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月と太陽と  作者: くさき いつき
第1章 三人
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2

 SHRに間に合う最終の電車に何とか乗ることができた。

 この時間になると学生はもちろん、会社に行く人もめっきり減って、ちょっと空いているのが嬉しい。それでも座れなくて、3人で吊革につかまっているけど。

 冷房ががんがんに効いていて、瞬く間に汗が引いてくれたのも嬉しい。幼馴染みとはいえ、汗臭い状態のままで横に並ぶのは何だか恥ずかしかったから。いや、2人とも今さら気にしないだろうけど。

 ふと左隣を見ると、空調のすぐ下にいるらしい透の髪が、風でふよふよと動いていた。


「何、見てんの?」

 

 視線に気付いたらしい透が首を傾げる。


「あ、髪の毛が気になって……」


「寝ぐせついてる?」


「ううん、揺れてるから」


「ん?」

 

 ますます訳が分からないって顔をする透に説明しようとしたら、右隣から声が上がった。


「あ、ほんとだ! 風でてっぺんの髪、揺れてるぞ!」


「あぁ、なるほど」

 

 馨の指摘に透が空調の方を見やると、それにつられるように髪の毛が揺れる。

 やわらかそうな髪だな……。 

 不意に手が動きそうになるけど、すんでのところで止まる。


「近くに妖怪でもいたりしてな」

 

 私のささやかな葛藤に気付くはずもなく、透は間の抜けたことを言っている。


「お前の髪は妖怪アンテナかよ!」


「馨も双子なんだから、妖怪いたら分かるかもよ」


「俺は妖怪よりも数学の答えが瞬時に分かる頭が欲しいよ」

 

 大袈裟に溜め息をつく馨に、力いっぱい同意するしかなかった。


「私もそんな頭があったらなぁ」

 

 今朝の勉強机の惨状が過って、嘆息してしまう。


「ツキも馨も徹夜したんだから大丈夫なんじゃないの?」

 

 さらっと言う透の顔は、嫌味でも何でもなく本当に思っているようだった。きょとんとしている顔がちょっと可愛かった。


「徹夜したぐらいでどうにかなりゃあ苦労はしねぇよ」


「そうなんだ」


「ったく、これだから特進は」

 

 呆れたように毒づく馨は文系クラスだ。透は特別進学クラス、略して特進。双子でも頭の良さまでは一緒になるわけじゃないらしい。

 ちなみに私も馨と同じ文系クラスだ。考えてみれば馨とは小学校からずっとクラスが同じだから、ちょっと感慨深い。


「てか馨も徹夜してたんだね」


「ワリィかよ。数学は苦手なんだよ」


「いや、その割には元気だなぁ、と思っただけ」


「徹夜しようと思ったけど、寝落ちしてたんだよ」

 

 ここまで同じ状況だと笑えてくる。玄関先で図星を指された理由も何となく分かってしまう。


「でもテストが終われば、またサッカーできるから頑張るさ」


「テスト終わったら、すぐに試合があるんだっけ」


「おう。透も今日から部活か?」


「いや、文芸部は週3回だから。強制じゃないし」

 

 サッカー部の馨と文芸部の透。運動面では馨の方が昔から成績が良かった。これはこれである意味双子としてバランスが取れているのかもしれないって思う。

 一生懸命にボールを追いかける馨の姿が目に浮かんだ。


「馨の試合の日はまた応援に行くね」


「ああ!」

 

 快活に笑う顔は髪の色が変わっても同じだ。

 テストが終わったら何しよう、と話し出せば数学の憂鬱も泡となって消えていく。

 規則的に揺れる電車に連れられて、見慣れた景色が流れていった。


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