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月と太陽と  作者: くさき いつき
第9章 前夜
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 文化祭の最終日には後夜祭がある。と言われて、キャンプファイヤーを囲んで踊るイメージが1年生の時は浮かんだけど、実際は体育館で有志の生徒の出し物を見て締めくくる感じのものだ。何でもキャンプファイヤーは後始末が大変だし、近隣住民からの苦情も少なからずあったとかで、何年か前に取りやめになったそうだ。

 現実ってこんなものよね……。

 ちょっと寂しい気もしつつ、文化祭実行委員となった今年に限って言えば、キャンプファイヤーの後始末をしなくて済むのは、確かに助かる。

 とはいえ本祭の後にも作業があることに変わりはない。有志の出し物も事前に募ってまとめなくちゃいけない。


「じゃあ、よろしくお願いします」


 その有志である所のバンドマンたちとともに、体育館に来ている。

 当日は、午後4時に本祭が終わり、その後、簡単な片付けをして午後5時から1時間半ほど後夜祭になる予定だ。楽器等の準備時間も考えてみると、結構慌ただしい。

 ライブの他にも漫才や合奏があったりするし。透と篠宮さんが、漫才の人たちと当日の段取りを話し合っている。

 余興だから、きっちり時間を決める必要もないんだけどね。下校時刻が遅くなりすぎると、色々と危ないだろうし。最近はすっかり日が暮れるのが早くなった。


「ギターアンプってこの辺り?」


 そんな会話をしながら、体育館の檀上に目印のビニールテープを貼る。これで当日、速やかにセッティングできるようにするらしい。

 私自身は楽器に詳しくないので、どの機材が何を意味するのかよく分かっていない。実行委員長やバンドマン(3年生?)の指示に従って、目印を張っていくだけだ。

 意外なのは、外村くんがテキパキとセッティングしていることだ。


「外村くんって、ギター弾いたりするの?」


 思わず聞いていたのだけど、首を傾げられた後に、横に振られた。


「したことないよ?」


「その割には詳しそうだね」


「ああ、前に映研で音楽ものを撮った時に手伝ったから」


 そっか。外村くんは映画研究部と繋がりがあるんだった。しかし、メイド服を持ち、音楽機材にも詳しくなる部活とは。一体、どんな作品を撮っているんだろうか。


「映研って、文化祭でも何か上映するのかな?」


 申請があったかな、と思考を巡らしてみる。けど、すぐに出てこない。


「今年は、金田一のオマージュを撮るとか言ってプールでシンクロに挑戦していたよ」


 湖で逆さまになる練習でもしたのかな?

 想像してみようと思ったけど、映画研究部の作品がますます分からなくなった。とりあえず文化祭当日に見てみようと決めた。

 やがて前準備も粗方終わったところで、ボーカルの人が口を開いた。


「今年って告白タイムってやるの?」


「こくはくたいむ?」


 唐突な言葉に、一瞬何を言われたか分からなかった。


「去年と同じなら、全部終わった後かな?」


 困惑する私の隣に、いつの間にか透がいた。漫才の人たちとの打ち合わせも終わったらしい。


「そっか」


 一言だったけど、ボーカルの人の顔は嬉しそうだった。ほのかに緊張の色も混じる。途端に周囲に微笑ましい空気が流れる。

 こくはくたいむ。……そう、告白タイムだ。

 言われてみれば、去年も後夜祭の後にステージ上で告白してカップルになった人たちがいた。公式なプログラムではないけれど、青春の1ページとして文化祭に組み込まれている。裏メニューみたいなものだ。

 告白、か。

 そっと隣にいる透を見てみる。文化祭の前日に至る今日まで、透が想いを言葉にしてくれることはなかった。このまま3人で、幼馴染みのままでいられるのかな。

 ほっと安心するようでいて、それはとても残酷なことをしている気もする。

 不意に透の視線が私を捉える。逸らすこともできず、見つめ合うような感じになってしまった。


「じっと見て、どうかした?」


「ううん、何でもない」


 私は小さく首を振る。透はそっと笑みを落として、ボーカルの人を見る。


「あんなふうに、まっすぐになれたら良かったのかな」


 ぽつりと呟かれた言葉は、私に向けたものだったのか。掛ける言葉が出てこなくて、透の横顔を見る。だけど、上手く感情を見つけることができない。

 何も言えない。だけど、透の隣にいる。せめてボーカルの人の想いが成就すればいいな、と願う。

 体育館に差し込む夕日は少しずつ色を濃くしていった。

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