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月と太陽と  作者: くさき いつき
第1章 三人
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4

 期末テストは終わったのに拭いきれない憂鬱感。

 仕方ないよね、と諦めて文化祭実行委員会のある教室に入った。隣を歩く外村くんは、何を考えているのかよく分からない横顔をしていた。


「ツキ!」


 不意に聞き慣れた声がした。入口のすぐそばの席に透がいた。


「あれ、透も委員になったの?」


「うん、くじ引きで決まったんだ」


 透もこういう引きはいいらしい。


「お互い、ついてないね」


「ツキもくじ引きで?」


 苦笑を浮かべつつ頷く。でも透は嬉しそうな笑顔を浮かべた。


「同じ委員になるのって初めてだな」


「言われてみればそうかも。クラスもずっと別々だし、変な感じだね」


「うん、同じ教室にツキがいるのって不思議だ」


 馨とはクラスが同じなのはもちろん、委員会が一緒だったこともあった。同じ顔、だけど全然違う。ボタンをかけ違えたような違和感がある。

 透と教室。

 どちらも見慣れたもののはずなのに、初めて見る景色。それにも関わらず既視感もある。

 やがて委員会の担当の先生がやって来て、私と外村くんは空いている席に座った。

 文化祭の日程や準備期間について記載されたプリントが配られて、その内容をなぞるように説明された。どうやら夏休みも毎日登校する必要はないみたい。ちょっと安心した。

 先生からの一通りの話が終わると、文化祭実行委員の委員長を決めることになったのだけど、慣例として3年の人から選ばれるので、関係なかった。またちょっと安心した。

 うーん、でもなぁ……。

 文化祭の準備の手伝いをしてくれる人かぁ……。

 もちろん2学期が始まればクラス一丸となって準備をする。でも、それまでの準備をするのは実行委員だけでは難しい。そこでヘルプしてくれる人が何人か必要になる。


「有美は手伝ってくれると思うけど……他に誰かいるかな?」


 隣に座っている外村くんに聞いてみる。だけど返事がなかった。


「外村くん?」


 声をかけ直してみる。でもやっぱり反応は何もない。おかしいな。外村くんの視線は前を向いてるけど、何も目に映していないみたいだった。


「聞こえている?」


「……ん? 何?」


「あ、うん、夏休みの間、文化祭の準備手伝ってくれる人、心当たりある?」


 ようやく反応してくれたことに安堵した。だけど、左手で頬杖をついたまま固まってしまった。

 声は聞こえているみたいだけど……。

 もう1度、聞いた方がいいのかな? いや、でもウザいかな?


「うん、何人か聞いてみるよ」


 不意に声が落ちた。何を考えているのか、よく読めない顔をしていた。


「ありがとう」


 かろうじてお礼を言ってみたものの、何かしっくりとこなかった。外村くんは委員長を決めている3年生の方に、もう視線を戻していた。

 今まであまり話したことなかったけど、おっとり系なのかな? 会話のテンポに慣れるまで大変かもしれない。

 私も前を向くと、透の姿が目に入った。隣の女子と楽しそうに話している。綺麗な子だな……。

 もしも透と同じクラスだったら、どんな毎日だったんだろう。

 10年以上、幼馴染みをしているのに、全く想像のつかない未知の世界だった。


 委員会が終わると、教室内は瞬く間に閑散とした。

 文化祭実行委員の目下の仕事はクラスの出し物決め。明日のHRですんなりと決まればいいんだけど……。

 なんて考えている内に、すっかり置いてけぼりをくらった感。外村くんもいつの間にかいないし。行動が遅いのか速いのか、いまいちよく分からない。


「ツキ?」


 いい加減、自分のクラスに戻ろうと思ったら、声をかけられた。


「あ、透もまだいたんだね」


 座っていた席にもういなかったから、とっくに帰ったと思っていた。


「うん、帰らないの?」


「これから帰るよ」


 頷きながら視線が自然と透の隣に動く。惹きつけられるような、守ってあげたくなるような、儚さのある女の子。


「ああ、ツキは初めてかな? 同じクラスの篠宮さんだよ」


 透の紹介に促されるように篠宮さんは微笑んだ。同じ女子なのに見惚れそうになる。


「篠宮詩乃です。文化祭実行委員同士、よろしくね」


「あ、月島陽菜です。こちらこそ、よろしく!」


 努めて明るく挨拶してみたものの、後が続かない。どうしよう、と思ったけど、篠宮さんは笑顔のままだ。


「水野くんと月島さんは仲いいのね」


「ああ、幼稚園の頃からの幼馴染みだから」


「幼稚園! すごいね!」


 透と篠宮さん。何と言うか2人が並ぶと眩しすぎると言うか、すごくお似合いに見えるよ……。透に彼女がいるとかは聞いたことないけど。


「あ、じゃあ、私、クラスに戻るよ」


 話がまだまだ弾みそうな2人を見て、私は離脱を宣言した。

 だけど、透はにこやかに続けた。


「せっかくだから一緒に帰ろうよ」


 もちろんそれは構わないのだけど……朝は毎日一緒に登校している訳だし。でも、いいのかな、って気後れした。透の隣の篠宮さんは、相変わらず笑顔だった。

 結局、積極的に断る言葉も思い浮かばなくて、私は頷いていた。


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