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月と太陽と  作者: くさき いつき
第10章 告白
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 学校は普段とは別世界みたいだ。昨日だって見ていたはずなのに、日中だと余計に違和感が際立つみたいだ。学校全体がテーマパークみたい。手作り感が溢れているはずなのに、それさえも人工的な匂いが薄くなるせいか、非日常を助長するみたいだ。

 レースとフリルで飾り立てられた教室なんて、その最たる例かもしれない。ここで普段は勉強しているなんて、とても思えない。


「じゃあ、また後でね」


 透とは文化祭実行委員の関係で、今日明日は顔を合わす機会も多いだろう。特に約束はしていないけど、そんな思いで声を掛けたけど目の前の顔が少し眉を顰める。


「ああ」


 頷いたのを見ると、私は教室に入る。いつもより早い時間だったけど、それなりに集まっている。外村くんと有美も来ていた。


「おはよう」


「おはよう、陽菜」


 有美の明るい声は、でもすぐに曇った。


「あれ、馨くん、朝から疲れてる?」


「いや、そんなことはないけど」


「そう? 寝不足?」


 一緒に登校している間、馨に疲れている様子はなかったはずだ。2人の会話を不思議に思い、馨の顔を見てみるけど、顔色はいつもと変わらないように……見える。なんだろう。もう見慣れている顔のはずなのに、変化があったかどうか自信を持てない。目をこすってみても、表情は変わらない。


「月島さん、そろそろ集合時間」


 外村くんが端的に告げてくる。文化祭の開会式なるものが体育館で行われるので、文化祭実行委員にはその準備もある。と言っても昨日までに準備は終わっているので、あとはマイクの調整などの最終確認だけだ。


「うん、分かった」


 後ろ髪を引かれる思いがしつつも、仕事はきちんとしなくちゃいけない。私は外村くんとともに教室を後にした。出る間際、横眼に教室を見たけど、表情はよく分からなかった。

 廊下はまだ始まっていないのに、すでに祭りの空気が漏れ出している。もうすぐ始まるのだ、と昂揚してしまう。

 それはまだ実行委員しかいない体育館でも同じだった。マイクの調子、ライトの向き、パイプ椅子の位置、1つ1つ確認する度に気持ちがあがる。1歩ずつ、確実に助走をつけていくように。

 やがて文化祭実行委員以外の生徒たちも体育館に入ってくる。クラスごとに点呼が取られ出席確認が終わると、いよいよ文化祭の開幕だ。

 基本的に生徒主導で行われる文化祭では、校長先生の長い話はない。代わりに生徒会長からのお言葉がある。と言っても固い言葉はない。いや、諸注意みたいのは2、3あるにはあったんだけど……。


「お前ら! 2日間、盛り上がっていくぞ! 青春すんぜぇ!」


 拳を振り上げて雄たけびを上げていた。


 青春!


 普段なら鼻で笑われそうな言葉だったけど、体育館には祭りの雰囲気が充満している。故に拍手と歓声があがった。私も気づけば拍手していた。すっかり生徒会長の勢いと周囲の空気にあてられてしまっていた。

 辺りを見回すと、みんな、上気した頬をしていた。

 ……いや、違う。

 心ここにあらずな顔をしている生徒がいる。見慣れたはずの幼馴染の双子の顔は、周囲から浮いていて、でも薄い膜が張られているかのようにぼやけていて、上手く焦点が合わない気がした。

 馨? ……透?

 なんだか落ち着かない気分になる。文化祭の高揚感に打ち水をかけられたような、ひやりとした不安が広がる。

 顔をまっすぐに見ることが出来ない。

 生徒会長が去った檀上には、体育館で初めに出し物を披露する合唱部が準備を始めていた。気づけば生徒たちは三々五々に散っていた。特に用事がない生徒はこのまま合唱を聞いていくみたいだけど、各自の持ち場に移動していく生徒が多いのだ。

 得も言われぬ不安を振り払うように、私も歩き出した。

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