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月と太陽と  作者: くさき いつき
第8章 変化
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3

 何かを話しかけて口を閉じる。

 ここ数日、そんな馨によく遭遇する。悩みがあるなら相談に乗ろう、と思うものの無理に聞きだすのも違う気がして、首を傾げる毎日だ。

 文化祭準備に忙しい私と、部活に忙しい馨。そのせいで同じクラスなのに、上手く話すタイミングを掴めないということもある。テスト期間中だったら一緒に登校できるから、その時に聞けたのかもしれない。

 ただ透はどうなんだろう。

 馨の様子について透も思う所があるはずなのに、特に話題に上がることがない。私から振ってみても、さり気なく別の話題に誘導されてしまう。気のせいかな……。


 今日も今日とて朝練のために先に登校した馨とは、まだ会えていない。というか、そろそろ朝のホームルームの時間になるのだけど……。

 気になって視線を教室の入り口に向けると、廊下の方が少し騒がしいことに気付く。

 何かあったのかな?

 その理由はすぐに教室に現れた。ふわりと窓からの風に揺れる黒髪。

 透。

 ……じゃない。馨だ。

 馨の髪色がアッシュブラウンから黒に戻っていた。高校入学と同時に染めていたから、中学までの馨を知らないクラスメイトは、驚きと違和感があるのだろう。

 何より黒髪だと透との差異がパッと見、なくなってしまう。日焼けや目元の違いは、実際に並んで見ないと意外と認識しにくいみたいだ。透なのか、馨なのか、という声がちらほら聞こえてくる。


「よお」


 周囲のざわめきを気にするふうでもなく、いつも通りに声を掛けてくる馨。


「おはよう、髪、どうしたの?」


「気分?」


 とりあえず聞いてみたけど、曖昧な答えしか返ってこなかった。まぁ、でも、そんなものなのかも? 失恋したら髪を切るなんて言われたりするけど、実際に失恋して切っている人ってあんまりいない。少なくとも私は会ったことはない。大体は長くなったから切るって感じだし。髪を染めるのも戻すのも似た感覚なのだろう。


「似合う?」


 そんな女子同士のやり取りみたいなことを言ってくる馨の顔は、ここ最近の中では1番にこやかな気がした。


「似合うというか、懐かしい気がするかな」


「まだ2年も経ってねぇだろ」


 笑みを浮かべる馨の顔は、だけどやっぱり懐かしい気がする。馨の言う通り、中学を卒業してからまだ2年も経っていないというのに。

 なんでだろう?

 確かめたくなって、馨の顔をじっと見ようとしたけど、先生がやって来て確認することはできなかった。

 前の席に座る馨の背中は透とそっくりで、何だか不思議な気分はした。見慣れているはずなのに。


 馨の変化に対して、周囲は私以上に敏感だった。休み時間になるなり、有美が私の席までやってきた。訝しげな顔で、囁く。


「ねぇ。あんた達、何かあったの?」


「え? なんで?」


 馨だけならまだしも、何故私も含めての話になっているんだ。有美は周囲を気にするように更に声を潜める。


「最近さ、陽菜と透くんが付き合い始めたって噂になっているでしょ」


「えっ!」


「そこにきて今日の馨くんの髪色だからね?」


「へっ?」


 立て続けに言われたことに目が点になる。つまり、どういうことだ。馨は失恋した女子が髪の毛を切るように、髪の毛を染め戻したとでも思われているのだろうか。それで周囲がざわついていたということ?

 それ以前に私と透が付き合っていることになっている?


「一体どうしてそんな流れになっているの……」


 私の戸惑いを受けてか、有美もちょっと困っているようだ。周囲の噂を私自身もある程度把握していると思われていたのかもしれない。


「えっと、2学期になってから陽菜に猛アタックしていた透くんが最近落ち着いて、でも凹んでいるふうでもなかったからね」


「それだけで……?」


 首を傾げる私に、有美は困ったような顔をする。


「あとは花火大会で透くんと陽菜が一緒だったっていう噂もあってね」


「馨と篠宮さんも一緒だったよ!」


 花火大会で透の友達に会った時に危惧したことは、現実になってしまっている。


「えっと、それで、私と透が付き合っていると?」


「そう、で、馨くんは失恋したと」


 何か話が飛躍していない?

 透も馨も私に恋愛感情を抱いていること前提になっているんだけど……。確かに透からはそれっぽい話はあったけど、馨からは特にない、はず。

 でも、この間の委員会でのやり取りの意味もようやく分かった。彼氏彼女なら一緒に回りたいと思っていると、気を使われたりしちゃうわけだ。篠宮さんは噂を現実にするために後押ししただけのような気もするけど……。篠宮さんの行動は私では分からないことも多いので、何とも言えないけど……。

 納得と困惑を深めた所で、次の授業を告げるチャイムが鳴る。有美はまだ何か話したい様子だったけど、素直に元の席に戻っていた。

 さて、私はどうしたらいいんだろう。戸惑いを振り払うように一先ず授業の準備をした。

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