全てが土に埋められた。
生存者はなく、外の人間が気付いた時にはかなりの日数が経過していた。
洞窟も入口が崩れ落ちており、中を確認することはできなかった。
――少女が本当に死んだのか、そして神を名乗る男は何処へ消えたのか。
知る者はいない。