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文化祭が終わって、校舎を出る頃にはすっかり日が落ちていた。それぞれ終わりを惜しむように、だけど楽しげに帰宅していく生徒の中で、校門で1人立っている姿が目についた。
「透」
呼びかけると、にっこりと微笑む。
「無事にまとまったみたいだね」
私達の繋がれた手を見とめて、透は楽しそうな顔をする。反対したり疎遠になったりすることはないみたいだ。
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」
透の言い方に含みを感じたのか、馨が唇を尖らせる。それでも透は余裕がある雰囲気で、わざとらしく首を傾げると、ふわりと口を開いた。
「じゃあ、帰ろうか、ツキ、馨」
「はぁ?」
「約束、だからね」
そう言われると、馨も不満気な声を引っ込めて押し黙る。そして、私達は並んで歩き出した。
「てか、今日くらい2人っきりにしろよ……」
いや、馨は不満をこぼしていた。何だか大きな犬を連想してしまう。大きく垂れたしっぽと耳が見えるようだ。
「初日から羽目外されても困るからね」
「お前は俺の親か!」
馨のツッコミにも、透は笑顔でかわしている。馨も怒っている雰囲気はなく、瞳には笑みが滲んでいる。それは今も昔も変わらない兄弟の距離だ。
そして、透のまるで保護者みたいな言い方に、私も笑みをこぼしてしまう。きっとこれが透の選んだ私達の距離なのかもしれない。
馨との手は繋がれたままだけど、透は手を繋いではこない。
もしかしたら、私達の関係はこれからもどんどん変わっていくのかもしれない。
それでも並んで歩くことができるのなら、きっと幸せでいられる。
不意に馨の握る手に力がこもる。手のひらに温かさが宿るのを感じる。
「どうかした?」
「いや、離れるなよ」
唐突に言われた言葉に、瞬きをする。何だか窺うような視線に、私は自覚した気持ちを込めて頷く。不安が過っても、笑って吹き飛ばしたい。
「うん、大好きだよ」
馨の顔は瞬時に真っ赤になった。でも、何も言わない。透が、尻に敷かれそうだね、とつぶやいたところで、うるせぇ! と反応していた。赤い顔のまま。
3人の間に笑い声が伝播していく。
見上げた夜空には、透き通るような美しい月が、太陽の馨りをまとった光を反射して、私達の帰り道を照らしていた。
完結しました。
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