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上
災害描写があります。
――薄暗い闇。
洞窟の中、蝋燭の灯りだけを頼りに、白装束を纏った少女は正座で木で出来た台に向かい、白い紙に筆を走らせていた。
名前。
年齢。
住所。
黙々と書き連ねるその顔には、何の感情も浮かべていない。
「――時間だ」
低い声が少女の背後から投げ掛けられた。
「…………」
少女は無言で筆を置いた。
紙はそのままの状態にして立ち上がる。
白い紙はよく見ると色の着いた台紙に貼られており、右側は軸棒に綺麗に巻かれていたが、左側は文字の書かれた面を上に、無造作に地面の上に広がっていた。
「明日で終わるか」
低い声は呟き、その主の腕が伸び、紙を手に取る。
男性だろうか、蝋燭の炎に照らされる横顔は、長い黒髪に覆われている。
だが、酷く楽しげに口元を歪ませているだろうことを、少女は知っていた。
「もう引き返すことはできぬぞ」
「……今更」
言い返す少女の口元も、同様に歪んでいた。