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月と太陽と  作者: くさき いつき
第10章 告白
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 文化祭1日目の朝は、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。

 楽しみで仕方ないというより、じっとりとした不安があって、眠りが浅かったせいかもしれない。とにもかくにも遅刻するよりはいいだろう。

 いまいち疲れが取れていない気はしつつも、私は朝の身支度を整えていく。


「あら、今日は早いのね」


 1階に下りると、和恵おばちゃんに感心したように声を掛けられた。


「うん、文化祭だし」


「じゃあ、あんまり時間ない?」


 普段より少し早めに出ることにはなるけど、昨日の内に準備は終えているので、今の時間なら十分に間に合う。


「大丈夫」


「そう? じゃあ、ご飯、しっかりと食べていきな」


 言われて食卓を見ると、白いご飯に味噌汁、鮭の塩焼き、ほうれん草のおひたしといった純和風の料理が並んでいた。途端に空腹を覚える。鳴りそうになるのをぐっとこらえる。叔母の前であっても、やっぱり鳴ると恥ずかしい。

 納豆は、一応接客するわけだし、諦めたほうがいいかな。納豆の口臭がするメイドというのはイメージから少し離れる気がする。どんな香りなら正しいのかは分からないけど……。顔を洗い終えて食卓についた私は、そんなことを考えていた。納豆好きだけども! 白米だけでも美味しいし!

 私のささやかな葛藤など素知らぬ様子で、和恵おばちゃんは朝の仕事を着々とこなしていく。掃除に洗濯に。もう少し手伝えるようになろうと思う。


「今日はお母さんは?」


 洗濯機を回している間、一息ついた和恵おばちゃんにふと気になって聞いてみた。


「今日は会ってないわねぇ。相変わらず忙しいみたいね」


「そっか」


 短く頷いた声は、思いのほか残念さが滲んでいたのだろうか。


「明日の文化祭は一般開放日だっけ? 時間があれば見に行くって前に言っていたよ」


 そんなフォローをされた。その優しさに頷きつつも、私は母の忙しさも分かっているので、実際は難しいだろうなと半分諦めていた。

 朝食を済ました私が洗面台の前で最終チェックを行っていると、チャイムの音が鳴り響く。自然と鼓動が速くなるのを感じる。1度、深呼吸をする。

 鞄を持って玄関に向かうと、見慣れた2人の男子の姿。


「おはよう」


 2人の男子はよく似た笑顔を浮かべた。


「おはよう、今日は寝坊してないんだな」


「おはよう、ちゃんと起きていて良かったよ」


 随分な言われようである。そんなに言われるほど寝坊はしていない……はず。

 私は2人の顔を見た。日差しを受ける黒髪はさらさらと艶めいている。まぶしい。パチパチと瞬きをする。2人の輪郭が少しはっきりとした気がした。


「ヒナ、寝ぼけてんのか?」


 私の様子に首を傾げている。慌てて首を横に振る。


「ううん、ご飯もばっちり食べたから大丈夫!」


「そうか?」


 訝し気なまなざしを笑顔で受け流すことにする。そんな私たちを取り成すようにして、穏やかな声が聞こえる。


「じゃあ、ツキ、そろそろ行こうか」


「うん、遅刻したらいけないもんね」


 ヒナとツキ。

 ほんの少したれ目。そしてつり目。並んだ瞳は似ているようで、確かに違うものだ。私の視界が徐々にクリアになっていくのを感じる。


「いってらっしゃい」


 和恵おばちゃんの言葉に押し出されるようにして、私たちは歩き出した。

 見上げた空は、雲1つない快晴の青。だけど、夏のような強さはない。日差しが緩やかで、空の青も落ち着いて見えた。確かに秋空だったのだ。

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