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月と太陽と  作者: くさき いつき
第7章 距離
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1

 9月になったからといって、急に秋めいてくることはないんだよねぇ。どう見ても夏の青空だ。制服もまだまだ夏服が活躍しそうだ。


「ヒナ、どうかしたのか?」


 教室から窓の外を見つめすぎたらしい。馨が首を傾げて、私の席までやってくる。


「別にどうもしないよ。まだ夏だなぁ、と思っていただけ」


「ま、晴れてくれるならいいさ」


「今日もサッカーの部活なの?」


「もちろん」


 馨は嬉しそうに微笑む。改めて見ると夏休み前より日に焼けている気がする。


「あんたたち、余裕ね」


 声のした方を向くと、有美が呆れたような顔をしていた。何だか少し疲れているようで、心配になる。


「有美、大丈夫?」


「大丈夫か大丈夫でないかでいうと、微妙よ」


「実力テストで失敗でもしたのか?」


 馨はあっけらかんとした様子だ。夏休みの宿題で頭を抱えていたことが嘘みたいに、明るい。昨日の始業式の後、部活がすぐに始まったからストレス発散できたのかもしれない。


「失敗ってわけじゃないけど、微妙だったなぁ、って」


 有美も言葉以上の意味はないらしく、本当に微妙な出来らしい。かく言う私も、会心の出来には程遠い。2学期2日目に行われる実力テストは定期テストと違って、5教科を一気に1日で行う。その為、集中力も試される試験なのだ。

 正直に言って疲れた。出来ることなら早く帰りたい。


「まぁ成績に影響しねぇだろうし、気にすんな」


 馨は雑に励ましている。本当に成績に影響しないのだろうか……?


「サッカーがあるってだけで現金ね」


「まぁな」


 全力の笑顔は、少し眩しい。ちょっと呆れつつも、私は安心もしていた。夏の選手権の敗退を引きずっている様子はもうないようだ。馨の実力テストの出来は推して測るべしなんだろうけど、本人が気にしてないなら大丈夫だよね?

 ……やっぱりちょっと心配かも。


「ヒナは今日も委員会だっけ?」


 人の心配をよそに、馨は私の憂鬱の種を的確に突いてくる。


「うん、この後あるよ」


 2学期も始まったばかりで、夏休みの最後の委員会から改めて報告することもないと思うんだけど……。準備は明日から本格的に始まるので、その前の決起集会の意味合いが強いのだろうと思う。


「2学期になっても文化祭って実感湧かないけどね」


 有美の嘆息に全力で同意したい。文化祭は10月にあるので、実際の所、準備期間はぎりぎりだ。でも、実感としてはまだ先のような気がしている。というより先であってほしい。明日から忙しくなるのかと思うと、やっぱり気が滅入る。私はお祭りを楽しむ才能に欠けるようだ。

 思わず溜め息をつきそうになった所で、見慣れた顔が現れた。


「ツキ、そろそろ委員会だから行こうか」


 別のクラスにいるはずの透だった。馨と並んで見ると、肌の白さが際立つ。双子でも夏休みの過ごし方は真逆だったのだろうと分かる。


「透? わざわざクラスにまで来るなんて珍しいね?」


 驚きは言葉になってこぼれていた。昨日も今日も3人で登校しているお陰か、受け答えは大分自然に戻ってきたと思う。けど、首を傾げられると困惑する。


「珍しいかな?」


 えーと、私の記憶の通りなら、委員会前に教室にわざわざ来ることはなかったような……。でも、今までの文化祭実行委員会ってほとんど夏休みだったしな。授業がある日ならこれが普通? いやいや、わざわざ他のクラスに迎えにくるって変でしょ。この後、委員会で顔を合わす訳だし。


「まぁいいや、仕度できたなら行こう?」


 いつもと比べるとやや雑で強引な気もしたけど、拒否するようなことでもないと思い直し、私は頷いていた。


「じゃあ、有美、馨、委員会行ってくるね」


「うん、いってらー」


 委員会を終えたらすぐに帰れるように鞄を持った私に、有美は軽い調子で手を振ってくれる。だけど、馨は何も言わず怪訝な顔をしていた。それでも手だけ振っている。

 奇妙だ。

 確認したい衝動に駆られたけど、透はすたすたと歩いていってしまう。透も馨の顔は見たと思うのだけど……。迎えに来てくれた手前、引き戻すこともできず、私は結局透について教室を後にしていた。

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