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月と太陽と  作者: くさき いつき
第1章 三人
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3

 テストの結果は考えないことにしよう……。

 深い溜め息はテスト終了のチャイムと、教室に広がるざわめきにかき消された。と思ったのに、馨にはばっちり聞かれていたみたいだ。


「何、しけた顔してんだよ!」

 

 解放感に溢れた顔で、私の席の前までやってくる。


「馨は余裕たっぷりの顔だね」


「サッカーができるからな!」


「数学の出来には自信があるの……?」


「サッカーのこと考えたら、それどころじゃねぇよ」


 深くは聞かない方がいいらしい。


「部活の前にHRがあるんじゃなかったっけ」


「つまんないこと思い出させるなよ」


 ちょっと水を差してしまったのかもしれない。ごめん、と言おうとしたら隣から声がかかった。


「相変わらず仲良いね、あんたら」


 有美だった。1年も同じクラスで、1番親しい友達、だと思う。


「なのに何で付き合わないのかしら。透くんとのトライアングルもいいけど、そろそろ進展が欲しい所ね?」


 私と透と馨の関係を観察するのが趣味というのが困り所だ。


「吉沢も飽きねぇな。俺らはずっと幼馴染みだっつぅの!」


 馨も有美には慣れたもので、呆れている感もある。


「だって、双子で! 幼馴染みで! 男と女とくれば! 何かありそうじゃない!」


「ねぇよ!」


「そうかなぁ」


 有美は有美で、馨のちょっときつい返しにも慣れている。むしろ楽しんでいる気さえする。今もニヤニヤ顔が貼りついている。


「でも、まぁ私達の間には有美が期待するようなことはないよ」


「そうかなぁ」


 今度は残念そうな顔でつぶやく。


 本当に何もない。ただの幼馴染み。それ以上でもそれ以下でもない。

 だけど、周囲はどうしてもそう思ってくれないらしい。有美ほど露骨じゃないにしても、3人の関係は幼稚園の頃からずっと聞かれている。中学生になった頃からは特によく聞かれるようになったと思う。

 ちらりと馨の横顔を盗み見る。

 悔しいけど、周りの女子が騒ぐのを納得しないといけない顔をしている。


「なんだよ?」


「ううん、何でもない」


 馨は首を傾げたけど、口を開くより先に先生が教室に入ってきた。

 馨と有美が自分の席に座る頃には教室は静まり返っていて、代わりに先生のよく通る声が響いた。


「まずはテストお疲れ! けど早速お前らには決めてもらわにゃならんことがある!」


 視線があちこちで交錯するけど、誰も口を開かない。先生はゆっくりと教室内を見渡してから宣言するように言った。


「文化祭実行委員を決めてもらう!」


 文化祭……。

 実際に開催されるのは10月だけど、夏休みの間から準備を進める必要がある大きなイベントだ。校外から訪れる人も多く、地元の人からも愛されているお祭りだと思う。

 ただそれだけに色々と面倒事も多いんだけど……。

 教室内を見回すと、誰かが立候補する雰囲気はなかった。そりゃあ夏休みにわざわざ学校に来たくないもんね。

 自然と私の視線も落ちてきて、前の席の子の背もたれを意味なく眺めている。


「誰か立候補してくれるといいんだけどな~」


 さして困ってもいないような先生の声。


「誰もいないならくじ引きで決めるぞ~」


 先生の目の前には既にくじが入っているであろう箱があった。教室に入ってきた時に、そういえば何か抱えてたな、と今更のように気付いた。

 くじか……。

 嫌な予感しかしない。

 お正月のおみくじでは大凶を引いちゃうような私だけど、こういうくじ引きだけは、妙に引きがいいのだ。

 目の前の背もたれを睨みつける勢いで凝視する。

 日本には八百万の神様がいるっていうなら、この際、椅子の神様でもいい。私の願いを聞き届けてください。夏休みは遊びたいんです。予定は……特にないけど!

 ぐっと祈りを捧げた、力いっぱい。


 しかし所詮は椅子の神様。

 腰痛の改善ならもしかしたら願いを聞き入れてくれたかもしれないけど、文化祭実行委員回避には何の効き目もなかった。


「――と言う訳で男子は外村、女子は月島でよろしくな。今日、早速委員会があるから忘れず行くように!」


 そっと溜め息をついた。

 私の夏休みの予定は文化祭実行委員に決まった。


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